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固溶化(溶体化)熱処理

鋼は鉄(Fe)中に炭素その他の合金元素が固溶しています。
これを加熱してオーステナイト状態にして急冷すると、炭素量が高い鋼種は焼入れされて硬くなりますが、 オーステナイト系ステンレス鋼などのように、炭素量が少なくて(たとえば0.1%以下)、オーステナイトを安定にするマンガン(Mn)ニッケル(Ni)クロム(Cr)などの元素が多い鋼種は、オーステナイト化する温度から急冷することで、常温でも (あるいは0℃以下でも)オーステナイトの状態が維持されます。

その熱処理を固溶化熱処理または溶体化熱処理といいます。(このHPでは、合金を固溶させるために溶体化処理をする・・・というように表現しますが、固溶化も溶体化も同じように用いられます)

溶体化処理パターン

固溶化・溶体化とは、素地の中に合金元素を溶け込ませた状態にする・・・という意味合いです。

オーステナイト系ステンレスでは、製品として販売されている状態では、この溶体化処理が行われているのが普通です。

常温でオーステナイトの状態のオーステナイト系ステンレス鋼は、耐熱性、耐酸化性、耐食性(耐薬品性)、耐低温性などに優れていますが、確実にオーステナイトの状態にするために溶体化処理をします。

溶体化処理は、以下の温度に品物を加熱して、急冷する・・・と表現されますが、急冷とは、通常は「水冷」をいいますが、品物が小さい場合や合金量が多くて炭素量が少ない鋼種は、油冷や空冷でも問題なく溶体化しますので「急冷」という表現になっています。
オーステナイト系ステンレスと溶体化温度

これらの鋼種を比較すると、炭素量が少ないほど、またマンガン、ニッケル、クロムなどの合金元素が多いほどオーステナイトの安定度は高いのですが、そのために、鋼材価格も高価になります。

また、オーステナイト系ステンレス鋼と言っても、鋼種(成分)によって、酸化、耐食、耐薬品、耐低温・・・などの適応性や対応性が異なるので、鋼種を選ぶ場合は「何に優れているのか」をみて選択する必要があります。

それもあって、非常に多くの鋼種があるのですが、実情では、流通している鋼種はそんなに多くはありません。

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これらの多くがアメリカで開発されたのですが、鋼種番号に統一性がなく、JISでも同じ番号で規定されていて、非常にわかりにくい状態です。

おおまかに分類すると、SUS***の***部分が300番台がオーステナイト系の鋼種です。

しかし、紛らわしいことに、 200番台でオーステナイト系に分類されるものもありますし、300番台でもオーステナイト系でないものもあるので注意する必要があります。

これもあって、すべてを覚えるのは大変ですし、多くは流通していないので、必要な鋼種名が出てくれば覚えていく程度でいいと思います。 

よく出てくるオーステナイト系ステンレス鋼の鋼種名はSUS304、SUS316、SUS316L、SUS310・・・などで、そんなに多くはありません。(→こちらも参考に)

固溶化熱処理での不具合

オーステナイト化温度から冷却するときに、急冷されずに冷却が遅くなると、加工性(特に延性)や耐食性などの特性が低下する不具合が発生します。

これは、冷却時に、炭化物が結晶粒界に析出などで、それが耐食性などに悪影響を及ぼすのですが、熱処理冷却時だけでなく、500℃以上になる使用環境で使っていると、正常に溶体化されていても同様の現象が起きます。これを鋭敏化するといいます。

特に形状が大きい品物や高温で使用する品物はに対しては、このような鋭敏化の問題がおこるこのことを覚えておく必要があります。

さらに、品物が大きい場合などで、水冷で溶体化処理をしても、十分に溶体化しない場合は、安定性の高い鋼種を選ぶ必要があります。

たとえば、オーステナイト系ステンレスで最も多く使用されているのは 18-8ステンレスと言われるSUS304ですが、これは、「準安定系」と呼ばれる、比較的オーステナイトの安定性が低い鋼種ですので、強度の機械加工を加えたり、-150℃程度の極低温に長時間さらすと、マルテンサイト変態して、オーステナイト状態でなくなることが知られています。
また、強度の塑性変形を加える加工をすると、しばしば磁化することもあります。

このようなことを回避するには、炭素量の少ないSUS304Lや、オーステナイト安定度の高いSUS316などを用いるようにします。

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オーステナイト系の鋼が着磁をすると厄介です。 

通常の焼入れ硬化する鋼は、交流式の脱磁機を用いて、比較的簡単に磁気を取り除くことができますし、熱処理的にも、オーステナイト化温度以下での応力除去(低温焼きなましなど)や磁気変態を利用した変態点以下での熱処理による「脱磁」ができるのですが、 SUS304などのステンレス鋼が磁気を持つと、簡単に完全除去ができない場合も多く、根本的には、再度、溶体化処理をしないとそれを解決できません

交流式脱磁器の例写真協力:第一鋼業(株)

ただ、溶体化処理(または再溶体化処理)をすると、溶接品や薄い品物などでは熱処理時の変形がおきて、品物をオシャカにする場合もあるので、この点に注意しておかなければなりません。

鍛造品では鍛造後の焼なまし状態の確認は重要です

熱間鍛造して成形されたステンレス鋼の品物は、鍛造後には、簡易的な低温焼なまし(これは「割れドメ」と言われています) だけを行って、溶体化処理をしていない場合があるので、オーステナイト系ステンレス鋼の鍛造後に、どのような熱処理がされているのかに注意をしておく必要があります。

しばしば、オーステナイトステンレス鋼を鍛造成形した後に、簡易的な「割れの防止(割れドメ)」のための焼なましを行うだけで、溶体化処理をしていないと、耐食性や耐酸化性が劣っています。 この場合には、耐食性等の改善のために、改めて「固溶化熱処理」を行う必要があります。(→こちらの焼なましの記事も参考に)

材料購入時は、熱処理履歴を確認することは重要で、これは、オーステナイト系ステンレスに限らず、鍛造製品を機械加工しようとする場合は、鍛造後にどんな熱処理が行われたいたのかという「熱処理履歴」を確認することに留意してください。

オーステナイト系ステンレス鋼などは「溶体化処理」が必要ですし、焼入硬化する工具鋼類では、「完全焼なまし」をして、軟化と結晶粒の調整をする必要があり、不完全な熱処理のまま後の工程を進めると、加工が困難であったり、予想しないような短寿命になってしまう場合も出てきます。


水靭(すいじん)処理

オーステナイト系ステンレス鋼の多くは、低い硬さのものがほとんどですので、他の焼入れ鋼に比べると耐摩耗性に劣ります。 

しかし、高マンガン鋼と言われる高炭素で高マンガンの成分系のオーステナイト化した鋳鋼に「ハイマン鋳鋼」などとよばれるものがあり、土砂摩耗(ABRASIVE WEAR)に強いもので、これについても、ステンレスの溶体化と同じような処理をします。 これは「水じん処理」とよばれる、オーステナイトの安定化処理です。

水靭処理は、指定の温度に加熱後に水冷します。

その状態では、全体はオーステナイト状態になって柔らかくなっていますが、高炭素のために、それをハンマーなどで打撃したり、掘削工事中に部品表面が変形を受けると、表面だけがマルテンサイト化して、非常に硬くなって耐摩耗性が付与され、変形を受けない内部は、柔らかいままで「じん性」が高い状態のために、大きな力で土木切削工事をしても、破壊しない工具になります。

私自身は、パワーショベルの先などに、高炭素・高マンガンのオーステナイト系の肉盛り棒を使って、掘削工具の先端に肉盛りした機械部品の水じん処理を経験しましたが、柔らかくなっているはずなのに、バイトなどでの切削加工はできず、グラインダーで成形をして仕上げ加工をしないといけないという、とても変わった材料ですが、これは鋼の範疇ではないので、詳しい内容は省略します。

このように、塑性変形させることで生じたマルテンサイトを 「加工誘起マルテンサイト」と呼ばれることもあります。

 →次ページ  合金鋼の焼入れについて

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