あとがき
このHPは、2003年(平成15年)頃から第一鋼業(株)のHPを補う目的で書き始めたもので、退社してからは、記事の内容についての文責もあるために、第一鋼業のHPとは分離して個人のHPとして管理しているものです。
このHPを作った1つの理由は、鉄鋼や熱処理技術の停滞を感じたためです。 2000年頃(平成10年代)から、特殊鋼メーカーの製造鋼種の整理が進み、製造される鋼種だけでなく、新鋼種の数が減ってきましたし、熱処理関係の新しい書籍が年々少なくなったことで、工場でやってきた熱処理を書き留めておくために書きはじめたのですが、書籍にはあまり書いていない、実際の熱処理作業の現場的な見方考え方などを交えて、内容が専門的、教科書的にならないように書き進めてきました。
しかし、素人の文章ですし、書籍のように第3者の校正もないので、読み直すたびにわかりにくいところが目立ちますので、これからも、順次に、気づいたところは直していいくようにします。
わかりにくいところ、間違ったところがあればメールフォームから連絡いただくと見直しさせていただきます。ただ、これに張り付いているのではないので、お問い合わせ等の全てに対応できない場合はご容赦ください。
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新刊書籍が少ないのが困りますが、オススメを2冊
書店に行って、並んでいる熱処理関係の書棚を眺めていると、このHPで対象としている「一般熱処理」の分野の書籍の数は非常に少なくなっていて、その多くが実用書です。
これは、熱処理の新しい考え方や技術などがないためか、読み手の関心が薄くなって、書籍が売れなくなっているかのどちらかの理由でしょうが、そもそも、鉄鋼の熱処理自体が、すでに人気のない分野になったためなのでしょうか。
鉄鋼の熱処理は必要なものですので、なくなることはないのですが、「1030℃x1Hr空冷 200℃x2Hr空冷」と鋼種のカタログに書いてあるように熱処理すればOKというものではないはずですから、やはり、金型や工具の長寿命化をしようとすると、それについての考え方が必要になってきます。
その時には、やはり、書籍などで勉強することになるでしょう。
以下に私が愛読したり引用した書籍等を紹介していますが、昭和年代の書籍が多いですので、今では絶版して入手できないかもしれませんし、さらに、1冊だけを学んでも、理解するのはむずかしいと思いますので、まず、おすすめできる書籍となると、「鋼の熱処理 日本鉄鋼協会編(丸善)」が挙げられます。
これは、鋼種と熱処理について書かれているので、全般的な考え方が解るように書かれていますが、基本的な内容が多くて、初めての方には面白くなさそうで、これも、最新刊が1980年代と古いものですし、最初に購入するには高価すぎることもあって、ここでは、以下の2冊をオススメしたいと思います。
まず、熱処理全般では、(社)日本熱処理技術協会編集の「熱処理ガイドブック」が全般的にわかりやすいでしょう。
これは、「機械技術者と熱処理技術者の基礎」となっていて、熱処理技能士になるための副読本のようなものですので、改定も行われて、市中の書店でも見かけます。手にとって見ていただくといいでしょう。
さらに、(株)不二越さんの「新・知りたい熱処理」がオススメです。 私の読んだのは旧版の「知りたい熱処理」で、「新」と言っても、2001年版ですが、不二越さんは、総合力のあるオールマイティーな会社で、現場の熱処理目線で書かれたところが多く、独自の実験結果もすごいですし、WEBに「知りたい材料・熱処理講座」シリーズ(こちらのマテリアル事業の項目からたどってください)のPDFがいくつかが公開されているので、内容を読んでいただいて、気に入れば書籍を購入されてはどうでしょうか。
Amazonのページを紹介しておきます。
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熱処理作業の標準化は良くもあり悪くもあります
近年の熱処理は、私が先輩から教えてもらった昭和年代の熱処理とは違って、密閉された炉の中で自動的に工程が進む雰囲気熱処理が多くなって、加熱色を見ながら熱処理しないので、「熱」を感じることがありません。
熱処理作業も標準化(パターン化)が進んで、作業効率が上がったのですが、仕事の面白さがなくなり、改善改良もされなくなってきたことは否めません。
熱処理関係の従業員でも、「熱処理は決められた通りにやればいい・・・」と考える人も増えているに違いありません。 でも、熱処理は「技能・技術」ですので、先輩からOJTで伝承されてきたのです。
しかし、昭和の『匠』が引退してしまった今は、標準化された内容を、引き継いでいくしかないのですが、やっている仕事を充分理解しないで、ただ仕事をこなしていくと、不具合が起きたときの対応が気になりますし、何よりも、このような仕事のやり方は、人間性を否定される感じがしてなりません。
私自身は、日本の標準化が「JIS」から「ISO」に変わっていった時期を経験しているのですが、JISの時代は、日本的で自主性があったのですが、外国仕様のISOになって、嘘のようですが、「品質は検査で保証する」と言われたときは、びっくりしました。もちろん、今では工程が重視されて、そんな管理の仕方ではなくなったのですが、「やらされ感」が強くて、決められたことしかやらないという風潮になったことで、仕事の面白さがなくなった感じがしています。
JISの時代は、達成すべき最低限度の要求にたいして、認証工場がJIS品質以上の品質のものを作り出す仕組みでしたが、ISO(たとえばISO8001)では、要求項目を達成する義務を課されているようで、仕事自体が窮屈です。
昨今、日本企業の体質を問題にされることをよく聞きますが、それはそれで日本の繁栄をもたらしたのですが、ISOの管理に移行してからは、日本の企業的な良さが失われて、新しいチャレンジや仕事の改革が鈍化した結果、世界から取り残された・・・と思うのは私だけでしょうか。
こういう背景もあって、実際の作業と書籍の内容の違いなどを残したい・・・という思いでこのHPの文章を書いているのですが、ともかく、熱処理を知りたい若い方の役に立てば・・・と思います。
PR内容の転用・転載はしないでください
このHPには、私が行った実験内容やシミュレーションもありますが、ほとんどのデータは引用したもので、このHPの内容は個人的な考え方で書いているものです。
また、引用している図表などの多くは、説明用に使用しているもので、1985年以前の古いものであり、さらにコピーしているために鮮明ではなく、きっちりとした出所も明確にすることができません。 また、グラフなどは、引用させていただいているものですから、(もちろん、一般に公開されているものですが) 個人利用は問題ありませんが、これをそのまま転用・転載すると、間違いのもとになりますので、転用・転載はしないようにお願いします。
さいごに
HPの中の随所に書いていますが、熱処理の分野では、熱処理設備や鋼材の品位などは高度に進化して、熱処理の不具合なども減少していますが、人手を経ないで、機械(炉)が自動的に標準化された操作を行うので、ブラックボックス部分が増えています。
それらの進歩が熱処理上の問題が無いかというと、必ずしもそうではないところがあります。
本文にも書いていますが、一番大きな問題点は、商売でやっている標準化された熱処理と、最高品質を生み出すための熱処理は違うという点です。
品質的に、焼入れ温度を10℃下げた方がいいという場合でも、標準化された方法に偏ると、最高の特性を持った品物の出現は望めません。
このようなことを、このHPの随所に書いたつもりですが、ベストな熱処理方法は1つですが、それを見極めるためには、試行錯誤も必要でしょうし、顧客の要求を聞く必要もあるでしょうし、何よりも、観察して考察し続ける必要があります。そのための、見えないところを見る力を養ってほしいと祈願する次第です。
なお、重ねて申し上げます。このHPは技術文書ではありません。熱処理を大まかに理解するためのものとして利用いただくようにお願いします。
最後に、第一鋼業(株)の皆さんには、いろいろ協力いただきました。今後、ますますの会社のご隆盛を祈念しています。
PR第一鋼業(株)さんの紹介
第一鋼業株式会社さんは、大阪市西成区の地に、1935年(昭和10年)に創業されました。
今では、工場の周りには住宅が密集し、工場内も手狭なようですが、約10000㎡の敷地で、創業以来、主に、 製鉄所向けの鉄鋼せん断用刃物の製作をしておられます。
最大級の刃物では、直刃と呼ばれる長い刃物では6m、丸刃と呼ばれる回転して使用する刃物は1.5m径のものを製作されていますが、せん断刃物は高度の熱処理技術が必要です。
工場では、自社の刃物製品以外に委託熱処理加工を行っており、古くから、金型や工具鋼などの「工具鋼メーカー」との付き合いも深いために、著名な国内外の工具鋼メーカーの鋼材の取り扱いには熟知されておられますので、熱処理についてわからないところがあれば、問い合わせていただくといいでしょう。
【参考文献・引用資料】
日立金属技術資料 No.288 最近の冷間工具材料について 日立金属株式会社日立金属技術資料 No.170 YSS高速度工具鋼の諸性質 日立金属株式会社
日立金属カタログ H-MT3 日立金属株式会社
日立金属カタログ HY-B9 2011版 日立金属株式会社
日立金属カタログ HY-B10 YSS高級刃物鋼 日立金属株式会社
プレス型材料と熱処理(佐藤・相沢) 日刊工業編
知りたい熱処理 不二越熱処理研究会 ジャパンマシニスト
JISハンドブック 鉄鋼Ⅰ・Ⅱ(旧版を含む)日本規格協会
JISハンドブック 熱処理(SAE硬さ換算表)日本規格協会
雑誌 特殊鋼 2010.11号(鋼種対応表)
雑誌 特殊鋼 2015.4号やさしく知る特殊鋼の熱処理
JISデータシート(S48年版:ISIJ73 DS1)日本鉄鋼協会編
Metals Handbook(SAE:丸善扱い)
鋼の熱処理 日本鉄鋼協会編
熱処理のおはなし(大和久重雄著) 日本規格協会
熱処理ガイドブック(日本熱処理技術協会編)
熱処理技術入門ー金属熱処理技能士・受験テキスト(日本熱処理技術協会・日本金属熱処理工業会編)
山本化学工具研究社 解説書
特殊鋼辞典 大同特殊鋼編
材料試験硬さ技術の系統化調査 古賀正樹
硬さ試験法とその応用 吉沢武男 裳華房
硬さのおはなし 寺沢正男 日本規格協会
その他、WEBのHPからも引用させていただいています。
R2.8写真の整合化 最終R4.11に見直し