鋼の熱処理のロゴ

工具や機械部品用の材料を選ぶときの考え方について紹介しています。

JISハンドブックや鋼材カタログ

JIS規格は個々の規格が規格票として販売されていますが、通常は、書店などで市販されている鉄鋼編のJISハンドブックに関係する鋼種や試験方法などがまとめられているので、そのほうが入手しやすいでしょう。

鉄鋼と熱処理に関連するものは、現在「鉄鋼」編で2冊と、熱処理関係の「熱処理」編に分かれています。

2022版

私自身は、昭和年代にから、このJISのハンドブックを利用して、どんな材料をつかって目的の工具や機械部品を作ったらいいのかを考えるために利用してきたのですが、現在のハンドブックは、ほとんど規格の掲載だけで手一杯になっており、残念ながら、鉄鋼のJIS規格を読んでも、手の付けようがないのが実情のように思います。

それなら、どうしたらいいのでしょうか?

実は、なんとも変な回答になりますが、ずばりのおすすめは、ある程度の熱処理知識を知っておいて、知り合いの鋼材屋さんやメーカーの担当者がいれば、その人に相談するのが手っ取り早いでしょう。

鉄鋼製品は、特殊な流通形態なので、メーカーの系列外の鋼種全般に詳しい方は少ないかもしれませんが、「特殊鋼販売士」などの資格を持つ人であれば、一般的な鋼材や熱処理知識を持っておられる人も多いので、まず、鋼材に詳しい人の話を聞くのが早いように思います。

JIS規格は概ね4年毎に見直されていますが、大幅な改定はほとんどなく、メーカーの情報のほうが進んでいるので、旬の知識を得るのであれば、第一線に従事する人の情報のほうが的確です。

PR

また、どの材料メーカーも、お客様に説明するための鋼材製品のカタログや技術資料を発行しています。WEBからダウンロードできる場合もあります。

そこには、実際に入手可能な鋼材の情報が掲載されていますのでわかりやすくて便利です。

特殊鋼や工具鋼では、JISや書籍で鋼種を選んでも、市中に出回っていないことも多いので、メーカーが販売している主要鋼種から考えるのは近道かもしれません。

材料選びで重要なこと

材料を選ぶ場合に重要な点は、他のページでも説明していますが、①材料に要求される特性・・・例えば、必要な硬さや硬化深度が得られるだろうか?などのほかに、 ②必要なサイズが販売されているかどうか・・・が重要になります。

現在では、まず、WEB記事を見れば、多くの情報が得られるのですが、目的の情報に早くたどり着くには、ある程度の知識を持っていないと、どうしてよいのかがわかりません。 ここでは、工具や金型用材料として用いられる「工具鋼」を例にして、簡単に紹介していきます。



どんな材料でも入手できるとは限りません

むしろ、入手できる材料は非常に限定されます。

WEBでは、様々な記事が混在していますので、時系列的にも、またそれが最新知識かどうかがわかりにくいものも多いです。

1つの国内メーカーの取扱鋼種をみても、様々な鋼種が製造され、販売されているかのように見えてしまいますが、現実的には、ほとんど流通しているものは限られています。

さらに、 同じ鋼種に対して、WEBでは、様々な記事がありますので、読むほどに迷うかもしれませんが、地道に探して読んでいかないと、これはどうにもなりません。

鋼種については、国内外のメーカーの鋼種もありますし、その上に、新しい鋼種が次々生まれたり、需要がないために製造されていない鋼種もありますので、知識がないと、 つかみどころがないので、苦労すると思いますが、流通している鋼種はそんなに多くはありません。

大手鋼材メーカー2社の冷間工具鋼のカタログから引用した図ですが、各社もこのような鋼種選定のための主要な工具鋼の体系図などを公表しています。 そして、ここに示された鋼種は、かなり入手しやすいということになります。

これらの内容を理解するのは、専門的な内容もあって、見にくいかもしれませんが、このような系統図は、使う材料を決めたり、より高度な材料を選ぶ場合に利用できます。

私が取り扱った熱処理品でも、実際に依頼される鋼種は、千差万別ではなく、特定の鋼種に限られているのですが、例えば、SKD11というJIS鋼種名ではなく、SLD(日立金属)、DC53(大同特殊鋼)というように、各メーカー名で流通していますので、そのようなしくみも、少しずつ覚えて、慣れていかなければなりません。

PR


流通している各社の工具鋼一覧

工具鋼は、国内外の鋼材メーカーで製造されていますが、すべてのJIS鋼種を製造しているのではなく、各社で特徴を生かしたJIS鋼種にはない独自鋼種も作られていますし、 JIS鋼種であっても、自社の特徴を付加した「自社名称を付けた鋼種」として販売されているのが一般的です。下記は、冷間工具鋼の各社の推奨鋼種一覧の例です。

各社工具鋼一覧

もちろん、この一覧表にあっても、流通している鋼材のサイズは限定的ですし、丸材と角材でも在庫が異なっていますので、ほしい形状の在庫がない場合もあるということもあります。

ちなみに、ここにある工具鋼の汎用鋼であるSKD11(JIS名)をメーカー別に見ると、SKD11、QC11、SLD、DC11、KD11、K105・・・というように、各社が独自鋼種名で製造しています。

JISの考え方からいえば、これらのいずれもが、JISに定めた内容を満たしており、さらに、その規格以上に厳格な仕様で製造している鋼材といえます。

そして、SKD11のような汎用鋼でも、どのようなサイズでも製造されて市販されているのか・・・ といえば、たとえ製造していても、一般の人が入手しようとすると、意外と流通しているサイズは少ないのです。

これは、製造されていても、特定の需要先向け(これを「ひも付き」と言いますが)だけで、一般には販売されていない場合も多い・・・ということを知っておく必要があります。



このように、1つの鋼種をとっても、とにかく多様で、わかりにくいことも多いのですが、ここでは先ず1つだけ、『鋼材を購入するときも、熱処理依頼をするときも、JIS鋼種名ではなく、 「メーカー名」で呼称しておくのが間違いが起きなくていい』・・・ということを知っておいてください。


PR


鋼材はどこで入手する?

鋼材メーカーが製造した鋼材は、ほとんどが、特定の商社や「鋼材屋さん」と呼ばれている販売店などを通じた流通経路で市場に出ます。

販売店の多くは、 メーカー系列になっており、「**鋼」「**鋼材」「**特殊鋼」といった社名の「鋼材屋さん」が扱っているのですが、さらに、扱い量によって、 「一次問屋」「2次問屋」・・・というように区分けされています。

こういう流通の仕組みになっていることもあって、大口需要家のニーズを主体にしてメーカーでの製造サイズが限定されてきますし、その配下の鋼材屋さんの在庫品となると、さらにサイズが限定されることになります。

もちろん、他社品を取り寄せたり、切り売りしている販売店も多いのですが、そうなると、鋼材単価(一般的には1kg当たりの単価(キロ単価)をいいます)は上昇することは避けられません。(注:切り売り=大きな鋼材を切り分けて、一部を販売すること)

一般的な鋼材単価の動向など、一部は日本工業新聞などに掲載されていますが、動向や価格の概略がわかる程度で、購入品の詳細を知る上では、あまり役には立たないでしょう。(これは、直接に鋼材やさんに確認するか、見積もりを取ってみるとわかるのですが、通常の取引がないと、見積もりしてもらうだけでも難しいかもしれませんね)

部品を設計製作する場合には、 価格や単価効率の良い品物の寸法を設計することが大切なのですが、残念ながら、鋼材メーカーも鋼材屋さんも、 販売効率の良いように在庫を持ちますし、さらに、その内容も常に変動しますので、在庫状況がタイムリーにわかる状況ではなく、単発に購入する場合は、 面倒でも、鋼材屋さんに個々に確認するのが確実です。といっても、その手間も大変ですし、慣れや知識がないと、難しいことです。

このような一般に売ることを対象にした販売方法を「店売り」と呼びますが、それに対して、鋼材の中には、メーカーと直接に契約して、大量に発注する、「ひも付き」と言われる流通形態も多いです。

いずれにしても、メーカーで系列化された流通の仕組みは昔から変わっていません。

このために、量にもよるのですが、少量の鋼材を購入する場合は、たとえ高価であっても、WEB上で販売されている鋼種を利用するのが手っ取り早いかもしれません。

小口品では、ネットで小口販売をしている鋼材屋さんが多くなってきています。そして、これらの販売店では、その熱処理までの面倒を見ているケースも多いので、 「小口」の販売店では、ネットと宅配を利用して購入できるケースが増えていくでしょう。

しかし、少し大きな鋼材になると、運搬や保管の問題があるので、WEBの進展にともなって、いろいろな鋼材が購入しやすい仕組みになっていくかどうかは、各社各様の思惑があるのですが、基本的にはあまり変わっていかない感じがしています。

鋼材入手時に「熱処理」についても考えておく

後工程の「熱処理」についても 、近年は、熱処理設備の専門化や大型化もあって、小口の熱処理を嫌う熱処理屋さんも多くなっている傾向もありますので、 鋼材を購入する際には、それについても事前に考えておく必要があります。

常時に鋼材を取り扱っていないと、熱処理会社を探すのも大変ですが、鋼材購入の会社でも扱っていますし、WEBなどで購入する場合でも、熱処理をどう手配するのかも合わせて検討しておきましょう。

もう一つ大切なことですが、このHPの随所に書いていますが、材料取りの方向性や材料履歴を知ることが大切だということを記憶ください。


高級材に向かう傾向

材料の特性比較の評価をしようとして、メーカーのカタログやユーザーのコメントなどを見ると、○×式などで選択できるようになっている場合や、上の2社の例のように、系統図が示されていますので、これらを見て、最適な鋼種の候補を探せばいいのですが、そうすると結局は高級鋼(値段の高いもの)に行きついてしまいかねません。

精密金型などでは、加工度(加工賃)が高いので、金型の全体価格に占める鋼材価格の割合は小さいために、高級鋼材を使うメリットも出てくるのでしょうが、 (何度も書いていますが)いい材料は高価になるのは仕方がないとしても、高価な材料は「良い」とは限りません。

材料を評価する要素は非常に項目が多いうえに、 その評価方法もたくさんありますので、その試験結果を疑うわけではありませんが、聞きかじりだけでは、高価な高級材を買うような図式にはめ込まされてしまうでしょう。

鋼材が高価になる要素としては、①合金元素を加えて、熱処理性質や機械的性質を向上させる ②特殊溶解などでじん性や均質性を高める ③歩留まりが低い、仕上がり形状が特殊などコストパフォーマンス性 ・・・ などがあげられます。

ここで、合金元素の効能としては、一般的には、焼入れ性の向上、炭化物による耐摩耗性の向上、素地の強化などがあります。

硬い炭化物を作るW・Cr・Moなどは比較的高融点のために、耐摩耗性や耐熱性などに有利ですが、その量が多くなると、相対的に焼入れ温度が上がって熱処理しにくくなるので、熱処理費用も高くなります。

・・・・・。このように、材料を選定するときに考えなければならない要素を網羅するのは結構奥深いことで、覚えるのも難しいことです。 また、簡単な評価も難しくて、売る立場と買う立場でも、何を主眼にするか・・・ということだけで、評価も答えも変わります。

次のページでは、このページのような、ややマニアックな内容ではなく、材料を考える場合の要素について、簡単に紹介していきます。




  ↑このページの上へ

(来歴) H30.11全面見直し R2.4 CSS変更  R2.8写真の整合化
    最終R4.11に見直し
PR

関連記事