からだで感じる「熱処理温度」

今のデジタル世代の若い人たちには、からだの五感を使って温度がわかる・・・と言っても、なじめないかも知れません。

しかし、例えば、捨てられたタバコの温度がかなり高い温度であることや、切削加工された時に出てくる切り粉が青くなっているような場合は、 油が燃えるくらい高い温度になっていること、熱そうな品物にツバをかけたときにジュッとなるのは、その品物はかなり熱いだろう・・・ということなどは、 意識せずに「からだで温度を感じている」と言えるでしょう。

ここに紹介する図表は、日立金属(株)のカタログにあるものを紹介させていただいていますが、これらは、同社の主要鋼である「SLD」 のカタログに、数年前まで掲載されていたものです。(型録番号 HY-B6-c )


当社でも、1970年代ころまでは、熱処理工場や試験室には、他鋼材メーカーの「温度と火色見本」の大きな写真を掲示していましたが、汚損したあとに補充ができないので、廃棄していますので、いずれはこれらは消えていく運命にあります。
1970年と言えば、大阪の千里万博や70年安保闘争などがあったころのものですが、今はデジタル化して写真が残せますので、貴重な資料なので、紹介して、これからも伝えていきたいと思っています。


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加熱色と加熱温度

火色と温度

昭和50年代の温度計測設備は、現在と比べると不充分なもので、「自動温度制御の炉」と呼ばれるものでも、 総合温度精度(熱電対や計器類を含んだ精度)は 2%程度であればいい方で、(現在は0.3%程度の精度は普通の状態ですが)当時の温度はかなりアバウトだったことを記憶しています。

1000℃の2%は20℃ですが、この程度の焼入れ温度誤差は、当時では気にすることはなかったようでした。

当時の作業者には「計器より自分の目が正しい」と豪語する熱処理の「匠」が数人いました。
確かに、駆け出しの「ど素人」の私などが、温度計を持って温度を計測する以上に、 彼らの温度感覚はすごいもので、その正確さは舌を巻く状態でした。

彼らは、焼入れ温度を、火色によって10℃程度以内の温度で判定していたようです。

昭和50年代まで、熱処理技能士1級の実技試験では、温度の違う3種類のソルトバスが用意されており、適切な温度のソルトバスに炭素工具鋼を実際に水焼入れして、正常な硬さに焼入れする試験内容があリました。

ソルト加熱は気体雰囲気と違って、焼入れのコツを先輩が後輩に教えているという風景もありましたが、当時は「目で温度を見る能力や熱処理操作の基本」が実技試験で試されていました。

今では、炉の構造や作業方法も変わって、その必要性も無くなったので、そのような実技内容はなくなっています。


860℃のソルト液面1030℃のソルト液面

この2つは、ソルトバスの液面の写真ですが、左側は、860℃、右側は、1030℃です。
これは、熱電対で測定する内部温度ですので、ここに見える表面温度は、少し低いはずですが、上図に示す「温度と色の関係」は、当らずとも遠からず・・・という感じがつかめるでしょう。

現在、火色が外から見える加熱設備は少なくなりました。当社では、ソルトバスを含めて、温度測定には熱電対を使っていますが、これらを定期的な検査や取り替えをして管理していても、まれに、急激に劣化して、温度が大幅に狂う場合があります。

このソルトバスでは、20℃ぐらいの誤差が生じると、作業者は火色を見て、感覚的に異常を感知することができますので、このような色と温度の感覚は、意外と役に立ちます。

この、色と温度の関係は、周囲の明るさによって変わりますので、直射日光の当たらない室内で温度計と比べて色を認知するという経験が必要になるのですが、温度精度をとやかく言うものではなければ、うまく利用いただくといいでしょう。

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「焼戻し色」と焼戻し温度判定

焼戻し色の例


図は、機械加工した金属光沢面を大気中で短時間加熱したときに着色する色で、「焼戻し色」、「テンパーカラー」と呼ばれるものです。

焼戻し時の加熱のほかでも、機械加工中のキリコが着色する現象や、刃物などの刃付けで、グラインダーで成形する時に、 少しきつく砥石を当てると、温度が上がって色が変わる経験がある方もおられると思います。

この着色は、熱のよって鋼の極表面にできる酸化膜などによるものです。

鋼種によっても、また、仕上げ面の状態によっても着色の状態が変わりますので、 左図に表示された色と実際の温度は異なるかもしてませんが、感覚的には、加工中のキリコにしばしばみられるような「青みがかった色」であれば、 300℃前後のかなり高温になっているということがわかります。

私自身も、この印刷された色は、若干全体が赤みがかっていて、「青さ」が少ないように感じていますが、この写真の色を自分なりにイメージしておくと、 いろいろなシーンで役に立つでしょう。

200℃付近で黄土色、300℃付近で青色、・・・という感じでいいでしょう。
キリコが青色になっていれば、 衣服などに触れると燃え出すほどに高温になっていますので、うっかりと触ると大変ですね。

その着色は、酸化膜のようなものですので、時間が経過すると高温側の色へ移行してしまいます。例えば、試験片を入れて周囲温度を推定する場合などでは、試験片を長い時間放置せずに、すぐに温度を判定するようにします。

現在では、いろいろな安価な温度計(表面温度計や輻射温度計など) がありますので、このような色変化を利用して温度を知ることは少なくなっていきますが、覚えておいて損になることはないでしょう。



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鋼の温度判定と感覚の表現

温度判定の一例

熱い品物を素手でさわる時、品物の温度が50℃を超えると、じっとさわっているのは無理ですので、ポンとさわるか、手をかざして温度を推定し、かなり熱いと思えば、水(実際には、唾?)をかけてその蒸発具合をみようとする・・・などは、やった方もおられるかもしれません。

そのあたりを日立金属さんのカタログでは、表のように表現されています。

近年の炉などの加熱設備は、自動化されて、火色や冷却過程が見える熱処理炉がほとんど無くなり、炉中で、冷却中の品物の温度を直接に測るということは無くなっていますが、 当社でも、大型の品物で自動化した雰囲気炉に入らないような大きな品物は、未だに大気中で加熱し、冷却中の品物の表面温度を管理しながら熱処理しています。

この時に、熱処理説明の中でも説明していますが、焼入れ冷却中の品物の温度は、非常に重要で、焼入れ硬さや割れなどに影響します。

冷却過程の温度を的確に判定し、それによって、油冷する時間や焼戻し炉に入れるタイミングを計って最良の焼入れ状態にコントロールするのですが、このためには、300℃以下になった時の品物の温度は特に「現場の熱処理」では重要です。

昭和年代末期までは、「熱処理の匠」が、品物に手をかざして、品物との距離の感覚で品物の温度を感じたり、唾液や水を品物にかけて、表面温度を判定していいました。

当時は、熱電対タイプの表面温度計がありましたが、高価でしたので、「温度チョーク」や「温度ペレット」という、一定温度で書いた字が消えたり、錠剤が溶けるように作られた温度測定用の小物がありました。
それらを使って焼戻しのタイミングを見たり、品物各部の温度差を見ることで表面温度を確認することもありましたが、何よりも、体の感覚のほうが手っ取り早いという状態でした。
今日では、安価で高性能な熱電対式の表面温度計や輻射温度計が使われるようになって、非常に簡単に表面温度が測定できるようになっています。

・・・とは言うものの、現在でも、自分の感覚で温度を感じて作業している人がいるのは確かです。

熱処理以外でも、モーターの発熱異常がないかどうかを、50℃、60℃という使用限度は手で触って感じることことは、機械メンテナンス上では重要なことです。

お風呂の温度もまず手で測るのですから、温度計を併用して、少し訓練することで、かなり正確にわかるようになるのですから、人間の能力を使わない手はありません。

このような知識が多く示されておれば重宝することが間違いないと思うのですが、このような図表は消えていく運命にあるのは残念なことです。



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(来歴)H30.10.8 全面見直し。