このHPはかなりのボリュームの内容で鋼の熱処理について解説しています。
このページはこのHPの全体を簡単にまとめて紹介しています。
鋼と熱処理
鋼(はがね)は鉄と炭素の合金で、大きな特徴は、熱処理をすることによって、手で簡単に曲げられる状態から刃物のように非常に硬いものまで変化することができるところにあります。
炭素量が2%以上と非常に多くなると、鋼ではなく「鋳物(いもの)」に分類されて、鋼のような熱処理効果はなくなります。
TVなどで日本刀の焼入れのシーンを見られた方も多いと思いますが、白装束姿で作業する姿で行う熱処理は、神様の住む世界の所作のようです。
しかし、現在の熱処理は温度、時間、操作法を押さえれば特に難しいものではなく、自動化が進んでいますので、作業も、特殊なものではありません。
ただ、はじめての方には、わかりにくい熱処理用語やたくさんの鋼種があるので、非常にとっつきにくいものかもしれません。
熱処理の説明では、見えないところでの組織の変化などを扱った内容が多いので、ここではできるだけ教科書的にならないように説明をしていきます。
鋼の熱処理を理解するには
このHPをご覧の方の目的は、「簡単に『熱処理』を知りたい」という方が多いと思います。細部の詳細説明に進む前に、簡単な説明で大まかに把握ください。
「熱処理」英語で heattreatment といい、まさに「熱による処理」で、熱を操作して、鋼の性質を変えることを言います。
鋼は熱を加えると結晶構造が変化し、その冷却の仕方で、さらに結晶構造や組織変化が起き、それに伴って、いろいろな特性が得られます。
特性の変化は、主に、機械的性質と科学的性質の変化で、焼入れ・焼戻しという操作で強度を変化させて、刃物や工具に適したものに変化させたり、ステンレス鋼のように錆びにくい鋼にするための溶体化処理など、様々な熱処理の方法があります。
鉄鋼の熱処理は、大きく ①一般熱処理 と ②表面熱処理 に分けて説明されることが多いようです。
ここでは、一般熱処理の 硬く強くする「焼入れ・焼戻し」、柔らかく加工しやすくする「焼なまし」、耐食性を付加するための「固溶化熱処理」などを説明しますが、 特に重要な、鋼を硬く強くする「焼入れ焼戻し」については、詳しく説明しています。
もう一方の表面熱処理も自動車部品等、いろいろなところで行われています。ここでは、「浸炭」「高周波焼入れ」「窒化」などを簡単に説明しています。
「鋼種」
鉄に炭素を化合させると、硬くなる性質がでてきます。さらに、鉄以外の合金元素を加えると、いろいろな性質が付加されます。それらを適当量を加えて、目的に応じて、様々な鋼種がつくられています。
鋼種とそれを使用する目的によって、熱処理の方法(仕様)が変わります。鋼種に応じた熱処理方法(仕様)は、カタログやJIS規格などに掲載されていますが、このHPでは、それらの基本になる考え方を説明します。
さらに、性質や性能などの評価のための試験(検査)や設備や不具合なども熱処理を考えるためには必要ですので、それらを含めると、かなりのボリュームになりますが、すべてを知る必要もない場合は、記事を拾い読みしてもいいでしょう。
自動化が進んだ現在の熱処理
一昔前までは、熱処理、鍛造、鋳造などの火を扱う仕事は「3K(きつい・きたない・きけん)」の代表でした。それが今では、加熱炉の無人化や自動化が進み、加熱・冷却などの一連の熱処理工程は、設備(加熱炉)の内部で自動的に行うようになってきて、熱処理の作業などを紹介しようとしても、下に紹介している動画のように、赤くなった品物を扱う作業(場)は少なくなってきています。
ここでは、あえて赤くなった品物を見てもらって、熱処理作業を知っていただくためにこれらを紹介します。
(リンクをクリックするとYUTUBEの動画を見ていただくことができます)
(1)ソルトバスでの焼入れ
(2)縦型炉での型鋼の焼入れ風景


(1)左はソルトバスによる手作業での焼入れ作業です。
850℃程度に加熱したソルトバスで薄い鋼板を加熱して、それを水に入れて焼入れする作業風景です。
これは、完全に手作業ですが、あっという間に焼入れ作業が終わります。
(2)右は、 鍛造用の金型素材を大気炉で加熱し、油冷して硬化させる作業風景です。自動化された設備を使っていますが、この作業も、ほとんどの作業者が操作しています。
動画を見ていただくと、左の操作に比べて冷却までに時間がかかっています。しかし、いずれも、鋼種に対応する操作を行っており、このような「焼入れ操作」によって、鋼(品物)は非常に硬くなります。
実際の熱処理作業では、この焼入れ作業の他に焼戻しなどの作業工程があり、検査などの付帯作業を含めて説明します。
熱処理用語がわかりにくい?
熱処理の説明には、たくさんの専門用語が出てきます。用語についてはこちらでも説明しています。
サイドメニューにも、表題(目次)にリンクを張っています。また、サイトマップにも簡単な内容を示しています。
かなり文字数が多いので、スマホではなしに、パソコンが読みやすいかもしれません。
目次のページをヒントに、読みたい記事に移動ください。
全ページを抜粋して紹介
1. 鋼の状態を理解しよう
そして、炭素と化合した鉄は「鋼」と呼ばれ、熱処理をすることで、機械的、化学的な変化をして、様々な用途に利用されます。
その様子は、「状態図」を通して理解することができます。鉄-炭素2元平衡状態図を簡単に説明しています。
特に、炭素量によってその性質が大きく変わり、そこから、そのための熱処理温度などを理解できます。
2. 焼入れについて
熱処理のメイン項目ですので、ページを分けて細かく紹介しています。
1ページ目
紛らわしい熱処理用語と、業界の熱処理用語を簡単に紹介したあと、焼入れの操作の概要、焼入れと強さということを紹介しています。
2ページ目重要な炭素量との関係や、硬い組織マルテンサイト、そして、少し困った組織、残留オーステナイトなどを説明しています。
3ページ目不完全焼入れという用語がありますが、本来、焼入れして表面内部が同じような状態になるわけではありませんので、少し説明しています。
また、焼入れで硬化する温度(エムエス点・エムエフ点)や焼入れ性について紹介しています。熱処理の品質や不具合対策には重要です。
品物が大きくなると硬化しにくくなるのですが、それの評価に関する用語や合金元素と焼入性について紹介しています。
5ページ目焼入れ温度、保持時間、冷却や標準熱処理条件などについて説明しています。
6ページ目機械構造用鋼に関する熱処理で、調子油、焼ならしの他、ステンレスなどに行なう溶体化熱処理の説明をしています。
7ページ目工具鋼の熱処理について説明しています。
8ページ目近年の熱処理は標準化やパターン化される傾向にありますが、熱処理には未知の内容も多いのでもっと研究されて様々な特性が出せる可能性があると考えていますので、一読を。
9ページ目熱処理の説明用にしばしば登場する、恒温変態曲線(S曲線)・連続冷却変態曲線(CCT曲線)の他、恒温熱処理の説明に用いられる図について説明しています。
3. 焼戻しについて
焼戻しについても2ページに分けて説明しています。
1ページ目焼戻し温度によって、鋼は順次に硬さや組織などが変化します。
さらに、焼戻しに関係する、焼戻し脆性、矯正作業、焼戻しの回数などについての考え方を紹介しています。
機械構造用鋼・工具鋼の実例を示して、焼戻しに関する内容を説明しています。
焼戻しパラメータ、サブゼロ処理、低温脆性、などの記事もあります。
4. 機械加工のしやすさと焼なましについて
鋼を柔らかくして加工しやすくするなどの「焼なまし」について説明しています。
5. 熱処理設備について
加熱炉、付帯機器、冷却設備などを紹介しています。近年は加熱時の鋼の表面が劣化しないような加熱雰囲気の設備なども多くなっています。
6. 熱処理の硬さについて
硬さは、熱処理の工程が正しく行われているかどうか、求める品質がえられているかどうかを確認できる、非常に便利な試験方法です。硬さと機械試験値などの関係は、その他でいろいろな試験が行われることで、それが確認できるようになっています。
硬さ測定や注意点について説明しています。
7. 材料を選ぶ場合について
目的の鋼材を選ぶ場合のポイントや、カスタムナイフ用に使われている材料について紹介しています。8. 材料試験方法(耐摩耗性・じん性)について
耐摩耗性とじん性の測定方法、評価方法などについて示しています。9. 工具鋼の技術資料の見方
汎用鋼のSLDの技術資料を用いて、その見方や考え方を紹介しています。10. からだで感じる熱処理温度
現在は、センサーや器具によって、熱処理温度が簡単正確に測定できるようになっていますが、古くは、人の五感に頼って熱処理をしていました。加熱色による温度などについて紹介しています。11. 火花試験について
異材の判別などに威力を発揮する火花試験について紹介しています。12. 熱処理の不具合(変形・割れ)
熱処理の際に、品物は熱影響と変態に伴う寸法変化で変形や割れが生じる場合があります。それらについて説明しています。13. 表面熱処理について
火炎焼入れ、高周波焼入れ、浸炭焼入れなどの表面熱処理について紹介しています。14. 熱処理組織について
組織の違いや変化は熱処理や材料の状態を示しますので、いろいろな情報を得ることができます。



写真は、マルテンサイトと残留オーステナイト、パーライト、ソルバイト、SLDの低温焼入れ組織 ・・・などですが、これらについて説明しています。
15. 硬さの換算
JISハンドブックの末尾に掲載されている硬さ換算表は非常に便利なものです。さらに、実用的にした当社の換算表を紹介しています。16. あとがき・その他
→サイトマップへ
(来歴)H30.11.8 全ページを見直し。