第一鋼業~熱処理はどのようにすればいいですか?

鋼の表面処理とは何でしょう

一般的に鋼の表面に施される「表面処理」と呼ばれる加工の種類としては、「メッキ」「溶射」「ライニング」「コーティング」「塗装・転写・スタンプ」 「化成処理」「表面硬化」「チッカ処理」 その他  ・・・ などがあります。

機械工具類のにおいては、しばしば、装飾・表面硬化などの表面処理・表面改質などを最終工程で実施される場合がありますが、ここでは、焼入れ焼戻しなどの熱処理に関係していて、さらに加熱をして行う表面処理のうちで、「耐摩耗性」「寿命向上」を目的とする表面熱処理について説明します。

JISには鋼の表面熱処理として、炎焼入れ、窒化、浸炭などが規定されています。

これらの表面処理法の中で、加工を行っている各社が固有の処理(加工)名をつけていることも多く、このことが表面処理方法の内容が把握しにくくしているところもあります。

たとえば、当社でも、現在、「DSハード」と呼ぶ浸硫チッカ加工を行っています。 

これは、特にJISに沿った処理ではありませんし、ガスの混合比率や濃度、処理温度、処理時間などは固有のノウハウですが、大分類では「窒化の一種」といえるものの、窒化に「浸硫処理」を加えて複合処理を行っているなどで、その他の処理にない特徴もあって固有の呼び名をつけていますが、やはり名前だけを見ると内容や特徴がわかりにくいという問題もあります。

他社の行っている窒化や複合処理もこのような特徴があるので独自の呼び方をしているところが多いので、品物に表面処理(表面改質)をしようという場合には、処理内容や効果などを充分確認してから行うようにするのがいいでしょう。

以下では、一般的な枠組みで、熱処理と関係深い「熱を加える表面処理」を説明します。



鋼の表面を焼入れする

JISにある表面処理に含まれる熱処理加工に、「火炎焼入れ」「高周波焼入れ」「浸炭焼入れ」などの表面硬化処理があります。

これらの簡単な紹介と経験的な注意点を説明します。

当社ではこれらの設備がないのですが、弊社から委託加工を業者に依頼する場合も多く、前熱処理や後熱処理なども関係する場合があるので、知っておくと大きな失敗を防ぐことができる問題が含まれています。


火炎焼入れ(炎焼入れ)

「フレームハード、フレームハードニング」などともよばれます。

近年は、型材の一部(たとえば切刃部分)を硬化するために、空冷によって硬化する鋼種を用い、ガスバーナーで鋼材の一部を加熱して、放冷する際に母材に熱を奪われることで急冷されて硬化する方法が多いようです。

一般的には、焼入れ硬化させるための冷却方法は鋼材の焼入性に応じて「水冷」「油冷」「空冷」などによって硬化させますが、通常は空冷で焼きが入る材料を用いることが多いです。

ガスバーナーを用いて手動で作業する場合は、加熱温度が不安定になりやすいこともあって、均一な硬さが得られにくいのは当然ですが、全体を加熱すると変形が大きいので、このような一部加熱は、軽負荷の金型やトリム型(抜型)の切刃部分先端の焼入れ硬化方法としては便利な方法でしょう。

適用する鋼材は、作業性を考えて、焼入性のいい空気焼入れ鋼などがいいのですが、市販されているもので、「火炎焼入れ鋼」 という呼び方で販売されている工具鋼の鋼種もあります。(日立金属のHMD1やHMD5などがそれに当たります)

これらの火炎焼入れ用の鋼種は、加熱温度範囲(温度幅)に余裕があり、刃先先端を加熱して焼入れする際に、油などの冷却剤を使用せずに放冷(空冷)するだけで60HRC以上の硬さが得られるように成分設計されています。

もちろん、焼入れによる変形は一部分の加熱のために全体加熱の比べて少なくなるのですが、変形が生じる可能性は変わりませんので、変形しないということではありません。

このために、単純な形状の角部や幅広い面の硬さが必要な場合に、火炎焼入れをしないで、普通に全体加熱する焼入れ焼戻しをするほうが変形が少ない場合もあって、通常の鋼と同じように全体焼入れしてこれらの火炎焼入れ鋼が用いられることがしばしばあリます。

当社でも、空冷で硬化するダイス鋼(例えばSKD11など)よりも安価なこともあって、火炎焼入れ鋼に分類される鋼種を普通に全体焼入れする場合も多く、火炎焼入れ鋼を用いた金型全体量から見れば、 火炎焼入れの実施数のほうが全体焼入れに比べて少ないかもしれません。

バーナーを用いて行う「火炎焼入れ」は、大きな金型で先端部分の硬さだけが要求される金型などに有効な熱処理方法ですが、必ずしも火炎焼入れしなければならないというものではないことを覚えておいてください。


高周波焼入れ

高周波電流を加えて、電磁誘導による渦電流の表皮効果で短時間に加熱して焼入れする熱処理方法です。

高周波焼入れ 高周波焼入れ(WEBより)

高周波焼入れの特徴は、例えば ①φ60程度のS45C の丸棒でも、表面硬さが60HRC程度の硬さが出ること、 ②低合金鋼でも炭素量に応じた高い硬さが得られること、 ③軸内部の硬さが軟らかいために折損などに強いこと、 ④表面の圧縮応力が有効に作用して疲労強度に優れること・・・などがあって、特に軸類などに適していますが、軸に限らず、一部の効果部分を得るためなどで、非常に広範囲に行われている熱処理法です。

高周波電流の周波数によって硬化する深さが変化します。

近年はインバーター技術も進んでいることで、通常は、硬化深さは周波数を変えることで簡単に行えるようになっています。

特に硬化深度がほしい場合には、大電流の、低い周波数帯の装置を用います。これを「高周波」ではなく、あえて「中周波焼入れ」と呼ぶ場合もあります。

材質によっても硬化深度は異なりますが、全硬化層深さは、周波数が100KHz程度で2mm前後、10KHz程度で3mm前後、 1KHz程度で7mm程度を目安にするといいでしょう。

このような誘導加熱では、焼入れ性のいい材料のほうが深い硬化は得られるとは限らないのですが、逆に、むしろ、安価な材料を用いて、高硬さが得られることも特徴の一つです。

通常は、仕上げしろをつけて高周波焼入れ焼戻しを行いますが、仕上げ加工した後の表面硬さが大切になる場合が多いので、 この硬さや焼入れの深さについては注意しておく必要があります。(下記のこちらを参照)

加熱後の冷却には、ソリブルなどと呼ばれる、水溶性のポリマー溶液などが用いられ、水冷と油冷の中間の冷却速度を得られる状態のものが使用されますが、非常に短時間の焼入れ処理ですので、熱処理の対象の多くは構造用炭素鋼や低合金鋼が主流です。

むしろ、高合金のダイス鋼などでは十分な硬さが入らないことから、この高周波焼入れ法は高合金鋼にはあまり利用されていません。

高周波焼入れだけで表面の硬さを上げることができますが、軸などで全体強度が必要な場合は、高周波焼入れをする前に全体を「調質(焼入焼戻し)」しておいてから高周波焼入れをする場合があります。

この場合には、必要な強度に応じてS45Cなどの炭素鋼ではなく、合金鋼(SCr材やSCM材など)が使用されます。

問題が起きやすいポイント

高周波焼入れの特徴や制約について知っておくと、トラブルを未然に防ぐことができます。

丸棒の外形などを焼入れる場合では、高周波焼入れでは品物を回転させながら加熱部分を移動して焼入れするという方法により、比較的表面硬さが一定になるのですが、2重焼入れ(同じ部分を加熱すること)を避けるために、 送り幅の継ぎ目で若干の表面硬さむらが生じるのは仕方がありません。

極端に言えば、縞々に硬化しているのですが、軸の場合は面で接するので、これでも問題が生じることは少ないのですが、この硬さムラを小さくするために送りピッチを小さくしすぎると、焼割れが生じやすいので、微小硬さムラはある程度避けられないものと考えておくといいでしょう。

また、通常の作業では、端面割れを防ぐために、最端部を加熱しないようにするのが通例です。 通常の高周波焼入れでは、両端部の硬さが保証されないのですが、それが問題になる場合は、余分の長さに仕上げておいて後で切り落とすなど、起こりそうな問題については事前に打ち合わせておくとよいでしょう。

円筒部以外の平面の部分焼入れも可能です。 しかしこの場合も、コイルまたは品物を移動させるために、硬さむらが生じやすく、全面を均一にしたり、硬さ保証を要求するのも難しいものと考えておいた方がいいでしょう。

また、専用コイルが必要になる場合には、その製作のための負担金額についても確認しておく必要があります。

歯車状の品物などで全体を一気に焼入れする場合などを「一発焼入れ」と言いますが、これら、特定形状に適合した「コイル」を作成するには非常に高価で、加工業者の手持ちがない場合は、その費用は別に支払う場合も多いので、設計や見積もり段階ではそれらも考慮しておく必要があります。


浸炭焼入れ焼戻し

浸炭の方法には、固体浸炭、ガス浸炭、液体浸炭、真空浸炭、プラズマ浸炭などがあります。

浸炭とは、低炭素鋼や低合金鋼などの表面に炭素を浸透させて、焼入れしたときの表面硬さを得やすくすることを言います。

浸炭深さを深くするためには、特に時間的な要素が大きいので、納期や費用も関係することになります。

設備や内容によって、「①浸炭+②焼入れ+③焼戻し」の工程を順次に分けて行う場合と、「浸炭~焼入れ~焼戻し」 までを一気に同一炉内で行う場合があります。 近年は、後者が主流です。

浸炭熱処理は、表面を特に硬化したいために行うもので、焼入れ操作としては、「全体焼入れ」と同様です。

全体がねばく、表面は浸炭により硬さが高い状態になるので、一般的には、低炭素の「肌焼き鋼」と呼ばれる鋼種が使用されます。


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その他 表面処理と注意点

熱を加えることによる問題

その他の熱を加える表面処理では、①焼入などの高温時に処理されるもの(CVD処理) ②焼入れとは別に、500℃前後あるいは、 それ以下の温度で処理される表面改質(窒化やPVD処理、その他の被膜処理)などがあります。

①は、焼入れ温度と処理温度が同じであれば、仕上加工した品物に、焼入れと表面処理を同時に行います。 また、 ②では焼入れなど、一連の硬化熱処理をして、仕上(研磨)加工が済んだ状態の品物に表面処理する場合が多いようです。

また、単一の表面処理だけをする場合のほかに、それらの処理を複合して実施するもの・・・なども行われています。

このような表面処理を受託する各社は、それぞれ、表面処理による効果や特徴をPRしていますので、それらはWEBで検索して検討されるといいでしょう。

通常の窒化処理は、500~600℃程度で行われますが、熱処理後にさらに硬い表面を得るための処理ですので、その処理によって、 母材の硬さが低下したり変形するのを避ける必要があります。 基本的には、母材の焼戻し温度以下で行うようにします。

また、どのような処理でも、表面層の性状や硬化層深さなどをコントロールする必要がありますので、その方法のほとんどは非公表の場合が多く、処理を実施する場合は、長所に加えて、短所や問題点などを事前に把握することも大切です。

当社の「DSハード」の例でいえば、使用用途により、硬化深さや硬さ勾配(硬さ推移)を変えていますが、品物の用途に合致していなければ、処理に費用や手間をかけても、思ったほど寿命が延びないこともあります。

また、表面処理をする前の製品表面の仕上げ程度(表面あらさや高輝度など)などが寿命に影響に影響することも多く、表面状態が悪いと、期待した硬化層が得られない・・・などの問題があるなど、どんな品物でも、表面処理をすると寿命が延びるというものではありません。

つまり、この処理をやるかやらないか、やるとすると、どういう条件がいいのか・・・などは、すべてノウハウ事項の範疇といえますが、少なくとも、表面処理の適用を考える場合には、 ①前熱処理(焼入れ焼戻しなど)を伴う場合は工程順序や問題事項の事前検討をすること ②処理に伴う変寸、変形、寸法変化を事前に検討しておくこと・・・などが必要です。

表面処理後は、それをした状態のままで研磨などの仕上げ加工を行わないで使用されるものが多いようです。

しかし、窒化などでは、極表面の脆化層(異常層)が長所に働く場合はいいのですが、そうでない場合は、表面処理をした後に研磨してそれを除去したものを使用する例もあります。

また、「機械加工→熱処理→研削等仕上げ加工」の工程を経た後に表面処理工程を追加する場合は、特に、表面処理温度と表面処理前の研磨加工寸法に配慮する必要があります。

仕上がり寸法公差が厳しい製品などでは、表面処理によって、母材の硬さ変化すれば仕上がり寸法が変化しますし、表面処理層の厚さが最終寸法に影響する場合があるので、前もって寸法変化に対する対策を考えておかなければなりません。

特に窒化処理など、熱を加える表面処理では、表面処理等の際の処理温度に注意しなければなりません。

たとえば多くの窒化処理は520~580℃というような温度で処理されるので、熱処理の焼戻し温度を越えて処理されると、焼戻し温度を上げたときと同じような問題 (組織変化・硬さ変化・寸法変化)が生じることに注意します。

また、表面処理によって被膜が形成された場合に、外形寸法が増大する場合があります。

このために、表面処理を、どの工程のどの時点で処理をするのか、その処理は何℃で行うのか・・・などを打ち合わせしておきましょう。

加えて、表面の色や肌の仕上がり、寸法の増減、変形の度合いなどについても、見本を見て確認するなどの予備知識を持つことが必要です。

一例をあげると、CVD処理と呼ばれる処理の中には、熱処理を兼ねて焼入れ温度に近い高温で処理されるものがあります。

この場合は、 仕上げの研磨加工などができないので、やはりその工程を事前に検討する必要があるなど、処理前の検討が大切です。

多様化する表面処理

近年は、様々な表面処理が開発されています。
たとえば、窒化処理のように、鋼に窒素を拡散させ、 チッ素化合物の高い硬さや表面の変化で耐摩耗性をつける処理にとどまらず、それと同時に、その他の特性を持った元素やその化合物を表面に付着させる複合処理、あるいはPVDとよばれる、チタン化合物などの耐摩耗性の高い処理層を得る方法、・・・など、 近年は様々な表面処理が開発されている上に、多様化しています。

窒化やPVDでは、処理温度が500℃前後のものが多いようですが、表面処理を検討する場合には、その処理温度や仕上がり状態についても同様に 事前に検討しておかなければなりません。

また、温度の影響のないものについては大きな問題はないと考えられますが、電解によるメッキなどをする場合には、処理中の昇温はないものの、 水素脆性の危険性に配慮したベイキング処理(水素飛ばし)などを必要とする場合があります。もちろん、その温度が焼戻し温度を超えないようにすることが必須であることはいうまでもありません。


JISでいう「硬化深さ」の注意点

表面熱処理のうち特に、高周波焼入れにおける硬化深さを理解していないと思わぬトラブルになる場合があります。

これは、全体焼入れ焼戻しをする場合でも同様ですが、一般的に、熱処理後の硬さは、内部に行くほど低下しますので、特に表面焼入れの場合は、硬化範囲が小さい上に、硬さが急変している場合が多いので、後加工の段階で曲が出たり、表面が剥離した、表面硬さがでない・・・という問題が起こる場合があります。

熱処理の特徴や硬化深さの定義を知ったうえで加工業者と打合せする必要があります。

硬化層について、その定義などを知っておくといいでしょう。

「JIG G 0559 鋼の炎焼入及び高周波焼入硬化層深さ測定方法」に、硬化深さや硬さについて規定されています。

ここには、 「有効硬化層深さ」「全硬化層深さ」「最少表面硬さ」「有効硬化層の限界硬さ」という表現があります。

この言葉の意味を簡単に意訳すると、以下の通りです。

 有効硬化深さ:鋼材表面から限界硬さの位置までの距離
 全硬化層深さ:焼入れした表面から、焼入れ前の鋼材硬さまでの距離
 最少表面硬さ:要求した表面硬さの最低値
     たとえば、「60HRC以上」と指定したときは60HRC)
 有効硬化層の限界硬さ:最少表面硬さ×0.8(上記の例では48HRC)

基本的には、「有効深さ」と「硬さ」で熱処理仕様を打合せするのが普通ですが、この場合も、この有効深さは「有効硬化深さ」であり、 硬さは「最少表面硬さ」ということに注意しておく必要があります。

つまり、硬化深さは「限界硬さ」で、ほしい硬さを指定しても、その硬さではないことに注意しなければなりません。

例えば、ある丸棒について「表面硬さは60HRC以上で、硬化深さが2mmほしい」と指定した場合に、適正に高周波熱処理をされたものでも、 2mm深さの位置では60HRCは保証されていない可能性があるということがあるので注意しなければなりません。

これは一例で、仕上げ加工をしたときに、指定の硬さがでていないということはしばしば耳にします。

仕様の打ち合わせは、しっかりしないといけないのですが、少しわかりにくい表現になっていますので、注意するに越したことはありません。

JISでは、内部硬さを知るのは『硬さ推移曲線により測定する』とあります。
これは、焼入れ断面の硬さ推移をみる方法ですが、簡単でないために余分な検査として追加の費用も掛かる場合が出ます。

そのために、問題回避のためには、事前に「仕上げしろ」などを含めて打ち合わせすることが重要でしょう。


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