鉄Feと炭素Cの合金「鋼(はがね)と鋳鉄」
「鉄」に「炭素」を加えて化合させると「鋼(はがね)」と呼ばれる合金になり、熱処理によって性質を変えることができようになります。
そしてさらに、炭素の量を増やしていって、約2%以上になると、炭素は鉄の中に溶け込まないで遊離した組織が現れて、「鋼」とは異なる性質を持つようになるので、鋼ではなくて「鋳鉄」に分類されています。
熱処理で出てくる鋼材の成分の%は重量%ですので、化学で学んだ容量%ではないことに注意してください。
重量%と容量%では、かなり違います。 Feの比重は約7.85、炭素(黒鉛)は1.6程度です。 0.45%Cの炭素鋼にS45C(えすよんごーしー)という鋼種がありますが、その平均的な比重は7.8程度です。 これを鉄と炭素だけの合金と考えると、1kgのS45Cには、1000x0.0045=4.5gの炭素が含まれていて、容積では、Feは(1000-4.5)/7.85≒128立方センチ、炭素は、4.5/1.6≒2.8立方センチですので、2.8/128≒0.02と、容積的には2%以上のCが鉄と化合して合金化しているという計算になります。 もちろん、化合して溶け込んでいるのですが、軽い元素を多く溶け込ませていることがイメージできるでしょうか?
炭素を2%以上含む「鋳物」は、鋼より融点が低いので、比較的簡単に溶かして、鋳型に流し込んで複雑な形状をいくつもつくることができます。
この加工法が「鋳造(ちゅうぞう)」です。 しかし、鋼のような熱処理によって、機械的性質を変化させることもできないものが多いですし、同じ炭素との合金でも、鋼とは全く違うものですから、このHPでは、鋳物の熱処理についてはほとんど扱っていません。
PR鋼と鋳鉄については、次ページの「状態図」でも取り上げます。
固溶体について知っておこう
鋼では、固体の状態で、Fe(鉄)に炭素やその他の元素が素地(マトリックス:matrix)に溶け込んでいますが、これを「固溶体(こようたい)」といいます。
ただし、厳密にいえば、鉄と炭素だけで出来た鋼は完全な固溶体になっているのですが、市販の鋼などは様々な元素で構成され、Feと化合しない元素もあるのですが、便宜的に、「鋼は液体状態から冷却していくと、固溶体になっている」と説明されています。
炭素量がおよそ2%を超えている鋳物では、 「鉄-炭素合金の固溶体」+「炭素の合金(炭化物)」+「遊離した炭素」・・・などが組織中に混在している状態といえます。
このように、鉄と炭素だけの合金で考えると、成分(炭素量)といろいろな温度における状態は、次のページ で説明する「状態図」に示されています。
実際使われている市販されている鋼は、鉄-炭素の2元だけの合金ではなく、Si Mn その他いろいろな元素を含んでいますから、これらの状態図は他元系となるので、絵や模型で作ることが無理ですので、ある意味では、熱処理で学ぶ状態図は、かなり特殊なもので、さらに、かなり特殊な使い方をしています。
私は、金属学を専攻していたので、大学では、かなり複雑な状態図を学んだのですが、それらは、3元系であれば1つの元素を、4元系であれば、2つの元素を固定して2元系で示したもので、こうなると、いろいろな状態を把握するという、本来の状態図ではなくなっています。
もちろん、現在の熱処理での状態図の重要性は低下していますし、これから説明するように、本来の目的とは離れた使い方をしているのですが、それよりも、近年は、一般向けの講習会などでは、状態図自体が詳しく取り上げられることも少なくなりました。
しかし、最低限のことを知っておくのは有意義ですので、それは次のページ(→こちら)で紹介します。
鋼の化学成分について
鋼は化学成分で用途別に分類されていて、「鋼種名」が付けられて市販されています。
鋼材の化学成分は成分検査表(ミルシート)などに表示されていますが、それは、鋼を製造する過程で言うと、高温で溶けている「融体(液体)」状態で決定されています。
この成分分析を「レードル分析(溶鋼での分析)」といいますが、それで決定された成分の溶湯を鋳型に鋳込んでインゴット(鋼塊)にしたり、連続的に徐冷して凝固させて固体の鋼塊にする(これを連続鋳造といいます)のですが、もちろん、冷却の過程で、均一に凝固しないので、冷却中に、各部分の成分が変化しながら凝固するので、実際の鋼材の一部を取り出して成分分析をすると、当然、ミルシートの値と異なる場合があります。
しかし、それは製造過程でみると、ある程度仕方がないことで、それもあって、レードル分析は、鋼材製品を代表する成分値が得られる方法とされています。
つまりこれは、製造したときの溶湯全量の平均組成(成分量)が成分検査表に書いてあるということですが、鋼塊になって、その後、均質化の工程を経ても、各部の成分や組織差は無くならないで、若干残っていても、実用的には問題とされています。
ミルシートと実際の成分の違いが大きくなると問題なので、鋼材メーカーでは、製鋼段階で、それを均一にするために、圧延、鍛造などの造塊技術で均一な鋼材にしていくのですが、熱処理の説明では、そんな細かいことは考えることはありません。
成分の偏りは「成分偏析」といい、熱処理事故などの原因になります。 だから、このような鋼材知識を少しだけでも持っておくといいでしょう。
PR【参考】ミルシート(鋼材検査表)に記載されている内容(項目)はマチマチで、決まっていません・・・ということも知っておいてください。
JISマークを表示する鋼材(例えば、機械構造用炭素鋼鋼材のS45C)では、JIS規格に、製造方法、化学成分、外観寸法及びその許容差、試験方法・・・などが規定されていますが、顧客の要求がなければ、JISに定めた表示(記号、溶鋼番号その他の製造番号、業者名、質量、寸法など)をすればよいだけなので、極端に言えば、成分値や機械試験値などの明記は必要がないので、全く表示されていないミルシートも多いのです。
たとえば、ミルシートに書かれる化学成分が、鉄鋼5元素と言われるC・Si・Mn・P・Sだけの場合もあれば、何も書かれていないものもありますし、規格に関係ない、Cr・Ni・Al・Cu などが表示されているものもあります。これは「顧客との取り決め」です。
鉄鋼5元素にあるP(リン)・S(硫黄)などが書かれていると、これらは普通、少ないほうが高品位の鋼ですので、これによって、材料の品位を知る・・・という見方をするのですが、そのような成分値から鋼材品位を見るという見方も、鋼材を扱っていると慣れてきて、ミルシートの数値も役に立ってきます。
また、機械試験の結果などもそうですが、メーカーでは製品を管理するために、いろいろな元素を分析していますし、様々な機械試験なども行われていますが、それらすべてを検査表(ミルシート)に記載しません。
それらをミルシートに表示してほしい場合は、「事前の取り決め」が必要というものの、小口の需要者(例えば、20丸x5mの棒鋼を1000kg買う場合など)では、要求するミルシートがもらえるのか・・・というと、ほとんど無理で、大口需要家(一次問屋と言われる会社や商社など)向けに発行されたミルシートのコピーを貰うのが精一杯でしょう。
しかし、メーカーでは製造履歴を追跡できるようになっていますので、クレームなどで大きな問題が起きて材料を問題にするような場合は、メーカーと交渉して提示してもらうことも経験しています。
もちろん、このような経験例は少ないものの、どの鋼材メーカーでも問題解決に協力していただけるのは「さすが」だと感心します。
熱処理は温度と時間を操作すること
鋼の熱処理では、しばしば変態(相の変化)を利用します。 つまり、温度と温度変化を操作して鋼の特性を変化させます。
詳しいことは、順次に説明していくのですが、ほとんど知識がない状態で熱処理操作やその時の変化をイメージしてみましょう。
鋼の温度を赤熱状態まで上昇させていくと、鋼が軟らかくなっていくだけでなく、相が変化する温度(変態点)で変態(相変化、結晶構造の変化)をします。
熱処理では、変態点以上に温度を上げるか上げないか・・・というのが、一つのポイントです。
変態点以上にあげて、面心立方晶に変態した状態から、冷やし方を操作すると、鋼を非常に硬くしたり、または、非常に柔らかくすることができます。
このことが、1つの熱処理操作の基本です。
変態点以上に温度を上げる操作を、熱処理では「オーステナイト化する」と言う呼び方をするのですが、さて、ここで、今までの知識を活かしながら、もう一度、熱処理状態を眺めてみましょう。
鋼を加熱して、オーステナイト化した状態では、もちろん、高温なので、鋼は柔らかくなっていますが、固体の状態です。 このような、いくつかの元素が溶け込んで固体化している「固溶体」の状態になっています。
そして、高温の固形(固体)の状態から、 それが冷却される過程で、固体(固溶体)の状態で、組織や結晶構造などが変化(変態)していきます。
たとえば、S45C(C量が0.45%の機械構造用炭素鋼)などのφ10mm程度の低合金鋼を考えるといいのですが、オーステナイトの状態にある高温の鋼を、水冷して、非常に早く冷却をすると、 「マルテンサイト」という組織が出現して硬化します。
このマルテンサイトの結晶構造は、bccの体心立方晶ではなく体心正方晶という少し変わったものに変わっていますし、その冷却の速さを変えて、 少し遅い冷却(例えば、油冷や空冷)をすると、フェライト、マルテンサイトなどの単相と、それ以外の、トルースタイト、 ソルバイト、 パーライトなどと呼ばれる層状になった混合組織になります。
結晶構造や組織・・・などの説明を、これからこのHPで説明していくのですが、これらの熱処理として説明される状態の変化は、 すべて、固体内における固溶体の変化です。
この熱処理操作で、鋼を柔らかくする「焼なまし」、硬く強くする「焼入焼戻し」などがあります。
これらも順次に説明しますが、「やきなまし」「やきいれやきもどし」とパソコンで漢字変換してみてください。
うまく変換されないかもしれません。
「焼なまし」「焼入焼戻し」などの特殊な表記は、熱処理加工のJISが制定される前からあった表示なので、現在のカナ送りとは矛盾はあるのですが、当面は、「このように書くもの」と思っておいてください。(私の記事も、誤変換があるかもしれませんが・・・)
次のページでは、鉄炭素2元系平衡状態図について説明します。PR