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鉄と鋼の基礎知識

鉄に関係する用語を簡単に説明してから、熱処理の話に進みます。
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鉄 Fe

「鉄」はFeで表される元素(物質)です。

鉄Feは、Si(シリコン)結晶などの99.99999・・・と違って、99.999%以上の高純度のFeは製造するのが難しいために、鉄以外の元素が0.001%程度以下のものを、「純鉄」 と言っています。

純鉄の比重は、理科年表によると、7.874で、鉄鋼種の構造用炭素鋼S45Cは7.9、オーステナイト系ステンレスSUS304は8.0 となっています。

合金の量によって比重(密度)が変わるのですが、ミルシート(鋼材検査成績書)の成分%は、化学で用いる容量%ではなく、「重量%」です。

5%のCrといえば、クロムが重量中に5%含まれるということですが、これももちろん、純金属のCrではなく、合金化している状態です。

ちなみに、ミルシートにはFe%が示されていません。また、示された合金成分を合計した%の残りがFeということでもありません。 この理由は、ミルシートには、すべての合金%が示されないためですが、これは慣例的なものですから、知っておくといいでしょう。

ここでは、主に、鉄と炭素の合金の「鋼」の熱処理の内容ですが、Feについても知っておくといいので、純鉄について、少し見ていきましょう。


純鉄は、温度によって4つの形態になります

鉄(Fe)は、高純度のものを作るのは大変で、Fe以外の不純物が0.001%以下と少ない鉄を「純鉄」と呼んでおり、工業的には、Fe以外の元素(特に炭素)が0.01%以下であれば、純鉄と言っていいでしょう。

純鉄は温度によって結晶配列などが変わり、一般的には、4つの「相」がある・・・というように説明されています。

①911℃までの地鉄(これはアルファ鉄という言い方もあります) 
②オーステナイト(これはガンマ鉄と言います) 
③1392℃を越えるとデルタ鉄 という分類をします。
④1536℃以上では解けて融体(液体) になります。

高温の液体の状態から純鉄を冷やしていくと、デルタ(δ)鉄→ガンマ(γ)鉄→アルファ(α)鉄になります。 これらの変化は主に、結晶構造が変化することでこのような呼び方をしています。

熱処理では、相の変化のことを「変態(へんたい)」といいますが、これは、次のページで紹介します。

磁性の変化(キュリー点)

ギリシャ語の順番は、アルファ→ベータ→ガンマ→デルタです。 ここで、ベータ(β)鉄というのが抜けているのですが、このベータ鉄は、結晶構造の変化したものではなくて、磁性変化した状態のアルファ鉄を指しているので、最近の熱処理では説明されないことも多いようです。

常温のα鉄は強磁性で、その温度を上げていくと、730℃程度以上の温度で常磁性になり、これがβ鉄です。

さらに温度を上げて911℃を超えると、結晶構造が変化して、γ鉄になります。

同様に、δ鉄もありますが、鋼の熱処理では、ほとんど取り上げられません。 

なぜならこれは、通常の熱処理温度で使用する温度範囲内にないからで、鋼の熱処理の説明では、アルファとガンマという言葉がでてきますが、鋼は炭素との合金であるために、α鉄はフェライト、γ鉄はオーステナイトなどと、組織などのところでこれらが出でてきます。 しかし、ベータとデルタという言葉はほとんど出てきません。

磁性の変化は重要なことです。 例えば、非磁性のオーステナイト系ステンレス鋼が着磁をして困ることが起きるのですが、この場合は、温度を上げて、「オーステナイト化」をして磁性を除去する対策をする・・・という説明がされますが、この後のページで紹介する、鋼の平衡状態図(→こちら)には、磁気変態点A2(エイツー)やセメンタイトの磁気変化点A0(エイゼロ)などもあるのですが、特に詳しく説明されていないようです。

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結晶構造とその変化

このうち熱処理と関係深いのは、γ(ガンマ)鉄とα(アルファ)鉄で、温度を上げた時に相変化することを利用する鋼の熱処理では、この2つはしばしば取り上げられます。

γ鉄は面心立方格子、α鉄は体心立方格子の結晶構造をしています。

FCCfccfcc=γ鉄
BCCBCC構造図bcc=α鉄

【この図は・・・】
黒い丸を1つの鉄(Fe)の原子とすると、鉄原子の領域は、右の球形の図のように、 1つの原子が占領している「持ち分」を表しているというようにイメージください。

図にある黒丸を結ぶ線が「格子(こうし)」で、黒丸と格子で囲まれる面を「格子面」と言います。

この「丸」の並び方は、X線解析によって調べることができますが、 もちろん、実際には、このような格子面や格子線はありませんから、この図は理解しやすいようにしたものです。

金属の純物質では、上の模式配列の図のように、同じ結晶がずっと並んでいます。 でも、かなり、原子の並び方が違う感じがしますね。

そこで、セル(四角いひと区切り)1個に含まれる原子の数の数えてみましょう。(上の右側の図をみると分かりやすいでしょう)

bccでは2個、fccでは4個と、セルを構成する原子の数が違うのですが、これを数えてみましょう。

ずっと3次元的に並んでいる結晶の1つを切り出していますので、 bcc では「角にある1/8個を受け持っている原子」 x 「8か所の角」で1個です。 そして、中心1個あるので「合計2個」 であるのに対して、fcc では、「角にある1/8を受け持っている原子」 x 「8か所の角」の1個と、「面で1/2ずつ受け持っている原子」x「6か所の面」の3個の、「合計は4個」 ですから、セルに占める原子の数が違うのです。

さて、熱処理することで、原子4個のfccが 2個のbcc になるのですから、この、余ってきた原子はどうなるのでしょうか・・・ そうすると、「体積が変化したり、何かが変化しそうだなぁ」とイメージできませんか?

実際にその変化の状態は、変態点で寸法変化が起こるので、その変化がわかりますし、鋼では、高温から急冷すると、硬くなるものもあり、また、体積変化が生じますから、何らかの変化があることがわかります。

これらの結晶構造の図は、純粋な物質(Fe)のもので、熱処理中に結晶構造が変わっていることを説明するために用いられているのですが、普通の鋼では、いろいろな元素が上の黒丸の鉄原子と入れ替わったり、小さな他の元素の原子が格子の中に入ってくる場合などがあるので、このような単純なものではありません。

あくまでこの図は、 「純粋な鉄」の模式図ですし、純鉄のような純粋な「鉄」の結晶は、上記のような基本格子(セル)がずっと連なった状態で物質の「鉄」を作っている・・・というイメージでこれらの図を見ておいてください。

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熱処理での説明は、純鉄ではなく、鋼としての説明なので、単純な鉄と炭素の合金(=鋼)は、常温の状態では、体心立方(bcc)になっていて、温度の高い状態になると結晶配列が変化して、面心立方(fcc)になっており、これを「オーステナイト」といい、またこれを、γ(ガンマ)と表記されることもあります・・・と説明されます。

熱処理では、このような「相変化」を、「変態(へんたい)」と言い、その変化する温度を「変態点(または変態温度)」と言います。 これらの相の状態を示すのが「状態図」ですが、これについては あとのページ で説明します。 

この結晶構造の変化を利用して鋼の熱処理を行うのですが、市販されている鋼(鋼種)では、ミルシートに記載されないような沢山の種類の元素が合金化されていますし、高温の状態では確認も困難ですから、上の図のような単純な結晶配列として目にすることは難しいでしょう。

そのために、通常の鋼種の結晶配列やその状態を説明するケースはほとんど無くて、金属組織や硬さ(機械的性質)の変化などで説明されるのですが、ここではともかく、温度を上げ下げすることによって、結晶構造が変わって、性質が変化する・・・ということを覚えておいてください。

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鋼の結晶配列については、FCC・BCC以外にもありますが、熱処理に対応した研究やデータが少ない状況なので、深入りする必要もないでしょうから、ここでは、「温度(さらに温度勾配)によって、結晶配列が変わって、いろいろな特性が変化する」ということで、上の原子の配列模型図も、特殊な標準的な状態のものですから、ここでは、「鋼の熱処理によって、元素の並び方を変える・・・」という程度で見ておくだけでいいでしょう。

詳しく学びたい場合は、書籍を利用してください。また、Amazonで探すと原子模型がありました。自分で作ってみると、構造が確認できて面白いでしょう。

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鋼になると鉄にはない、すごい特徴が加わる

まず、「鋼」の読み方ですが、1字では「はがね」と読み、2字語以上では、普通鋼、合金鋼のように、「こう」と読むことが多いようです。

純鉄では、温度によって結晶構造が変化するだけで、ほとんど可逆的な変化をしますが、炭素量が0.01%程度以上の鋼になれば、「鋼」として性質で、「熱処理で硬くなる性質」などがでてきますし、さらに、不可逆性が出てきます。

不可逆性の度合いは、鋼中の炭素量の影響が非常に大きく、熱処理によって、この不可逆変化を操作できることが、鉄合金(=鋼)のすごいところです。

上の結晶の話で、高温でfcc(面心立方晶)の状態の鋼をゆっくり冷やすとbccになり、またゆっくり、もとの高温に戻すとfccになります。

可逆的に bcc(体心立方晶)とFccに変化しますが、ゆっくりと冷やすのではなく、温度の高いfccの状態から急速に冷却すると、bcc ではないbct(体心正方晶)が晶出します。すなわち、この急冷操作によって「不可逆性」が出てきます。

これを、熱処理では、硬い「マルテンサイト」というものに変化した・・・というように説明されます。(「焼入れ」のところで説明します)

もちろん、炭素量によって、その出てくる割合や硬さなども変わるのですが、いずれにしても、急冷すると「焼きが入った状態」になって、硬くなる・・・という表現をします。

炭素が含まれない純鉄では、温度に依存して、α鉄とγ鉄に変化するだけですが、鋼になると、不可逆変化が起こることが大きな特徴です。(これについては、「焼入れ」の項目で詳しく説明しますので、ここでは読み流しておいてください)


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熱処理コラム①アモルファス

鋼はこのように結晶構造を持っています。これに対して、ガラスなどは結晶構造がなく、非晶質といわれます。

近年、アモルファスといわれる言葉を聞く機会が増えていますが、 アモルファス=非晶質のことです。

金属などの結晶質は、結晶が並んでいるために、外力によって変形する際に、特定の面でずれるのですが、非晶質では、それらのすべり面が定まらないために、 結晶構造のものとは違った性質が出てきます。

最近の研究では、アモルファス状態になった鉄合金では、非常に機械的性質が優れたものが見つかっています。 その他、結晶構造を粉砕して鉄合金をナノ化することで、非晶質のようになります。

非晶質になることによって、非常に硬くなったり、桁違いの展伸性が得られたりします。

これらについては、まだまだわからないことが多い領域ですが、鋼の性質を根本的に変える、面白い分野といえるかもしれません。


②硬化の仕組みについて

このHPでは、焼入れしたときの硬化を説明していますが、一般的には、金属類の硬化の仕組みには「転位」「固溶」「析出」「粒子分散」などによるものがあるとされます。

【転移による強化】 簡単に紹介をしますと、通常の鋼は、多結晶体で、その結晶が整然として並んでおらず、「転位」と呼ばれる欠陥があります。

鋼を変形(加工)すると、その転位がさらにもつれ合って、硬く(加工硬化と言います)なります。(これは「転位説」の基本的な考え方です)

焼入れして硬化する「マルテンサイト変態」も、結晶構造が変化することで内部ひずみが増加して強くなるものなので、これも「転位」による強化といえます。

さらに、その転位の隙間に炭素や窒素などの侵入型元素が入り込むことで、さらに内部ひずみを増加させて強化することができます。
炭素を侵入させる浸炭や窒素を侵入させる窒化の機構も転位による強化です。

【固溶による強化】 元素の直径が小さい、酸素、水素、窒素、炭素などではなく、クロムやニッケルなどになると、結晶配列中の鉄に置換して、その置換した状態で固溶体を形成し、鋼を強化します。

例えば、強靭鋼と言われるものは、Crなどを添加することで、強い鋼になるのは、この強化機構を利用しています。これが「固溶」による強化になります。

【析出による強化】 焼入れ、2次硬化、時効など、温度などによって共析炭化物や金属間化合物などの新しい相(組織)が析出することで強度が変化する場合などをいいます。これは、熱処理の範疇ですので、このHP記事の中で説明している「2次硬化」がこれです。

【粒子分散による強化】 そして「粒子分散」は、素地中に炭化物などがあると、強度の状態が変わることなどがその例として挙げられます。

既存の熱処理法にこれらを組み合わせると、熱処理の「焼入れ硬化による強化」だけではない新しい性質を持った鋼を作り出せると考えられていて、それを「複合熱処理」という分野で研究されています。興味ある方は専門書籍で確認ください。

次のページでは、鉄・鋼・鋳鉄、固溶体、成分、熱処理などの基本的な雑知識について取り上げています。→次のページへ

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