硬さ換算表について
JISハンドブックなどの巻末にしばしば掲載されている換算表を用いて説明します。
下表は、JISハンドブック(熱処理)の後ろの方に掲載されている、 ビッカース硬さを基準にしたSAE換算表の例です。
そのほかにも、ブリネルやロックウェル硬さを基準にした換算表がJISハンドブックの末尾などに掲載されています。
SAEの硬さ換算表(例)
熱処理品の硬さ検査(試験)は、指定された試験機を用いて硬さ検査をすることが原則ですが、平成10年頃以降は、硬さのトレーサビリティーの向上や、硬さ試験方法の標準化が進んだこともあって、換算表を用いた硬さ換算が容認されてきたようです。
熱処理した品物の硬さを測定する場合は、どのような試験機でも測定できるというものではありませんし、誤差の少ない測定を考えると、品物に適した硬さ試験機を用いて目的の硬さに換算して評価することは依頼者と受託者双方が望むことですので、換算表による換算は非常に理にかなったもので便利なものと考えるようになってきているのでしょう。
硬さ試験機や測定の方法はJISでは厳格に定められていますが、それは「管理のためのもの」で、熱処理現場での硬さ測定は、最も確からしい硬さを測定する方法をそれぞれの会社で決めて、社内規格として運用していることも多いようです。
そのために、可搬性に優れたショアー、再現性に優れたロックウェル、低い硬さでの安定性に優れたブリネル・・・などを使い分けるのが一般的で、中でも、よく使われるのが安定性の高く、硬さ測定範囲が広いロックウェル硬さ試験機と、持ち運びができて、大きなものの硬さが測定できるショアー硬さ計との HS-HRCの換算 を多用しています。
数種が掲載されたSAEの換算表を比較するとわかるのですが、特に、ショアー(HS)の数値が微妙に違っているのが目立ちます。
そして、ショアーの検査数値を疑問視する人も多いのが実情で、「ショアーはショアがない(しょうがない)」というダジャレを聞くこともあるのですが、硬さのばらつき要因を考えると、硬さ値を厳格にするには限界があるので、硬さ値に対してそこまで神経をとがらせる必要性もないように思います。
換算表を使用する時の注意点は知っておく必要あり
換算表には、それを適用するときの注意点などが書かれています。
①換算表は幅広い鋼種の近似的なものであるということ
②オーステナイト系ステンレスや冷間加工したものは不可
③滑らかな表面であること
④表面焼入れ品などは不可で、十分な厚さがあること
などが示されています。
当然、硬さ試験機や硬さ試験方法に書かれている内容にも注意する必要があるのですが、規格に書かれている内容は、硬さ基準片を用いる場合のものであり、実際に行う硬さ試験では、それらの規格に沿った試験方法に沿った条件で行うことができるようなものではないので、基本的な知識として『換算表を使う場合は注意事項がある』ということを知っておくといいでしょう。
一般的な熱処理品では、HRC-HSの換算 を使用する例が多いのですが、私が昭和年代の末期に、試験的に、HSの硬さ基準片をHRCで測ったり、その反対にHRC試験片をショアーで測ったりしてその違いを調べて見たことがあります。
この時は、非常に互換性に優れていましたので、換算表の誤差を心配する必要はないと考えています。
日本においては、このように、外国規格を準用している状態で、JIS化はされていませんが、「硬さ研究会」などで検討されたものや、硬さの権威であった吉沢武男先生の資料などには、多くの換算表が紹介されています。
現状では、どのようなものが使われているのかという使用実態はわかりませんが、昭和年代にはかなりアバウトな換算表も使用されていて、換算数字も微妙に違っていたようですが、現在は、上にあげたSAEなどのもので実際的に商取引にも使われてきていますので、いまさらJISなどでこれを統一するのは難しい問題点があるのでしょうから、多分、JIS規格化はさらない感じです。
この換算表があることで、いろいろな試験機の適不適をカバーしているといえるので、換算表のメリットは計り知れません。
PR実用性に優れた硬さ換算表
私の勤めた会社「第一鋼業(株)大阪府大阪市西成区」では、昭和50年代から、上記のSAE(AISI)の換算表や、「吉沢武男編 硬さ試験機とその応用 (裳書房)」、硬さ研究会などの資料を用いて、HRC-HSの換算に便利な独自の換算表を作成して使用してきました。
第一鋼業(株)では、大きなせん断用刃物の硬さ測定は、ショアー硬さ試験機による手持ち測定が多いことから、ショアーをより高精度に表示する必要性があることや、より緻密に換算できるように、HS・HRCは、0.5単位にするなど、より信頼性の高い換算値になるように、独自の換算表を作ってきました。
ショアー硬さの精度や信頼性について疑問を持つ方も多いのですが、ショアー硬さ試験機がなければ、品物の硬さを測定できないことがあるために、なくてはならない試験機です。
また、ショアー硬さ試験機は、エコーチップなどのリバウンド式の試験機等手持ち測定ができるものに比べて、数値の安定性も高く、JIS規格やトレーサビリティー(国家標準につながる精度の体系)にも対応しているために、換算表では、ショアーとその他の硬さとの関係が特に重要になりますので、それらを勘案して、下のような換算表を作成しています。
もちろん、これは、SAEの換算表を補完して使いやすくしたもので、お客様からのクレームや取引上でも問題になったことはありません。
PRここでは示していませんが、SAEの換算表はいくつかの表があって、その各表の換算値を見比べると、換算値が表ごとで異なっている箇所があります。
換算表は、それほど厳格なものではないということですが、下の換算表は、その数値の違いを修正しながら、さらに、変化がなめらかになるように数字を丸めて、引張強さもなじみ深い旧単位を併記することで使いやすくしています。
HBWはタングステン球のブリネル硬さ、HBDはブリネルの球痕径、Mpは引張強さのメガパスカル換算値です。
ちなみに、この図は、上の換算表のHRC-HSの数値をプロットしたものです。SAEの表の数値を調整して、かなりなめらかな変化になっています。
換算表は厳格なものではないので、「換算表とは、この程度のもの」・・・と考えて使用すれば良いと考えています。
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