この熱処理について教えて下さい 熱処理の疑問を解消

ステンレス鋼の種類と特徴について

ステンレス鋼は鋼種名もよく似ていて、それぞれの特徴がわかりにくいのですが、鋼種を間違うととんでもないことになりかねません。 

一般に流通している鋼種はそんなに多くないので、基本的な鋼種について、ポイントを押さえておくといいでしょう。

ステンレスの流し台 ステンレス製のボルト類

錆びない鋼?錆びにくい鋼?

いろいろな用途に使われるステンレス鋼ですが、過去には「不銹鋼(ふしゅうこう)」などと呼ばれていました。これは「錆びない鋼」という意味ですが、正しくは、錆びにくい鋼というのが適当でしょう。

錆びにくい理由は、一般的には、鋼中のCr(クロム)が10%程度以上のステンレス鋼は、表面に不動態皮膜ができて、それが傷ついてもすぐに再生されるために、常に表面が保護されている状態になる・・・と説明されています。

ステンレス鋼の現在の呼び方は、ステンレススチールステンレス、あるいは鋼種記号のSUSから「サス」・・・などと呼ばれています。

ステンレス鋼は、よく使われる3つを覚えていると、わかりやすいでしょう。(下では5つの分類で説明していますが、ここでは、3鋼種を覚えましょう)

この3つは、①流し台などに用いる、安価な「フェライト系」のSUS430 ②錆びにくく、磁石につかない「オーステナイト系」のSUS304 ③焼入れして刃物になる「マルテンサイト系」のSUS440C ・・・ の3鋼種です。

ステンレス鋼で最も馴染みのある鋼種は オーステナイト系で最も安価な SUS304 ですが、これは通常「さすさんまるよん」と呼ばれていて、成分のクロム量が18%、ニッケル量が8%程度であることから「18-8(じゅうはち・はち)ステンレス」という呼び方をされることも多いようです。

流し台などに使用されているSUS430は、フェライト系ステンレスに分類されていて、SUS430に比べると耐食性が若干落ちますし、強磁性で、磁石に付きます。

マルテンサイト系のSUS440Cは、焼入れして最も硬くなるステンレス鋼の鋼種ですが、耐食性で言えば、SUS304にはかないません。

この3鋼種を覚えたら、一般的なステンレスについて見ていきます。

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JIS(やISO)では

JISには、「ステンレス鋼は、炭素量1.2%以下、クロム量10.5%以上の鋼・・・」と規定されています。

これは「クロム量が多い鋼」という意味合いが強いのですが、鋼中の炭素は「硬さ」に関係し、クロムは耐酸化性を左右する元素です。

そして、炭素量が低いほど、そして、クロムやニッケルなどの量が多いほど耐食性(耐酸化性)が高くなります。

刃物などでは、高い硬さが必要ですので、炭素量が重要であるために、多少、耐食性が低下するのですが、硬さを出すために、炭素量を高くした「マルテンサイト系鋼種」が用いられます。

これらの刃物用のステンレス鋼は、炭素量もクロム量も大きいので、錆びにくいのですが、残念ながら、切れ味などは、高級包丁などに使われている、「炭素工具鋼」にはおよびません。

つまり、反対に、耐食性の要求される鋼種では、強度が低下しても、炭素量を減らして耐食性を高める鋼種を使用します。

耐熱性や耐酸化性の高い鋼でいえば、JISの鋼種には、「耐熱鋼(SUH)」がありますし、Cr・Ni・Coなどの合金成分が非常に多いものはステライトやインコネルなどの「超合金」などに分類されるものなどがありますが、それらもステンレスと言ってもいいのですが、JISでは超合金はありませんし、SUSとSUHは、別の分類になっています。

つまり、これらも「ステンレス」の仲間なのですが、SUS***という鋼種名になっているものをステンレス鋼として考えるのがわかりやすいでしょう。
・・・と言っても、SUSに分類されているものだけでも、たくさんの鋼種があります。


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ステンレス鋼に求められる特性は、耐食、耐熱、耐酸化、耐薬品、強度、価格・・・など様々で、このような用途別や要求の違いのために、成分範囲が広範囲で、たくさんの鋼種があるのですが、これが大変わかりにくい状態になっています。


ステンレス鋼には、SUS***という鋼種番号がつけられています。

この3桁の番号はアメリカのAISI規格などをそのままJISにしたものですが、もともと、かなり適当につけられていた番号なので、このことがステンレス鋼の全体像を理解しにくくしています。

しかし、今更どうしようもできないので、必要な鋼種があれば、個々に基本的なことを覚えていくしかやり方はないようです。

鉄ボルトのサビ 鉄板のサビ

錆びにくい理由は

説明のされ方はいろいろありますが、上の写真のような「サビ」は、鉄(Fe)が酸化したり水酸化物ができたりして、このように「サビ」になります。

それがステンレス鋼では、表面にクロムの緻密な不動態膜があるために、上の写真のようなサビができにくい・・・とされます。


ステンレスの鋼種名がわかりにくい

ステンレスの鋼種名や系列などは規則性があまりないままに鋼種名となっていてこれが非常にわかりにくいのですが、ここでは、簡単な種類と性質、それに熱処理などについて説明します。


ステンレスは大きく分けて5種類に分類

この5種類に分類されているのが多いのですが、決まったものではありません。

鋼種を考える場合は、何に対する耐食性などの特性を考えるか・・・ということとともに、次には「価格」の問題も大きいでしょう。

価格は合金元素の量、作りにくさ(製鋼時の歩留まり)、取扱量などで決まりますので、簡単な評価は難しいのですが、価格の安いものは「フェライト系」、耐食性の高いものは「オーステナイト系」、強さを求めるなら「マルテンサイト系」に大別され、「2相系」はオーステナイト系とフェライト系のいいとこ取りを考えたもの、「析出硬化系」は高価で特殊な用途のものに使用される・・・というイメージで考えておくといいでしょう。

このため、日常の耐サビ性を求めるなら、安価で加工性のいいフェライト系ステンレスのうち、汎用性の高い SUS430 を考えればいいですし、特定の耐腐食を求めるなら、酸やアルカリの種類や環境条件にあわせて個々の使用環境にあわせて検討していくことになります。

ステンレス鋼の代表成分
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フェライト系ステンレス

【特徴】
最も安価なステンレスで、 SUS430 という鋼種が代表的です。

流し台のシンクなどに使われます。SUS430よりさらに加工性を高めた鋼種など、多くの種類もありますが、SUS430がメイン鋼種となっています。


【成分】
低炭素のクロム系の材料で、一般的には「18%クロム系」と呼ばれることも多いようです。

強磁性のため、磁石に付きます。

ステンレスの判別では、しばしば、磁石につくかどうかで区別されることが多くあります。

しばしば、スクラップの買取価格を決める場合の手段に用いられることもありますが、フェライト系やマルテンサイト系は通常鋼にくらべると被着性は弱いですが、磁石に付きます。しかし、オーステナイト系のステンレスは常磁性のために磁石にはつきません。(非磁性ではありません) 高価なニッケル成分が多いということで、古鉄(スクラップ)はオーステナイト系のほうが高価に買い取られるようですが、もちろん、実際の鋼材単価は、成分だけでは決まるものではありません。


【熱処理】 
フェライト系のステンレス鋼種は、通常は「焼なましをした状態」で販売されていますので、鋼材を購入して、そのまま成形して使用します。 熱処理は必要ありません。

加工硬化したものを軟化をすることが必要な場合には、900℃程度から空冷することで軟化します。

加工硬化して機械加工がやりにくくなった場合も、焼なましをすると回復します。

その時の注意点は、300-600℃程度で脆化するため、その温度をさけることやその温度域を避けて早く冷却することに気をつけないといけません。

もちろん、どのような場合でも、加熱すると変形は避けられませんので、そのことについても注意をしておく必要があります。


マルテンサイト系ステンレス

【特徴】
焼入れすると硬化するステンレスで、耐食性と強度・耐摩耗性に優れています。
熱処理をして刃物などに加工できるのですが、その反面、他に比べると耐食性は落ちますし、硬いことはすなわち、「脆い(もろい)」という性質もでてきます。


【成分】
成分中の炭素量によって、熱処理した時の、強さや性質が変わリます。

13%クロム系と呼ばれる SUS403 や SUS420 などが比較的多く使用されます。
また、1%C-18Crの SUS440C は、焼入焼戻しによって、57HRC程度の非常に高い硬さにすることが可能です。

刃物材などには、硬い、さびない、刃欠けしない・・・などの要素が求められますが、SUS440Cよりも高い硬さの希望も多く、製鋼各社では、それに対応する鋼種もあります。(こちらに関連記事あり)


【熱処理】
一般的には柔らかくするための「焼なまし」や、硬く強くするための「焼入焼戻し」が行われます。

趣味で鍛錬してナイフを作る方もおられるようですが、鍛錬後の放冷でも硬くなるので、機械加工するには「焼なまし」が必要です。

市販の状態は「焼なまし」されたものが販売されていますので、それを成形して、「焼入焼戻し」して適当な硬さにして刃物や工具に使用されます。

成分系が冷間工具鋼などの高合金鋼に似ていますので、それらと同様の熱処理をする鋼種だと考えておくといいでしょう。


オーステナイト系ステンレス

【特徴】
非磁性で耐食性が他の鋼材よりも優れており、高温にも強いという性質もあるので、様々な成分で多くの鋼種があります。

代表的な鋼種は、このうち最も安価な18%Cr-8%Niの SUS304 です。

【成分】
低炭素でクロム-ニッケル系の材料です。
耐薬品や耐熱などの対象に応じて成分を調整された鋼種など、非常に多くの鋼種があり、鋼材価格も異なります。

炭素量が少ないほうが耐食性に優れるために、鋼種の末尾に「L」をつけたSUS304LやSUS316Lなどもあり、もちろん、それがないSUS304やSUS316とは別鋼種に分類されています。


【熱処理】
販売されている状態は、焼入れのような急冷することで柔らかくする固溶化処理溶体化処理ともいいます)がされています。

柔らかいオーステナイトという状態になっていますので、その状態のままでで使用します。

溶接などで熱を加えたり、強加工するとオーステナイト状態でなくなってしまうこともあります。 こうなると、耐食性が低下したり、強磁性になったりします。

これを改善するには、固溶化処理をし直す必要がありますが、高温に加熱するので、変形などで問題になりやすいので注意が必要です。

SUS304よりも安定した耐食性を得るには、オーステナイトの安定度が高い鋼種を選んで使用しますが、高価になります。

いずれの鋼種でも、オーステナイトから変化すると、耐食性や強度は低下します。この場合には、耐食性を回復させるためには、再度、溶体化処理が必要です。


オーステナイト-フェライト系(2相)ステンレス

【特徴】
フェライト系とオーステナイト系の性質をあわせ持ち、強度があり、溶接性などが優れることで、化学工業プラントなどで使用されます。

オーステナイト系のように、高温環境には適しません。
SUS329が代表的な鋼種です。


【成分】
オーステナイト系に比べてクロムが高く、ニッケルが少ない省資源型で安価になるような成分設計となっており、フェライト層とオーステナイト層が均等に分布していることで、両者の特徴と強度を併せ持っていることが特徴です。


【熱処理】
通常は熱処理済みの状態で流通していますが、必要な場合には、オーステナイト層を固溶化するための熱処理をします。
この操作をすることで、フェライト層も軟化された状態になります。


析出硬化系ステンレス

【特徴】
固溶化処理された柔らかい状態で成形加工した後に、時効処理をします。 熱処理操作は「焼戻し」と同じです。 その再加熱処理で、析出硬化で硬くなります。

強度があり、耐食性も高いのですが、高価なために特殊な用途で使用されます。SUS630 という鋼種が基本鋼種です。


【成分】
SUS630は炭素量は0.05%程度で、16%クロム-4%ニッケル系ので銅を4%含んでいます。

SUS631は7%Niで、アルミニウムを1%含みます。

これらはいずれも、時効処理で硬化します。


【熱処理】
JISでは1050℃程度に加熱して固溶化処理することにより軟化し、通常はその状態で機械加工をした後に析出硬化させるためにH900-H1150(470-630℃)と呼ばれる4種類の時効処理が規定されています。

硬さとともに機械的性質が変化します。
このため、温度やH**(例えば H900は華氏900℃で処理をするという意味)などがありますが、温度ではなく、硬さ主体に考えて時効処理をすればいいはずなのに、処理方法が規格化されていて、その処理温度が掲載されていますので、それにこだわりすぎている人も多いようですが、本来は、硬さを決めて熱処理する・・・という考え方のほうが理にかなっています。

500~650℃程度の温度範囲では、機械的性質はなだらかに変化しますので、例えば、「硬さ」を決めるように熱処理すればいいはずですが、「JISに書いてある温度でなくてはいけない」と思っている方も多いようです。(→こちらを参考に)

SUS630では、硬さはH900(約480℃)の時効処理で 44HRC 程度の最高硬さになります。

析出硬化系鋼種には、時効処理によって52HRC程度の高い硬さの出る鋼種もあります。

析出硬化系の鋼種は、このような素晴らしい性質があるのですが、高価すぎるために、価格がネックになっていて、使いにくいようです。



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