JIS硬さ(じすかたさ) [s14]
過去のJIS規格に参考資料として示されていた硬さ範囲のことで、下に例をしましたように、標準的な熱処理をした場合の参考硬さのことを慣用的に「JIS硬さ」という言い方をされています。
主に、構造用鋼に対して、「調質」や「焼ならし」「焼なまし」などの熱処理を行う場合は、この「硬さ」に熱処理するのが一般的でした。
例えばS45Cの調質硬さは201-269HBで、SCM435のJIS硬さは269-321HB・・・・・などがそれにあたります。
これらは、熱処理をする場合に参考となるためのもので、小さな試験片をJISに定めた熱処理方法をしたときの硬さを一覧表にしてJISに掲載されていたのですが、実際に熱処理をする場合は、品物が大きいものでも、ともかく、その数字を使う・・・という習慣があって、現在でもその数値が生きています。
つまり、例えば、S45Cの調質といえば、硬さを201-269HBにする・・・というのが標準的な硬さ・・・だと、暗黙知されています。
現在ではJISの規格表にも、この参考数値や図表は掲載されていませんから、このような「JIS硬さ」というものはなくなっていますが、数字だけは生きています。
現在の熱処理加工のJIS規格では、調質などでの標準的な硬さは「社内規格などで定める・・・」としています。
しかし、その硬さも「表面硬さ」を規定されているだけで、材料強度的にみると、いろいろな問題が出てくる可能性があるのですが、それらのデータを整備するのは現実的に大変で困難ですから、現在でも当時のJISに掲載されていた硬さ値が一つの基準となっている・・・という状態です。
PR実は、このデーターは貴重なもので、問題点と使い方を知れば便利なものです。
現在では、JISにおける熱処理条件と得られる機械的性質、得られる硬さなどについては、社内規格等によって個々の工場で定めることになっていますが、例えば、調質をする場合に、焼入れ性の低い構造用鋼などは、サイズを考慮した基礎的なデータは作るのも大変なので、なにもない状態です。
熱処理品の硬さは測定できるので、測定した硬さに対応する引張強さは硬さ換算表などから推定できますが、内部に行くほど硬さが低下していると、その他の機械試験値はどうなっているのかは、まったくわかりません。
それらもあって、JISにあった参考硬さは、適用条件はあるものの「信憑性があるデータ数字」ですので、現在も生きている・・・というのが現状ですが、「JIS硬さ」というのは違和感がありますが、いまのところは言い方を変えるのも難しいのでしょう。
PRこの、古いJISハンドブックなどに掲載された硬さ値や機械的性質などの一覧表は、平成年代の初期ごろまでは、構造用鋼(炭素鋼・合金鋼)のJIS規格の参考資料として、JISハンドブックなどには掲載されていたようなのですが、現在は削除されています。
ここには、標準的な熱処理条件で焼入れ焼戻し(調質)をした場合の参考硬さなどが表で示されていました。
これは構造用炭素鋼の例ですが、この数字は、小さな試料をJISに示された熱処理条件で熱処理をした場合に得られる標準的な機械的性質(硬さなど)ですので、少し大きくなると数値は大きく変わりますが、それを整備するのも大変なことなので、これ以外の図表はなかったようですし、今では、この試験の詳細もよくわからなくなっています。
しかし、非常に参考になる数字で便利なので、熱処理依頼をされるお客さんも、「JISかたさで・・・」と言うだけで、一応の熱処理をしてもらえることもあって、便利なものでした。
現在では、私が知るところでは、大同特殊鋼(株)さんのハンドブックに同様のものが掲載されている以外は、全容を目にすることはなくなってきています。
もちろんこれは、特定の条件で試験されたものなので、「鋼種の標準成分範囲、棒径サイズ、焼入れ焼戻し条件で熱処理した場合の参考硬さ・・・」という注意書きがあったのですが、多くの人は、その硬さにすることでJISに示された基本的な機械的性質が得られる・・・ と受け取っている人が多く、ともかく、大きな形状の品物でも、そこに書かれた硬さを熱処理硬さに指定する方が多かったという状況でした。
これは非常に問題があるのですが、試験片の熱処理試験結果と実際の熱処理の結果は多くの点で異なることに注意が必要です。
例をあげると、多くの熱処理試験は10mm程度以下の小さな試験片を用いたものですが、特に構造用鋼の品物では、大きな品物を熱処理するのが普通で、そのために、品物が大きいと、焼入れすると、表面の硬さも出にくい上に、表面と内部の硬さの差が大きくなっています。
S45Cの調質品を例に取ると、10mm程度の丸棒などでは、表中にあるように、860℃で水焼入れして、600℃程度で焼戻しすると、250HB程度の硬さになるのですが、少し品物が大きくなると、硬さが入りにくいので、600℃で焼戻しすると、表の201-269HBの値が確保できなくなるので、焼戻し温度を下げて表面硬さを確保することになります。
さらに品物が大きくなると、焼入れ後の表面硬さも十分に出なくなるので、表に書かれた最低温度の550℃でも硬さが確保できない場合もでてきます。
そうなると、品物が大きくなれば、この表に書かれた機械的性質は、本来確保できないものになっている・・・ということになります。
硬さは引張強さと相関があるので、硬さを測ることでそれに対応した「引張強さ」は確保できるのですが、内部の硬さはわかりませんし、大きな品物の「伸び、絞り、衝撃値」などは確保されていない可能性が高いのです。
つまり、表面硬さは確保されても、全体強度は保証されていないということになります。
これは、材料の特性ですので、熱処理操作ではどうすることもできませんが、もちろん、調質をしないよりも高い機械的性質が得られますので、熱処理をする価値はあるのですが、これらのことは知っておくといいでしょう。
PR私の記憶では、昭和年代には「JIS硬さで・・・」と調質の熱処理依頼するお客様がほとんどだったのですが、注文する側も熱処理する側も、これだけで通じていて、とても便利でしたし、熱処理する側も、その硬さを満たせばいいということで、双方に安心感のある数値であったようですので、JISに表示された硬さやその内容は、双方に便利なものであったということが言えます。
これらの表がJISハンドブックなどから削除されたあとも、これに変わる便利なデータもありませんから、困ったことなのですが、今でもこれらの数字が生きています。
構造用鋼の熱処理などのデータが作られたのは1970年代以前で、その頃のデータが現在も起きている状況で、その後の研究もしぼんでしまったので、いろいろな点で今後の熱処理技術の衰退が気になるところは多々あります。
大同特殊鋼(株)さんのハンドブックには、これら、過去にJISハンドブックにも掲載されていたデータ類が現在でも掲載されています。
以下は(株)大同特殊鋼さんのハンドブックの一部のコピーですが、この他にも、いろいろなデータがあったのですが、JISなどから消えてしまったのが残念です。
これらは、過去のJISに掲載されていたものと同じですが、残念ながら、コピーで見づらくなっていますが、イメージとして御覧ください。
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(来歴)H30.11 文章見直し R2.4 CSS変更 最終確認R6.1月