鉄鋼の焼なましについてごく簡単に知っておこう [y06]
焼なましの目的と種類には、
残留応力の除去(応力除去焼なまし)
硬さの低減・延性の向上(軟化焼なまし)
冷間加工性の改善・組織の調整(完全焼なましや球状化焼なまし)
ガス不純物の放出・組成の均質化(拡散焼なましや均質化焼なまし)
などがあります。
一般的には鋼の硬さを下げてやわらかくすることを「焼なましする」といいますが、処理温度や方法は目的によって異なっています。
JISの用語の、焼なましの種類としては、完全焼なまし 球状化焼なまし 均質化焼なまし 応力除去焼なまし 再結晶焼なまし 等温焼なまし 不完全焼なまし 部分焼なまし … などがありますが、JIS用語であっても、実際に使われている用語との意味が違っていることもありますので、JIS用語だから正しい … と過信し手はいけないことも頭に置いておいてください。
例えば、単に「焼なまし」といえば完全焼なましを指しているのですが、工具鋼などでは、自然に球状化焼なましになっている場合もありますし、球状化焼なましをしても、簡単に球状化してくれない場合も多いです。
その他でも、不完全焼なましは低温焼なましに分類されるものですが、焼なまし不良の意味合いがあって、使い方に注意が必要です。
さらに、均質化焼なましは拡散焼なましやソーキングといわれる、製鋼過程でおこなわれるもので、再結晶焼なましも、鋼板などの製造過程で行われることが多いので、通常の熱処理(鋼材を成型加工→熱処理→仕上げ加工という工程で行う熱処理)では、「やわらかくするための熱処理」という観点で見るのがいいでしょう。
そうすると、焼なましを変態点の上か下の温度で考えるととらえやすいと思います。 つまり、変態点を超えて加熱するかどうかで区別し、特に、冷却の仕方によっても処理の仕方が変わることを理解するといいでしょう。
変態点を超える焼なましは「完全焼きなまし」「球状化焼なまし」「等温焼なまし」などですが、このうち、「完全焼なまし」は730℃程度のA1変態点(えーわんへんたいてん)以上に温度を上げてオーステナイトに変態させるか、部分的に一部の組織を変態させた後に、1時間に15℃程度の冷却速度でゆっくり冷やす(これを「炉冷」といいます)ことで、鋼は非常に柔らかくなります。
やわらかくする最大の目的は「加工しやすくする」ことで、やわらかくなりすぎると、かえって加工がしにくい場合もあるので、どの焼なまし方法がいいというのではなく、その目的で焼なまし方法を選ぶということも必要なことです。
「球状化焼なまし」は、鋼種によっては簡単に球状化されない場合には、変態点付近の温度操作や調整をすると、して、炭化物が球状になって、完全焼なまし以下の硬さになります。
逆に、高合金鋼などでは簡単に炭化物が球状化するものが多いので、球状化焼なましと完全焼なましを区別しないことも多いですし、ベアリング鋼(SUJ)では、球状化の程度でベアリング寿命が変わるという理由で、球状化のために難しい温度制御をして球状化させることもあります。
それに対して、変態点以下の焼なましは「低温焼なまし」とひとくくりにしてかんがえて、応力除去のための「応力除去焼なまし」、冷間加工時の結晶粒の調整のための「再結晶焼なまし」などがあるという位置づけです。
極端な話ですが、低温焼なましと「焼戻し」は同じ操作ですので、「焼戻しする」ということで硬さの調整や応力除去を考える場合もあり、広義に熱処理用語を理解することも大切でしょう。
これらの変態点以下で行われる焼なましは、硬さの状態や熱処理の履歴などを見ながら、変態点以下の700℃程度までの温度で加熱処理をします。
これらの変態点以下で行うものは、加熱後放冷される場合がほとんどです。
【熱処理用語の表記について(その他のところでもこれを表記しています)】
パソコンの変換で「やきなまし」は、まず、「焼きなまし」と変換されるでしょう。
同様に、焼き入れ、焼き戻し、焼きならし なども同様ですが、JISでは「焼入焼戻し」「焼ならし」などと表記されています。
これは、現在のJISの前身で「熱処理工業会規格JHS」というのがあって、それがJIS規格になっていったのですが、その時の表記が引き継がれているようです。
この熱処理解説でも、現状はそれらが入り混じっており、さらに、どちらが正しいとは言えない状況担っている状態で、これをどうすることもできないのですが、少しこの経緯を記憶にとどめておくといいかもしれません。
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