調質 (ちょうしつ) [t10]
鋼の熱処理のうち、焼入焼戻しの中の一つの方法で、構造用鋼などを、焼入れ後に450℃以上に加熱して、均質性と強靭性を調節する処理のことをいいます。
これは、SCM435をジョミニ1端焼入れ性試験の例ですが、ここでは、各種温度に焼戻しした硬さの推移が示されています。
この図を見ると、焼戻し温度を上げるにつれて、全体的に硬さが低下していますが、最初に硬かった部分のほうが硬さの低下が大きいことがわかります。
一般の品物では、焼入れしたときに表面から内部に行くに従って焼入れ硬さは低下していきますが、硬さの差は機械的性質の差ですので、それを均一化するために高温で焼戻しすることで表面と内部の硬さが均一化していきますので、このために行われるのが「調質」です。
この調質に対する「焼入焼戻し」という熱処理は、硬さの高い部分を使用目的にしている・・・という意味合いの用語と言っていいでしょう。
(ジョミニー焼入れ試験:WEBの図を引用)ジョミニー試験はφ25の試験片を図のように焼入れ温度に加熱後に、一端から水冷して冷却して、試験片の外周部の硬さを測って硬さ推移をみる方法で、水冷端の硬さや硬さの低下度合いで焼入れ性(硬化の度合い)を評価するものですが、図のように試験片の胴部は空冷されているので、ほぼ水冷の効果がなく、胴部は空冷されている状態の硬さであるといえます。(油冷する鋼種でも水冷して試験します)
PRSCM435 は通常は油冷することが推奨されている鋼種ですが、その硬さを見ると、焼入れのままでは先端が55HRCで、水冷部から20mm程度離れたところの硬さは35HRC程度であるので、表面と内部では20HRCの硬さの差がある状態ですが、(硬さを引張強さに換算したときの差は203→106で97kg/mm2) それを600℃の焼戻しすると、10HRC以下程度(同引張強さの差は106→86で20kg/mm2)まで表面と内部の硬さ(強さ)の差が少なくなっています。
このように品物内外の硬さの差を小さくして、適当な強さとじん性を付加する熱処理方法を『調質』といいます。
熱処理の方法で言えば、焼入れ・焼戻しの操作であり、焼入れ・焼戻しのうちの一つの方法と言ってもいいでしょう。
構造用鋼以外で機械部品用などを500℃以上に焼戻しして硬さを下げて均質化する場合は調質とは言わないのが普通ですが、焼入れ・焼戻しと調質を混同している人も多く、目くじらを立てて訂正したいという人もいるのですが、言葉の目的や理由を知っておくだけで充分ですので、そんなに気にする必要もないでしょう。
PR【ノルテン】 これは業界用語で焼ならし+焼戻し です
構造用鋼などで、目標硬さ(強度)が高くなくてもいい場合などでは、より内外の硬さの差を少なくして均質化する目的のために、水や油で焼入れせずに空冷(焼ならし)して焼戻しする場合もあリます。
これは、焼ならし・焼戻しの処理ですが、これを業界用語で「ノルテン(Normalizing+Temperの略?)」といっています。
φ10程度の小径の品物では、油冷したほうが衝撃値などのじん性が高いとされています。しかし、品物が大きくなると、油冷しても中心部は冷却の効果が薄いので、空冷と変わらないとする考え方です。
引張・圧縮などの強度は硬さと同意であるので、適当な強さだけが必要で、熱処理変形などの懸念も少ないことから、このようなノルテン処理は広く行われています。
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