熱処理用語の解説

クライオ処理・超サブゼロ処理について   [k37]

鉄鋼熱処理では、0℃以下に品物を冷やす処理を「サブゼロ処理」といいます。

氷と食塩を用いると-20℃程度の低温が得られますし、液化炭酸ガスやドライアイスでは-80℃程度、液体窒素を用いると、-180℃程度のサブゼロ処理ができるのですが、鉄鋼の熱処理では、高価なこともあって、アルゴンガスはほとんど用いられておらず、処理温度が低くなるほど費用が掛かることは言うまでもありません。


このサブゼロ処理のうちで、特に、液体窒素などを用いて-100℃以下に冷やす処理が「クライオ処理」または「超サブゼロ処理」です。

(注)物理化学では、「クライオジェニクス」と呼ばれる、液体ヘリウムや液体アルゴンガスを用いた超低温操作がありますが、これと違って、熱処理でのクライオ処理は、-100℃以下に品物を冷やすだけの内容です。


0℃以下の温度に熱処理をすることは一般的に、サブゼロ処理深冷処理といいます。

サブゼロ処理を行なう大きな目的は、①焼入れ硬さを上昇させる ②経年変化を防止する … などがあり、通常の焼入れをして用いる鋼種では、-50℃程度でもその目的が得られる鋼種が多いことから、電気冷蔵庫、液化炭酸ガス、ドライアイスなどを使って、焼入れ後ただちに-70℃程度の低温に処理されることが多く、クライオ処理の目的は、この2つの目的以外の効果を期待して処理をされているようですが、その効果もよくわからないというのが実情のようです。

クライオ槽

クライオ処理は超サブゼロ処理といわれるように、一般的には炭酸ガスでの冷却温度(-75℃程度)を超えた-100℃以下の処理をさし、多くは液化窒素が用いられています。


液化窒素は、比較的安全で安価で、簡単に-150℃程度から-180℃程度の温度が得られます。

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しかし、サブゼロ処理の効果はよくわかっていないのが実情

クライオ処理の目的は、サブゼロ処理と同様の効果だけではなく、金属での「耐摩耗性の増大」や「寿命増大(延長)」といったものがあるために行われているというケースがあるようです。

アメリカの例では、特殊な温度サイクルで超サブゼロ処理をすることで、特許になっている処理もあるのですが、詳しい効果や性質が向上するの原因となる事象はよくわからない状態です。

私が勤務していた第一鋼業(株)では、昭和年代に、アメリカでサーモオボンドという処理をした品物の性質や寿命についてテストしていたところ、その時の結論では「有意性は見られないものの、まったく効果がない … とは言えない」というものでした。

このように、超サブゼロ処理の有効性ははっきりとはわからない状況ですが、その後もずっと、製品への適用の可否を続けて見ていっている状態ですが、残留オーステナイトの安定化やマルテンサイト化などで、複合的な効果が期待されるという感じを持っています。

このようなクライオ処理の研究は、効果がないといわれながらも各所で実施されているようで、さらに、学術的な検討も行われた経緯もありますが、それらの結果では、同様に「よくわからない状況」のようです。

さらに、WEBの記事の中には、金属製品の寿命延長以外で、オーディオ関連で「超サブゼロで音質が向上した」という内容の記事が見られます。

私自身も、これらの実験をしてみたのですが、これは、人間の感覚評価なので、フラシーボ効果のようなものや、年齢差や感性、その日の気分などで音の善し悪しが変わるのが通例ですので、結局よくわかりませんでした。

もしも、オーディオに興味があり、耳に自信のあって、お小遣いに余裕のある方は、やってみると面白いかもしれません。


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用語の索引

あ行 あいうえお
か行 かきくけこ
さ行 さしすせそ
た行 たちつてと
な行 なにぬねの
は行 はひふへほ
ま行 まみむめも
や行 やゆよ
ら行 わ行 らりるれろわ





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