超サブゼロ(クライオ処理) [t09]
超サブゼロ処理・クライオ処理は、「深冷処理」ともいわれ、品物をおおむね-100℃以下に冷やす熱処理をいいます。
熱処理の過程で0℃以下にする処理はサブゼロ処理といい、最もよく行われている熱処理作業では、液化炭酸ガスやドライアイスを用いた-70℃程度の処理を言います。
それに対して、超サブゼロ処理は、普通は、液体窒素を用いて、概ね-100℃以下の温度に品物を冷却する処理をさします。
一般的な処理方法は、断熱性の高い装置に品物を入れて、液体窒素を直接または気化した状態で装置内に入れて冷却します。
熱処理では-150℃~-180℃程度まで品物を冷やします。

クライオ装置の例 写真協力:第一鋼業(株)
クライオ処理には、液化窒素ガスが用いられることがほとんどで、アルゴンなどの窒素以外の液化ガスは高価なために、一般熱処理の用途ではほとんど使用されることがありません。
処理の目的
従来からの液化炭酸ガスやドライアイスを使ったサブゼロ処理の目的は、高い硬さを得ることや、寸法や組織の経年変化を防止するために行われます。
これは、温度を下げることで、焼入れしたときに残っている未硬化の残留オーステナイトをMf点(マルテンサイト変態が完了する温度)以下に冷やし、マルテンサイトやベーナイトなどの焼入れ組織に変えて、硬化させるとともに、残留オーステナイトを低減しようというのが主な目的です。
これによって、時効変形や時効割れなどを低減できるのですが、残留オーステナイトを安定化して変化しにくくならないように、処理のタイミングは、焼入れ直後(すなわち焼戻し前)にサブゼロ処理を行うことで効果が出ます。
これに対して、超サブゼロ処理は、焼戻しをしたあとでも、残留オーステナイトの減少や硬さの上昇があったり、「焼戻し完了後に超サブゼロ処理を行うと製品寿命が増加する」という効果があるとPRしているケースもあります。
このような目的の深冷処理が特許技術となっているものもあり、例えば、PERM-O-BONDという処理を行うアメリカのメーカーの記事には、「特殊な温度パターンで処理を行うと、硬さの上昇無しで寿命が増大する … 」 などと書かれています。
しかし、効果にはばらつきや不特定さが残る
筆者が経験した範囲ですが …
このように、加熱による熱処理や表面処理による寿命延長など、今までの概念とは異なった未知の可能性があることから、超サブゼロには、何らかの寿命改善効果がある … と考えられて、これまでにも、いろいろと試行錯誤や実験がされています。
熱処理業界が大々的に調査をしたこともあるのですが、現在のところ、明確に、また科学的に、その延命効果や延命理由などがはっきりと解明されていないのが実情です。
私が勤めていた第一鋼業さんでは、現在でも超サブゼロを受託しており、私が取り扱った例でも、すごい好寿命が得られるケースもあるものの、確実に安定した性能(寿命延長)が得られるというものではありませんが、極限寿命が求められる製品などにおいては、鋼種追及やその熱処理改善は常に行うことが必要ですので、表面処理やその他のもろもろの処理を試して、工具寿命を延長させる努力は重要です。
その面からいえば、この超サブゼロ処理の試行もその一環といっていいでしょう。 (こちらにも超サブゼロの関連記事があります)
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