この熱処理について教えて下さい 熱処理の疑問を解消

超サブゼロについて

サブゼロとは、0℃以下のことをいいます。

鉄鋼の熱処理でいう「サブゼロ処理」は、一般的には、液化炭酸ガスやドライアイス、電気冷蔵庫などを使って、-80℃程度に冷却する処理をいいます。

そして、-100℃以下の低い温度でおこなうサブゼロ処理を、「超サブゼロ処理」といい、通常のサブゼロ処理と区別して呼ぶことが多いようです。

一般的な超サブザロ処理は、液体窒素を用いて、-150℃程度以下に冷やす処理が行われています。

また、英語名のCryogenicsから、「クライオ処理」とも呼ばれますが、超電導などを研究する超低温工学の、液化アルゴンを用いる、クライオジェニクスとは異なります。


超サブゼロ処理の方法や目的

-80℃程度までのサブゼロ処理は、焼入れ直後(焼戻し前)の工程中に行うことで、焼入れ組織中の残留オーステナイト(焼入れ硬化しないで残っている組織)を減らすことを目的で行うことがおおく、 これによって、硬さの上昇、経年変化の減少などに効果があります。(デメリットは、納期がかかること、費用が高くなること、SKD11などでは、じん性が低下することなどがあります)

鉄鋼の熱処理での一般的なサブゼロ処理は、液化炭酸ガス(またはドライアイス)を用いて-70℃程度に冷やす処理が行われています。

それに対して、超サブゼロ処理は、液体窒素を用いて-180℃程度の温度に冷却する処理が行われています。

これはすでに、昭和年代ごろから、アメリカ合衆国などでおこなわれており、「サーモオーバンド」などの商標名で、現在でも、特殊熱処理として行われています。

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そのカタログなどの説明では、「熱処理済みの製品に対して、注意深くプログラムしたパターンで処理をそれを行うと、硬さは変化しないで工具寿命が格段に伸びる・・・」という効果をPRしており、 特許技術となっているものもあることから、通常のサブゼロとは区別されているので、「超サブゼロ処理」と呼ばれているのかもしれません。

このような超サブゼロ処理は、大量の液化窒素ガスを使い、長時間をかけて行われるために、処理費用は高額な熱処理です。

超サブゼロ装置の例(クライオ槽の第一鋼業(株)の例)

これらの、外国でのデータや実績もあって、国内でも、超サブゼロをすることによって、何らかの組織等の変化が生じると考えられたことから、平成年代の初期までに、いろいろな研究が各所で行われました。

しかし、かなり大掛かりな調査探求も行われたのですが、超サブゼロ処理をすることによっての定常的な寿命延長などの成果や、安定的に良い結果が得られるというものではなかったために、結局、超サブゼロによる効果などについては、現在でも、よくわかっていません。

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超サブゼロの効果などについて

超サブゼロは『残留オーステナイトの変化とは関係がないために、焼戻し後に実施しても問題がない』とする考え方があります。

私が実験した範囲では、SKD11系の材料で、焼入れ直後に-180℃に処理したものと、-75℃の通常サブゼロをしたものでは、硬さ上昇は両方とも起こります。 また、クライオ処理では、180℃に焼戻しした後にも、若干の硬さ上昇はあります。

つまり、焼戻しをしても、残留オーステナイトは安定化はしても、残ったままですので、ごく低温まで冷却すると、残留オーステナイトが減少しています。

通常の-80℃程度のサブゼロ処理では、焼戻しをしてしまうと、残留オーステナイトが安定化して、サブゼロ処理をしても、ほとんど、その効果はなくなるのですが、極低温に冷やすと、若干は変態(組織変化)をして、再硬化するようです。

様々な鋼種の実際の工具製品で、いろいろな冷却パターンで処理をやった時の寿命などを調べたところ、私が調べた範囲内では、超サブゼロ処理した工具の寿命は、悪くなるものはなく、良くなる場合と変わらない場合もあって、それも、まちまちの結果で、その効果については、何とも言えないということが事実のようです。

すでに、昭和年代の末期から、サーモオーボンドとよばれる、アメリカの企業の超サブゼロ処理が商品化されていて、第一鋼業(株)でも、その処理済み品と通常サブゼロ品の性能比較調査をしたり、液化炭酸ガス温度と液化窒素でサブゼロをした品物の寿命や性状などについての比較調査などをしたところ、PRされている内容とは異なり、はっきりとした有意性はつかめませんでした。 

ただ、調査結果では、寿命は不安定なものの、平均すると、処理品の寿命は処理していないものよりも伸びています。 しかし、硬さなどとの関連もあって、長寿命化の要因が特定できなかった点も多いのですが、私自身は「少なくとも、残留オーステナイト量の調整や安定化による何らかの効果がある」と考えています。

また、超サブゼロ処理を行うと、音響製品や音響機器に音質が良くなる変化がある・・・ といううわさなどもWEB上にたくさんあって、その実験などもやったことがあります。

しかし、これらは、個人的で、官能的な評価になってしまうので、熱処理会社である第一鋼業が、それらを追求するものではなかったので、深く探究しませんでしたが、スピーカコードの無酸化銅の低温抵抗変化などでは、常温に戻すと、もとに戻ってしまうのですが、それでも、興味深いところはいろいろありました。

現在でも、第一鋼業(株)では、クライオ装置を使って超サブゼロ処理を継続していますし、「熱処理のおはなし」の著者(故)大和久重雄先生は、しばしば、その有意性を声高に主張されていて、処理方法や成果などについても、個人的に教示いただいたのですが、探究を継続していると、何かが見つかりそうな期待は捨てていません。


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