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ベイナイト         [h35]

焼入れなどでパーライト(柔らかい組織)が生成する冷却温度より遅いか、マルテンサイトが生成する冷却温度より早いときに生じる、パーライトとマルテンサイトの中間的な組織です。

または、恒温変態させる場合の、パーライトとマルテンサイトの中間の組織がベイナイトですが、パーライトとベイナイトのはっきりした組織の違いは顕微鏡組織をみても通常はわかりにくいものです。

恒温変態曲線での恒温熱処理の説明図

この図は共析鋼(約0.8%炭素鋼)のS曲線の例ですが、図中に、恒温変態での保持温度の違いによって生じる組織の種類や硬さが示されています。

これらの組織の状態やその硬さは、鋼種(成分)によって大きく変わリます。

さらに、これらの組織境界(どちらの組織というのか)は曖昧で、はっきりと決めることは難しいです。

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共析鋼の油冷組織 共析鋼のツルースタイト組織

適当な写真がないのですが、上左は、共析鋼の油焼き組織で、焼戻しマルテンサイトとツルースタイト(トゥルースタイト)のような組織なっています。

そして右は、焼入れ焼戻しツルースタイト組織のようですが、普通の熱処理では、このような組織になりますので、「これがベイナイト組織です」というものを探したのですが、適当なものがないため、下に山本科学工具研究社さんの組織写真を引用させていただきました。ベイナイトの例(山本工具研究社から引用)

(注)この写真は熱処理技能士の試験などでも使われています。そのために、正確に学ぶ場合は、山本科学工具研究社さんに照会ください。


炭素鋼の焼入焼戻しでは、ベイナイトという組織は出現させることが難しく、恒温変態を利用した熱処理では、上のS曲線にあるような状態になる・・・と説明されています。

このベイナイト組織になると、「じん性が高い鋼が得られる」という表現もあるのですが、これについても、詳しい数値などは手元に資料がなく、よくわかりません。

比較的焼入れ性の低い鋼でベイナイト組織を得る方法にはオーステンパーなどがあり、焼入れ性に優れた鋼では、パーライトノーズ(上のS曲線で約550℃あたり)以下の温度で恒温変態させるか、冷却速度を落とすことで生成します。

しかし、このような処理をしたときの状態や強度特性の優劣などはほとんど公表されていませんし、早い冷却に比べて冷却が遅くなると、機械的性質が劣るというものもあり、優劣の一般評価は難しいと言えます。

このような熱処理方法は標準的な熱処理方法になっていないし、ほとんど特性や状態が公表されていないのですが、優れた特性が得られる可能性も高いと考えられますので、もう少しこのあたりが研究されてもよさそうなのに・・・と思っています。

恒温熱処理によって得られる組織と、通常の焼入れによって得られる組織の違いや、合金鋼など、焼入れ性の高い鋼をベーナイト組織となるように焼入れしたときの残留オーステナイトの量や出現の仕方などが研究されていくと、この「恒温処理」におけるベイナイト処理は、特徴のある特性が得られる可能性が潜んでいるような気もしませんか?

ベイナイトの英語はBainite です。

余談ですが、私が学んだ昭和年代では、「S曲線の奥まった部分、つまり『Bay(湾、入江)』の部分でできる組織」だと教えられた記憶があります。

その記号は「Zw」で表していましたが、この図では、ベイナイトのBとなっていますね。

今、Wikipediaを見ると、このZwに関して、Zwの意味でベイナイトを用いるのは適切でない・・・とある記事を見つけました。

もちろんこれについても、定説ではなく、一つの考え方のようですが、このHPで解説している内容の多くは1960-1980年頃の考え方ですので、このような新しい考え方が出てくると、少しは研究が進んでいるのかなぁと思い、少し安心します。

近年、熱処理研究は遅れていると感じていますので、もっといろいろな研究が進んでほしいと思います。


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