マルテンサイト       [m07]

【用語の意味】

鋼を焼入れしたときに生じる硬い組織で、元のオーステナイトと同様の化学組成ですが、体心立方または体心正方晶の組織です。
焼入れの冷却中にマルテンサイト生成し始める温度をMs点(えむえすてん)といいますが、その後は、温度低下に伴って生成量が増します。
常温になっても完全にマルテンサイトに変態しない鋼種もあり、未変態のオーステナイト(これを残留オーステナイトといいます)やベイナイトという組織などになって焼入れが完了する場合もあります。

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【補足説明】

しばしば熱処理操作の説明で、「焼入れの冷却時は、パーライトなどの生成を抑えるためにMsまでは早く冷却し、Ms点に達してからは、焼割れや変形を抑えるために、ゆっくりと冷やす」・・・というように解説されます。

焼入れによって生じた硬いマルテンサイトは脆いために、200℃程度の焼戻しすることでじん性が向上する鋼種が多くあります。焼入れしたままのマルテンサイト組織はナイタールなどの通常用いる腐食液では十分に腐食されにくいので、王水などを用いて観察するのですが、焼戻しした状態のマルテンサイト組織は焼戻し温度が上がるにつれて腐食されやすくなっています。

この、すこし腐食されやすくなったものを「焼戻しマルテンサイト」といういい方をされる場合もあります。(焼戻しによって炭化物を析出して、少し組織が変わるとされていますし、文献などでは、電子顕微鏡による組織の違いなども紹介されています)

炭素工具鋼SK85などでは、焼入れのままでは64HRC程度のものが62HRC程度に低下しますが、そのほうがじん性が付与されていることで製品は長寿命になる場合が多いとされます。

余談ですが、一般的には、「硬さが高いほうが強い」と説明されますが、それは、おおむね55HRC程度までの話で、それ以上の硬い硬さになると、引張強さは硬さに比例しなくなるし、むしろ低下します。さらに、じん性も低くなり、破壊に敏感になって単純に破壊します。このようなことから、「高硬さにするほうがいい」と思い込まないで、熱処理特性などを見て使用を検討するとともに、やはり、使った評価(実物評価)で判断しないといけないでしょう。

「形状記憶合金」

形状記憶合金では、ニッケル-チタン合金が有名です。
焼入のような急冷操作によってマルテンサイト化し、その状態では柔らかいのですが、それに力を加えて変形をさせた後に焼戻しするようにその温度を上げてやると、加工を加える前の形状に戻る・・・という優れものです。
このNi-Ti合金は、形を成型した状態で、400-500℃程度に加熱して冷却すると、その形状を記憶しており、変形を加えても40-100℃程度に加熱すると、記憶した形状に戻るというものです。
このことは熱処理や材料を考えるうえでも重要な内容を含んでいますが、ここでは割愛します。

「加工誘起マルテンサイト」

加工などによって、品物に外力が加えられて変形した時に、オーステナイトがマルテンサイトに変態したものを加工誘起マルテンサイトと言っています。
オーステナイト系ステンレスのSUS304を引き抜いたりして、強度の塑性変形を加えると、 一部がマルテンサイト変態し、 硬さの上昇や疲労強度が低下する・・・などの機械的性質の変化が見られます。

これは、加工変形によって一部の組織が加工硬化やマルテンサイトが生じるという現象です。

オーステナイト系ステンレスだけではなしに、高合金工具鋼を正規の焼入れをした場合でも数10%のオーステナイトが変態せずに残っているものがあります。これがショックアブソーバーとなってじん性に寄与している場合もありますが、外力が加わり、塑性変形によってそのオーステナイトの一部が変態すると、局部的にもろい組織ができて、早期に破壊することもあります。

SUS304は準安定系のステンレスと言われ、加工によってオーステナイト状態が破壊されやすく、その場合は、再溶体化処理をしてオーステナイト状態に戻してやったり、塑性変形量を考慮してマルテンサイト化をさせないように加工するなどが必要です。それが難しいにならば、塑性変形させても組織変化しない安定なオーストナイト系の材料を使用することも検討しなければならない場合も出てきます。

焼入れする鋼では、焼入れ時の残留オーステナイトを少なくするために 、焼入れ後にサブゼロ処理をして、残留オーステナイト量を低減することや、 高温焼戻しをして2次硬化する鋼(たとえば、高速度工具鋼:ハイス) などの材料を使用する方法などがあります。
この残留オーステナイトや加工誘起マルテンサイトなどについては、品物の破壊現象の解明や材料強化を考えるうえで興味深い内容といえるかもしれません。


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