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 オーステナイト         [a22]

γ鉄固溶体をオーステナイトといいます。

鋼(鉄とやく2%以下の炭素の合金)を常温から加熱すると、結晶構造が体心立方から面心立方に変わります。

この状態が「オーステナイト」で、鋼をこの状態に加熱してから、焼入れなどの熱処理操作をすると、元の状態と変わった組織状態に変化し、それによって、機械的性質などの性質が変化します。


焼入れ後に変化しないで鋼中に残ったオーステナイト組織を「残留オーステナイト」といいます。

耐食性・耐酸化性に優れたオーステナイト系ステンレスは、固溶化処理をすることで常温でもオーステナイトの状態になっており、低炭素のために比較的軟らかく、熱や薬品に強い鋼材です。


これは、何度か紹介している、鉄-炭素の平衡状態図です。(WEBから引用)

鉄-炭素2元系平衡状態図
この図の中段左側のγ固溶体(オーステナイト)がそれで、例えば、1%Cの炭素鋼の1000℃の状態は「オーステナイト」の状態になっています。

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ある成分の鋼を加熱することで相変化します。(これを熱処理用語で「変態する」といいます)

その状態からごくゆっくり冷やすと、面心立方のものが加熱前の体心立方晶になって柔らかい鋼になります。

例えば、炉の中でゆっくり冷やす操作を「焼なまし」と言い、柔らかくて延伸性の優れた状態になります。

しかし、このオーステナイト状態から急冷(炭素鋼の場合は水冷)すると、体心正方晶の「マルテンサイト」という組織に変化して、非常に硬くなります。
この操作を「焼入れ」と言います。

通常、鉄-炭素2元系の鋼では、冷却する速度によって、それが早い順から、「マルテンサイト」「トルースタイト」「ソルバイト」「パーライト」などの組織に変化します。冷却速度が早いほど硬くなるというイメージです。
共析鋼のCCT曲線例
これはCCT曲線と言われるもので、冷却速度と硬さ(3桁の数字=ビッカース硬さ)を示していますが、Psの線にかかるような遅い冷却になると、硬さが急激に低下することがわかります。


鋼をもっとも柔らかい状態にする熱処理(=完全焼なまし)は、通常30℃/Hr以下の冷却をする必要があります。つまり、この図の秒速にすると、30÷60÷60≒0.008℃/secになり、この速度で冷却すると、220HV以下の硬さになることがこの図からわかります。

マルテンサイト以外はパーライトという組織の同族ですが、冷却速度が遅くなっていくと、上の順で、硬さが低下しています。

この「パーライト」とは、フェライト(Fe)と炭化物(セメンタイト)が層状になった組織をいいます。

パーライト組織の電子顕微鏡写真例0.9%C鋼のパーライト組織(Metals handbookより)

高温でオーステナイトだったものがすべて変態してしまうと、常温になった時には、前にあったオーステナイトはほとんど無くなります。

しかし、炭素鋼ではなく、焼入れ性を高める合金元素(Mn、Niなど)などを加えた合金鋼になると、焼入れ後にマルテンサイトにならないオーステナイトが残ります。これを「残留オーステナイト」と言います。

この残留オーステナイトは結晶粒界に残る場合が多いのですが、オーステナイトは常温でも比較的柔らかい組織ですので、硬さが必要な鋼の場合は、好ましくない組織といえます。

しかし、ステンレス鋼の分類の1つである「オーステナイト系のステンレス(例えばSUS304など)」などはオーステナイトの特徴である ①常磁性であること ②耐熱・耐食・耐薬品性などの優れること・・・の特徴を持つ鋼です。

オーステナイト化温度(鋼種によって異なりますが、1000-1100℃程度)から急冷する固溶化処理(溶体化処理)をすると、全部が常温でオーステナイトの状態になっています。
常温でオーステナイトになっておれば、比較的柔らかく、耐食性などに優れています。

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【ステンは硬い???】 余談ですが、しばしば、オーステナイト系のステンレス鋼板でも、「ステンは硬い」という言葉を聞きます。

例えば、SUS304の0.1mmステンレス鋼板と、例えば軟鋼板SS400の0.1mm鋼板をハサミで切ってみるとわかるのですが、ステンレス鋼板のほうが切りにくいことがわかります。

これは、主に「鋼板の硬さの違い」があるためであって、例えば、軟鋼板が100HV、SUS304が180HVというように、合金元素が多いSUSは軟鋼板よりも硬さが高いものが多いためで、ステンレスだから硬いということではありません。

ここでは詳しく説明しませんが、さらに、特に圧延された薄い鋼板は、鋼材の組織の違いによる硬さ、圧延による加工硬化による硬さのほかに、刃物との摩擦などの条件や加工誘起マルテンサイトなどが関係します・・・・。

これらが強さや寿命などに影響することになります。

これらを考えると、鋼の面白さがあるのですが、ここでは紙面の関係で、割愛します。

【注意】上の平衡状態図は温度における状態を示しているだけで、焼入れしてできるマルテンサイトや、ゆっくり冷やした時のパーライト、ソルバイト、残留オーステナイト・・・などの常温における組織の状態を説明できるものではありません。それらは、S曲線やCCT曲線などを加えて説明しなければいけません。近年では、焼入れ操作の説明に平衡状態図を用いて説明される場合もありますが、平衡というのは、温度変化をしない状態を示していることに注意ください。


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