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 オーステンパー       [a25]

ソルトバスなどの恒温槽を用いて焼入れするとき、パーライト組織が出ないように、パーラートノーズ温度以下からマルテンサイト化温度までの温度に急冷して、その温度で保持して、時間を経過することでベイナイトなどの組織に変態させる熱処理法を「オーステンパー」といいます。

低合金鋼では、この熱処理をすることで、強靭性が高くなる効果などがある・・・という結果があります。


CCT曲線の例
この図はS曲線といわれる「恒温変態曲線」に、焼入れ操作中の温度時間推移を書き加えた図です。(これは、説明用の図です)

この図では、品物の焼入れ温度の800℃から点線のように300℃や410℃のソルトバス中に焼入れし、その温度で保持して変態を完了させると、ベイナイト組織になって、その後に空冷して硬さを測定すると、パーライトよりも高い硬さになっていることが示されています。

オーステンパーは、このように、ソルトバスなどを用いて、恒温で変態させる方法を利用して、均一なベイナイト組織にして、硬さやじん性を調整する方法です。

上図のS状の左に飛び出した部分を「パーライトノーズ」と呼び、この処理では、それにかかるような「遅い冷却」になると、パーライトの柔らかい組織が生じるため、冷却中にその線にかからないようにノーズの温度以下に素早く冷却する必要があります。

この図では、パーライトノーズにかからないように冷却するには、ノ-ズの温度(550℃)までを1秒程度で冷やす必要があるので、小さな品物でないとこの処理はできないということですが、高炭素鋼や合金鋼ではパーライトノーズが右の長時間側に寄るので、オーステンパー処理がやりやすくなります。


オーステンパーをすると、完全な焼入れ組織とは違った組織が得られるのですが、鋼材と品物の要素などで出現する組織や硬さなどの性質は大きく変わるので、これをすることによって一定の性質がえられるというものではありません。

恒温に保つ温度の違いによってベイナイト組織は変化し、温度が低めになるほどマルテンサイトの性質に似てきます。

しかし反面、等温変態させるまでの時間がかかるようになる傾向になります。

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そのこともあって、完全に等温で変態するまで保持するのではなく、目的組織になるように、適当な温度に適当な時間を保持してから、その後に空冷するなどのいろいろなバリエーションによる処理も行われますが、その効果や実態は、あまり公表されておらず、よくわからない状況と言えます。

しかし、この方法は、焼入れ性による組織差を超えて組織を調整できる方法ですので、通常の焼入れ焼戻しとは異なる機械的性質改善の可能性があると考えられます。

これらを検討すると、面白い熱処理結果が得られる可能性がある・・・と言えるでしょう。

ソルトバスを利用した高温処理には、マルテンサイト化温度域付近で熱処理の操作をする「マルクエンチ」や「マルテンパー」などがあります。

これらに加えて鋼種の検討が進めば、すごい性質の鋼ができる可能性を秘めていると言えますね。

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恒温処理を行おうとすると、通常の熱処理炉(油冷や空冷装置の炉)では品物全体の温度や時間のコントロールが難しいので、ソルトバスではない設備でこのような特殊な熱処理の検討(実施)はあまり進んでいませんが、熱間圧延などの工程に組み込んで恒温処理する方法などで行われています。

恒温を得るためにはソルトバスのような設備が適していますが、ガス冷却雰囲気炉などで、擬似的にこれを行うことで、じん性の向上や焼入れ歪の調整などを行うことの可能性があリます。

これについては、一部で検討されているようですが、本格的に研究すれば面白いい結果が出るかもしれません。

【熱浴焼入れとオーステンパーの違い】
高速度工具鋼の焼入れで550℃程度の熱浴(ソルトバス)に焼入れする方法を、慣用的に「オーステンパー」と称する人もいるようですが、しかしこれは、等温保持した後に空冷してマルテンサイト変態させるためのものなので、「熱浴焼入れ」と呼ぶのが適当といえます。

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(来歴)H30.11 文章見直し  R2.4 CSS変更   最終確認R6.1月

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や行 やゆよ
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