マルクエンチ [m06]
焼入れ時に、マルテンサイト化する温度直上の温度の塩浴などに急冷してその温度になった後に空冷するなどで、ゆっくりマルテンサイト化する方法をいいます。
近年では、「マルテンパ」と同意で説明されることも多いようです。
この熱処理方法は、焼割れや変形防止がおもな目的とされています。
この図は、ソルトバスなどを利用して行う恒温処理を説明するための図です。
焼入れ温度QTempから焼入れして、時間軸と平行になる温度に品物を保持した後に空冷する時の温度と時間経過を示しています。
AT**と書かれているのがオーステンパーで、MQがマルクエンチ、MTがマルテンパーを示しています。
このMQとMTの違いはマルテンサイトが生じる温度(Ms)に関係しており、Ms直上(マルテンサイト変態がおこる温度がMs)の温度で保持するのがマルクエンチ(MQ)で、Ms点以下の適当な温度に保持して、いくらかのマルテンサイトが生じる状態の温度に保持するのがマルテンパー(MT)です。
この温度の違いは、品物各部の温度をそろえるための温度の違いなので、近年では、それらを区別していない書物も多いようです。
PR私が勤務した第一鋼業(株)でも、ソルトバスを用いて、いろいろな鋼種の焼入れをしており、これらの恒温処理についても、ソルトバスをそれぞれに適した温度に変えるのも大変ですので、ソルトバスを160℃に決めておいて「焼入れ~その温度に保持」をする方法を行っています。
そのため、これらを区別せずに、「熱浴焼入れ(またはソルト焼入れ)」といっています。
マルクエンチやマルテンパーのおもな目的は、焼割れや変形の防止です。
特に異形の品物では焼入れ冷却中に各部の温度が異なっているので、それを均一にしてマルテンサイト変態させるものですが、実際的には、焼き入れたときの硬さは、油冷の場合よりも低くなることが多いようです。
これには、ソルトバスの冷却が油冷より遅いこともその理由も含まれています。
【注意】 しばしば、ソルトバスによる焼入れは、歪(曲がり)が小さい・・・という説明をされることもあります。
これらの恒温熱処理は、冷却過程で生じた品物各部の温度差を少なくする効果から、焼入れ時の変形が少なくなるという要素はあります。
しかし、変形はその熱膨張・熱収縮以外に、組織変化による変形や形状の影響が加わるために、原因は多岐にわたります。そのために、一概にはソルトバスを用いると歪(変形)は少ない・・・とは言い切れません。
ソルトバスを用いると、大きな浮力のために変形の要素が軽減させることはありますが、過信は禁物です。
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