ソルト熱処理(そるとねつしょり) [s35]
混合塩(ソルト)を溶融した塩浴(ソルトバス)を用いて、それに鋼などを浸漬して加熱や冷却を行う熱処理をソルト熱処理または塩浴熱処理といいます。
ここでの「ソルト」とは、各種の中性塩(えん)を混合して融点などを調整した熱処理剤で、加熱や焼入れ時の冷却、焼戻しなどの熱処理に使用されます。
塩浴槽はソルトバスとも呼ばれます。
これを用いて加熱すると、加熱中に空気に直接触れないために、無酸化での熱処理ができます。
また、ソルトバス設備の多くは小規模設備のために、焼入れ温度を簡単に変えて品物に合わせた熱処理を行うことができるので、様々な熱処理テストなども比較的簡単に行うことができる特徴があります。
熱処理用には、硝酸カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化バリウムなどの、いろいろな種類のソルトを混合して融点を調節することで、150℃~1300℃程度の熱処理加熱・冷却をすることができます。
PR
熱処理の方法は、一定の温度に保ったソルトバスをいくつか使って、品物を温度に合わせて順次移しながら、予熱、焼入れ加熱、焼入れ冷却、焼戻し・・・などの熱処理をします。

上の作業では、焼入れ工程では4つのソルトバスを使いますが、焼戻しは1つのソルトバスを用いると一rンの作業ができます。
通常は、温度の違う数基のソルトバスを用いて、加熱~冷却までをソルトバスだけで加熱冷却を行います。
品物にソルトが付着しているので、大気雰囲気の炉(例えば電気炉)などは品物の肌を荒らすので、一連の工程中には使用しません。
これらに使われる塩は、中性の無毒のものですが、廃棄の際や廃液などは環境を汚染しないように配慮しなければなりません。


また、800℃以上に加熱するソルトは、鋼の種類によっては脱炭が生じることがあるので、いくら中性塩での無酸化処理だといっても、特に高温での加熱中の脱炭に対する管理は必要になります。
この脱炭防止には、脱炭防止剤を用いてソルトの雰囲気を調整するとともに、炭素量が既知の鋼箔を用いて、それを焼入れして、鋼箔の状態からソルトの雰囲気の状態を見るという「経験的な方法」で日常管理します。
ソルトバスは小さなものが多い
ソルト熱処理設備は、大きな設備や搬送などを自動化した省力化設備もあるのですが、次第に少なくなってきています。
これは、設備の維持が大変なためで、多くは小規模で、品物の熱処理作業を人手で行う設備が多いのが実情です。
過去にはハイス(高速度鋼)の焼入れはソルトバスが主流でしたが
昭和年代は、1200℃以上の焼入れ温度が多い高速度工具鋼の焼入れなどに利用されてきたソルトバスですが、作業性が悪いことや作業環境の悪いことで、次第に、真空炉による熱処理に変わってきました。
PR
ソルトバスは、オーステンパー、マルクエンチなどの恒温熱処理を行なうことができる特徴のある設備ですが、ソルトバスを保有する工場も減る一方で、また、このような特殊な熱処理の研究や実用化例が少ないこともあって、次第にソルトバスの設備は消えゆく運命にあります。
(来歴)R2.2 見直し 確認R7.4月