バーニング [h02]
Barning: 加熱温度が非常に高くなりすぎると、まず、鋼の結晶粒界で組織の溶融が始まります。 つまり、組織や性質が変わる状態まで温度を上げてしまうことをバーニングといいます。
これは、鋼の製鋼時に生じる異常で、鋼の熱処理でバーニングを起こすことはまず考えられません。
熱処理において、焼入れ温度を指定温度以上に上げると、徐々に通常の機械的性質がえられなくなってきますが、それは過熱やオーバーヒートと呼ばれます。
これは鉄-炭素系の平衡状態図です。(株式会社不二越さんのHPより)
この図は、平衡状態図で、成分と温度の状態を示していますが、緑の線(固相線)の温度を超えると鋼の組織の一部が液体に変わって融ける・・・というイメージを見ていただくといいでしょう。
通常の鋼はいろいろな成分が混ざっているので、このような図にはなっていませんが、この図で、矢印の「0.3%C鋼」を例にとって、その変化を見ると、常温(例えば30℃)では固体の状態(鉄に炭素が溶けている状態で「固溶体」といいます)で、体心立方晶の結晶構造をしています。
鋼の製造途中で高い温度から圧延などを繰り返して常温になった鋼は、下のように白く見えるフェライトと黒く見えるパーライトでできた組織をしています。
(これは約0.25%C鋼の写真です:倍率約300倍程度)
それを加熱して、状態図の水色の線(A3)を超えると、パーライト(炭化物とフェライトの微小な層状組織)はすべて面心立方のオーステナイトになり、組織の状態は均一な組織になります。もちろん、高温ですので、この組織は示すことができませんが、それでも、やはり固体(固溶体)のままです。
通常の鋼の熱処理は、0.3%C鋼であれば、830℃-880℃程度で加熱しますが、それ以上に温度を上げていくと、結晶の大きさは次第に大きくなり、緑の線(約1480℃)を超えると、組織の一部が溶けて液体になってきます。
固体状態の結晶はそれぞれ結晶の向きが異なっているために、その境界が「結晶粒界」となって分離されていますが、一般的に製造されている鋼は、完全に「鉄と炭素」の組成ではなく、微量の様々な元素が含まれるために、それらの微量元素で鉄中に溶けないものは、結晶粒界に集合して温度の影響を受けやすくなるので、バーニングは結晶粒界部分の崩壊から始まります。
通常の鋼は、固溶体の状態で鍛造や圧延や拡散処理としての「ソーキング」等によって、組成や結晶粒が小さく揃った状態にしますが、バーニングが起きてしまうと、正常な組織に戻せません。
バーニングを起こした鋼は、そのまま常温になったときには、鋼の肌が通常の肌と異なる状態になるのですが、通常は熱間加工されるので、それがわからなくなってしまうので、このような以上の有無は、鋼材メーカーの管理に頼るしかありません。
PR熱処理でも、高速度鋼の熱処理温度などには注意
一般の熱処理と違って、焼入れ温度の高い高速度工具鋼などでは、微視的にみると各部の成分値が異なっている上に、結晶粒界が影響を受けやすいことから、1300℃近くに加熱する場合には最新の注意が必要です。
このバーニングはメルティング(溶融)と表現をされる場合もあります。鋼の表面が溶けて変質する・・・という表現です。
高炭素鋼になると溶融温度(緑の線)が低下しているので、特に、高い硬さを出したいために焼入れ温度を上げることには注意をしないといけません。
このバーニングとは違うのですが、熱処理(例えば焼入れ)で温度を上げすぎる場合には「オーバーヒート」「過熱」という表現をされます。
たとえば、100℃程度を超えて加熱した場合は、結晶粒の増大や残留オーステナイトの増加によって焼入れ硬さの低下となって表れますので、温度の管理は重要です。
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