熱処理用語の解説

過熱 (かねつ)     [k19]

目的温度を超えて加熱し、結晶粒の増大など好ましくない状態が起こる状況を「過熱」といいます。

またこれを、オーバーヒート と言われることもあります。

熱処理での「過熱」は、熱力学でいう、液体を静かに加熱して沸点を超えても沸騰しないという「過熱状態」とは異なる意味で用いられています。

この熱力学的な「過熱・過冷」とは、物質が相変化する際に、本来変化する温度になっても変化しない状態をいいます。(過熱状態・過冷却状態も同じ)

この現象は、熱処理においても見られます。

品物を加熱・冷却するときには、温度勾配があるために、平衡状態図の変態温度(多くはA1変態の場合をさす)では変態せずに、加熱時には平衡状態図に示された変態温度よりも高い温度で変態しますし、温度勾配があると、冷却時には変態温度が下がリます。

ここで言う「過熱」はこのことではありません。

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熱処理での「過熱」は、目的温度を超えて加熱することでの不具合が生じた状態を言う場合がほとんどです。

温度を上げすぎることで、結晶粒の増大や部分的な溶融などを発生するような加熱をしたことを指します。

顕微鏡組織 細粒と混粒の例

顕微鏡組織の例(説明用):左が正常組織で、それを高い温度で加熱すると、一部の結晶粒が成長し、しばしば、右図のように混粒状態になります。それは過熱によって生じています。

右の状態以上に温度を高くすると、結晶粒界に異常な組織(溶融など)が見られるようになるのですが、表面が溶融するような高温になれば品物の表面が肌荒れするなど、外観でそれがわかるのですが、通常のオーバーヒートは、外観を目視で確認してもわからない場合がほとんどです。

また、過熱組織の例で、ウィドマンステッテン組織という用語が過去の熱処理の書籍に示されることがありましたが、熱処理でこのような高温に晒して異常組織になるということは多分経験することはないものです。

熱処理試験で、このウィドマンステッテン組織を現出しようとしたこともあるのですが、結局はうまくいきませんでしたので、ウィドマンステッテン組織は、教科書や書籍には示されていたものの、通常の熱処理で生じる異常組織ではないもので、その言葉だけが独り歩きしているように思っています。

ただ、焼入れ温度以上の高温に品物をさらしてしまうと、上記のような「結晶粒増大」「混粒組織の出現」がおき、じん性の低下などが起こります。 こうなってしまうと、熱処理による方法では正常な組織に回復できませんので、特に焼入れ時の温度管理は重要です。


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(来歴)R1.11見直し  R2.4CSS変更   認R7.4月

用語の索引

あ行 あいうえお
か行 かきくけこ
さ行 さしすせそ
た行 たちつてと
な行 なにぬねの
は行 はひふへほ
ま行 まみむめも
や行 やゆよ
ら行 わ行 らりるれろわ

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