オーバーヒート [a27]
鉄鋼の熱処理では、焼入れの際に目的温度を超えて加熱することを言う慣用的な言い方です。
過熱ともいいます。
高い温度に加熱すると、組織が変化して、充分な機械的性質などがえられなくなります。
この写真は、大同特殊鋼DC53(8%Cr冷間工具鋼)のカタログに掲載されているものです。
この鋼種の標準焼入れ温度は1020℃程度ですが、それに対して焼入れ温度を変えた場合の顕微鏡写真を比較しています。
PRこの鋼種は、1050℃までは許容加熱範囲とされており、1010℃~1050℃の写真では顕著な変化は見られませんが、それを超える1080℃を見ると、焼入れのままの組織では白い部分が増えており、低温焼戻し組織では、結晶粒界がはっきりしています。
これは、高温になった結果、「残留オーステナイト」が増えて微細な炭化物がマトリックス(素地)に溶け込んでしまっており、さらに、結晶粒の粗大化が見られる状態ですが、こうなると充分な硬さが出にくくなってきますし、高温焼戻し時のシャルピー値低下などが生じます。
また、500℃以上の高温焼戻しでは焼入れ時の残留オーステナイトの分解で硬さの上昇(これを「2次硬化」といいます)があるのですが、焼入れ温度が高いと結晶粒が大きくなってしまっているとともに、結晶粒界への2次炭化物の凝集(濃い線が見える)がみられます。
ここでは衝撃値のデータが示されていませんが、こうなると、シャルピー値は低下してきます。
メーカーカタログやJIS規格などには標準焼入れ温度が示されていますが、必要硬さが得られるのであれば、その温度範囲の低めで焼き入れるのが望ましく、このDC53では、1030℃以上の焼入れ温度にする場合は注意が必要です。
メーカーによっては、「耐摩耗性が必要な場合は高めの温度に・・・」としている場合がありますが、耐摩耗性を高めたいのなら硬さを上げれば済むことですから、焼入れでは、結晶粒を粗大化させることを避けるために、硬さがほしいという理由で、高めの焼入れ温度にすることは避けるべきです。
PR
(来歴)H30.11 文章見直し R2.4 CSS変更 最終確認R6.1月