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 応力除去焼なまし(おうりょくじょきょ~)  [a21]

応力除去焼鈍(しょうどん)ともいいます。

加工歪みや応力を開放する目的で、変態点以下で行う低温焼なましのことです。

ただし、これを行なうことで、応力が解放されて、見かけのひずみ(曲がり量)は、行う前よりも増加する場合もあリますので注意が必要です。

応力は品物に内在する「力」であり、「硬さ」も応力によるものといえますので、ここでは「偏応力を緩和する」という意味合いで考えるのが良く、応力除去対象は「加工硬化による偏応力の除去」のための熱処理だということがいえます。

応力除去焼なましは変態点(熱処理で最も重要な変態温度は730℃程度のA1変態点)以下で行う低温焼なましの一つで、硬さの軟化は、結晶粒の『再結晶化』を利用しています。

回復・再結晶

これはWEBにあった図ですが、強度の塑性加工を後に低温焼戻し温度を上げていった時の様子が示されています。

この図では、200℃までをRecovery(回復)、500℃までをRecristallization (再結晶化)、それ以上をGrain growth(結晶粒の増大)と表示されており、長く変形した結晶から、新しい結晶粒が生まれてくることが示されています。
つまり、回復~再結晶化の過程で、応力が開放されていくと考えられます。

普通は、加工変形を受けた鋼の温度を上げていくと、約450℃程度以上の温度で変形を受けた部分での再結晶化が起こりやすくなります。

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再結晶化とは、塑性加工などによって変形した結晶の中の「亜結晶」が結晶粒になって成長するもので、再結晶化によって、あたかも新しい結晶粒が生まれたように見えます。

その際に、元の結晶の応力が緩和されたようになるのが応力除去ですが、この応力除去効果は温度が高くなるほど顕著になります。

しかし、焼入れ焼戻し品では、温度を上げると硬さの低下があるので、それに見合った温度(500~750℃程度)の適当な温度に加熱し、その加熱後は放冷するのが通常の方法です。(ゆっくり冷やすのがいいのですが、経済的理由で放冷されています)

もちろん、変態点以上に温度を上げると、結晶構造が変化して大きな変化が生じるために、変態点以下の温度で行うものを応力除去焼きなましといいます。


応力焼なましは「低温焼なまし」の1種で、これらは同じような意味で使われます。

たとえば、シャフトなどの調質(焼入れ・焼き戻し)品は、その熱処理過程で外力を加える矯正(曲り取り)をされることが多く、これがのちの加工中に変形の原因になるという問題が起こりやすくなります。

このために、熱処理の工程では「調質→矯正→応力除去」という手順を取ることも多く、この場合は、品物の硬さを低下させないように、応力除去のための焼なましは、焼戻し温度かそれ以下の温度で実施することになり、応力除去効果は低いのですが、通常はそのように実施されています。

このような温度処理であっても応力除去効果は大きく、長尺物では仕上げ加工中の歪は激減しますので、有効な方法とされています。

また、ステンレス鋼の溶接品などでは、温度を上げると「鋭敏化(耐食性の劣化原因)」するために、それを避けるために、250℃程度の低温域で焼戻しをすることがあリます。(しかし、効果は低いのは当然です)

これらは、再結晶化による応力分散(応力除去)というよりも、局部で発生した応力(これを「ピーク応力」と呼ばれることがあります)の開放をする処理だと考えていいでしょう。

この「応力除去焼なまし」では、よく誤解されることなのですが、加熱をすることで応力が解放されるために、加熱前の状態以上に大きい変形が生じることもあリます。このことを重々に理解しておかないといけません。

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用語の索引

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か行 かきくけこ
さ行 さしすせそ
た行 たちつてと
な行 なにぬねの
は行 はひふへほ
ま行 まみむめも
や行 やゆよ
ら行 わ行 らりるれろわ

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