初析の炭化物について [s18]
これは「一次炭化物」ともいい、炭化物として析出する場合は、共晶化合物として析出するので、「共晶炭化物」と称されることもあります。
溶けた状態の鋼を冷却して凝固させる際に、オーステナイト中に析出する炭化物のことをいいます。
高炭素高合金工具鋼では、主に、耐摩耗性向上に寄与しますが、大きさが大きかったり量が多いと衝撃じん性値は低下します。

SKD11(プロテリアル(旧:日立金属)のSLDカタログより)
例えばSKD11(C1.5%、Cr12.0%、Mo1.0%他)では、写真の下方の白い組織がそれで、製鋼時の1550℃程度の高温では、ほとんどすべての元素が溶湯の状態で解けていますが、溶湯を鋳込んでインゴットを作る際に、融点の高い成分のものから順番に凝固して行く過程で炭化物が形成されます。
この過程ではまず、合金元素の炭化物が析出した後に、その他の成分が溶け込んだオーステナイトとなって凝固しますが、この状態は高温状態であっても固体状態の混合物といえますので、この状態を「固溶体」といいます。
溶湯の状態または鋼のオーステナイト状態になったときに、すでに生成している炭化物は、SKD11などの 1050℃ 程度の焼入れ温度ではオーステナイト中に溶け込みません。
これは「初析の炭化物」「一時炭化物」「共晶炭化物」などと呼ばれ、これに対して、SKD11や高速度鋼のような高合金鋼では、焼入れ後の焼戻しで素地中に微細な炭化物が析出して、硬さが再上昇させる炭化物は「二次炭化物」「共析炭化物」と呼ばれます。
すなわち、「鋼塊」がその後の製造過程で「鋼材」になって、機械加工後に熱処理(焼入れ焼戻し)するときに、素地(マトリックス)に溶け込まない炭化物と溶け込む炭化物があり、溶け込まない炭化物が初析の炭化物です。
初析の炭化物は、共析炭化物(鋼の場合は、オーステナイトに溶け込んでいて、高温焼戻し時に析出する炭化物)に比べて大きい場合が多く、炭化物の硬さ自体も高いものが多いので、その量の多少は耐摩耗性を左右させます。
一般的にそれが多ければ耐摩耗性は高くなりますが、上にも書いたように、残念ながら「じん性」を低下させる要素の一つになります。
そのために、初析の炭化物の種類、形状、量などをコントロールするのが製鋼技術にかかっており、それが鋼材の性質(耐摩耗性、じん性)を決めるといっていいかもしれません。
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