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固溶体 (こようたい)    [k59]

2種以上の元素による固体状態での結晶質を固溶体といいます。

鋼の場合で言えば、非常に高温では液体(溶体)ですが、それを鋳型などに鋳込むと固体の状態で、Fe(鉄)に炭素やその他の元素が素地(マトリックス:matrix)に溶け込んでいるものが固溶体です。

一般の熱処理は、加熱している状態でも固体ですので、この状態が固溶体で、固溶体の状態で温度変化を与えて、結晶構造の変化を利用して「焼入れ」などの熱処理が行われているということになります。

元素の構成によって、置換型固溶体と侵入型固溶体があり、もちろんそれらが混合している場合もありますが、通常の焼入れ焼戻しなどの熱処理は固体の状態のままで、熱の操作をして結晶の構造や配列を変化させています。

固溶体のイメージ   

2元素が固溶する場合、左図のような2種類の固溶体が考えられられます。左が置換型、右が侵入型です。(あくまでイメージです)

通常の鋼は多種の元素を含むために、このような単純なものではないので、この図はイメージ的な図です。

また、鋼の熱処理においても、加熱冷却に伴って、結晶構造が体心立方・面心立方・体心正方などと変化しますし、さらに各元素が入り組んでいますし、各所で均一ではないことなど、部分部分でそれらの様子が変わっていることによって鋼の機械的性質などを複雑に変化させている・・・と言えるでしょう。

SKD11の場合でそれをみていきましょう

例えば、SKD11(1.5%C-12%Cr-1%Mo鋼)のような合金元素の多い高炭素の鋼の場合で考えてみましょう。 

高温ですべての元素が溶け込んでいる「融体(液体・溶体)」スープの①の状態から温度を下げていくと、まず、炭化物(共晶炭化物)が析出します。 このような炭化物は、焼入れ温度に加熱しても(オーステナイト中に)溶け込みませんので、この熱処理温度で素地中に溶け込まない炭化物を「共晶炭化物」といいます。

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それが固溶体の中に混在して、残りの組成が固溶体の状態となっています。この状態は、液体や半液体ではなくて、硬さは高くないのですが固体です。(②の状態)

②の状態から、普通は徐冷して鋼塊全体を凝固させ(③の状態)、その後に1150℃程度まで再加熱して鍛造などの熱間加工で均質な鋼材にして常温まで冷やされ、再度、完全焼なまし処理をして製品(機械加工よう素材)として出荷されます。 そしてそれを金型などに加工成形後に熱処理(焼入焼戻し)をします。

ここからは熱処理段階です。

熱処理での加熱状態は ④ の状態で、共析炭化物以外の元素はオーステナイトという状態の組織の中にすべての元素が溶け込んだ状態となっています。共晶炭化物は溶け込まずに、そのままの状態です。

そこから焼入れ硬化させて常温になると、オーステナイトであった部分は、マルテンサイトという硬い組織やベーナイトなどの組織や未変態のオーステナイトなどが複雑に混ざった組織になっていますが、これも固溶体の状態です。

それを焼戻しするのですが、温度によって上の組織状態は徐々に変化しますが、これも固溶体内の変化で、焼戻し完了後に常温に戻ると、その変化は簡単な確認の仕方でいえば、「硬さ変化」として捉えられます。

それが500℃以上の温度で焼戻しした際に、少し変化が出ます。(⑤の状態)

SKD11では、約400℃を超えるあたりから、新たに炭化物が析出して硬さが上昇します。 そこで析出した炭化物を「共析炭化物」と呼びます。

すなわち、それらの共析炭化物は固溶体の中から必要な炭化物成分を抽出して、残りの固溶体の元素量などが変化していることになります。

熱処理で加熱したときのオーステナイト状態とは、鋼の温度を変態点以上にあげて、面心立方晶に変態した状態(焼入れ温度になっている状態)の状態を言います。

この状態では、高温で鋼は柔らかくなっていますが、やはり固溶体(固体)の状態です。

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低炭素鋼でも同様です

オーステナイトの状態にある高温の鋼(この場合は、簡単なように、たとえば、S45Cなどの特別な元素を含まないφ10程度の鋼(0.45%C)を考えるといいのですが)を、 水冷などで非常に早く冷却をすると、 「マルテンサイト」という組織が出現して硬化します。

しかし、その冷却の速さを変えて、少し遅い冷却(例えば、油冷や空冷)をすると、フェライト、マルテンサイトなどの単相と、フェライト部分以外のマルテンサイトであるべきところが、それ以外の、トルースタイト、 ソルバイト、 パーライトなどと呼ばれる層状になった混合組織になります。

・・・このような、熱処理として説明される状態の変化は、すべて、固体状態における固溶体の変化です。

長ったらしく複雑そうな話の説明ですが、鋼のように多成分が混合しているものが個体のような状態になっているのを「固体」と言わないで「固溶体」と言う・・・というだけのことですが、固溶体の中でいろいろな変化をしている状態をイメージしていただきたかったので、長い話になりました。


オーステナイト系ステンレスの熱処理に「溶体化処理」というものがありますが、これは固溶体処理(または固溶体化処理)と呼ばれます。

これも、難しく考えないで、安定したオーステナイト状態を保つための熱処理・・・と考えておけば納得しやすいと思います。

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