連続冷却変態曲線(れんぞくれいきゃくへんたい~)[r10]
CCT(しーしーてぃー)曲線とも言います。
縦軸に温度、横軸に時間をとり、焼入れ温度から等速冷却したときの温度推移と常温硬さを示した図です。
この図は、共析鋼(SK85のような鋼種)の焼入れ時の冷却速度を変えて冷却したときの組織変化と常温硬さを示した図です。
このCCTは、Continuous-Cooling-Trancformationの頭文字をとったものです。
この図を作るためには、小さな試験片を焼入れ温度(この図では860℃)に加熱後、冷却速度を制御装置を利用して、等速に冷却をして常温まで冷却して、常温になったときの硬さなどが示されています。(図ではH.V.=ビッカース硬さ)
例えば、300℃/sec以上の速さで冷却するとMs点を横断しているので、マルテンサイトになり、240℃/secでは、Psにかかっているので、マルテンサイト以外のソルバイトなどの組織が生じていることが読み取れます。
また、540℃/secで冷却すれば、916HV(ロックウェル換算で67HRC)以上の硬さになり、200℃/secまではマルテンサイトとパーライト(ツルースタイトやソルバイトといわれる微細なパーライト組織)の混合組織になる・・・ということもこの図から読み取れますし、それからさらに冷却が遅くなるとやわらかい「焼なまし組織」になる・・・ということがこの図でわかります。
PR(参考)焼なましは30℃/Hr以下の速度で冷却しますが、これは単純に換算すると0.008℃/secですので、この図にあるよりももっと遅い冷却になります。SK85の焼なまし硬さは190H以下です。
実際の熱処理でSK85の1cm角程度の小さな試験片を用いて水焼入れした場合には、硬さが880HVを超えることが難しいのですが、この装置は、小さな試験片と強力な冷却装置でそのような条件を作っているので、逆に言うと、実際の熱処理作業の条件と異なる冷却方法といえます。
熱処理の研究が盛んだった1960年代は、これを用いて実際の熱処理の推定をすることもありました。しかし、現在ではこの図を見て検討したり使ったりすることもほとんどなくなりました。
現状の熱処理では、このCCT曲線は実用性に乏しく、熱処理の説明用に使用される程度の利用価値しかなくなっているように思います。
ある大きさの品物を焼入れした場合に、いくらの硬さになるのかを知ることは重要なのですが、焼入れ性の低い鋼種や品物が大きくなれば、焼入れ中に各部の冷却速度が大きく異なり、また、連続冷却することは難しいうえに、水や油の冷却材ではCCT曲線のような等速冷却は難しいこともあって、この図は利用しにくいのです。
私自身は、ある品物の焼入れ硬さを推定するためにこのCCT曲線を利用するよりも、ソルトバスなどを使って、「実際に焼入れテストをしてみる」ほうが確実で手っ取り早いこともあって、これを使って机上で検討するということはほとんどやりませんでしたが、使い方は全くないいことではなくて、焼入れテストした試験片の硬さから冷却速度を推定することなどに利用できます。
昭和年代から現代に至っても、いろいろな鋼種のCCT曲線が整備されていない状況なので、汎用的に使いにくいこともあるのですが、しかし、熱処理の考え方を勉強をするための基本図表であることには変わりはありません。
PRCCT曲線は、恒温変態曲線(S曲線)などとともに使用して、小さな品物や比較的焼入れ性の悪い鋼種の焼入れ状態を推定には利用できそうですが、近年は非常に焼入れ性に優れた鋼種が増えており、焼入れ性の低い鋼では、大きな形状の品物を扱うことが多いために使いにくく、そのために実用性もほとんどないというのが実情でしょう。
このような使いにくさもあることから、例えば、プロテリアル(旧:日立金属)(株)では、(焼入れ性の良い鋼種が多いのですが)大きいサイズの品物(丸棒)の硬さ推定や、中心硬さの推定ができる「半冷曲線」というものを作成してカタログなどに掲載しています。
また、最近では、パソコンソフトなどを用いて、加熱冷却シミュレーションができるようになってきていますので、それを利用して焼入れ状態を検討することもできるようになってきています。
しかし、私自身も、PCを用いてシミュレーションをすることがありますが、硬さの推定や冷却過程のシミュレーション結果と、熱電対を用いた冷却過程の実測とはかなり異なるのが通例です。
計算に使用する要素(因子)が多くなると、実際に近づくのかといえば、そうでもなく、とんでもない結果が出ることもあり、それらについて実際の熱処理内容を理解して実験などで補正するなど、使い方を工夫しないといけません。
しかし、大型の品物の冷却状態を推定することなどの、簡単に実験できないことをコンピュータシミュレーションで検討できる便利さがあるので、今後はさらに改良されて使いやすいようになっていくでしょう。
このように、実用性に乏しいCCT曲線ですが、熱処理を理解するためには便利なものですので、熱処理講義にはしばしば取り上げられます。
しかし、「熱処理現場ではどのように使ったらいいのか?」という実用的な内容は、講習会などではほとんど説明されません。
私自身も、会社では焼入れ性の低い鋼種を取り扱う割合が減り、「パーライトノーズにかからないようにするためには、 その温度まで何秒で冷やせばよいか・・・」などというCCT曲線を使った検討もやることはありません。
このCCT曲線はもそうですが、ほとんどの熱処理試験や熱処理の図は、小さいテストピースで行われる結果なので、実際の熱処理の品物のように少し大きくなると、冷却速度にはいろいろな制約や条件が加わって、例えば、「この材質でこの大きさの品物を油焼入れした時の硬さはいくらになるか?」などになると、過去のデーターと長年の勘のほうが確か・・・というのが現実です。
さらに、実際の熱処理作業では、すべてが教科書どおりの作業ではありませんし、品物の形状が雑多なので、このような小さな試験片データで特殊な冷却条件では使えないことも多いのです。
しかし、これらの熱処理用図は、熱処理を学ぶ場合には避けて通れないものですので、熱処理勉強用の特殊な図・・・だと考えて学ぶ程度でいいような気がしています。
(熱処理に関係する曲線図等はこちらのページで少しだけ詳しく書いています。
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