熱処理用試験片 [n14]
ここでは詳しい説明は紙面の関係でできませんが、熱処理に用いられる試験片は、質量の影響を受けないように、小さな試験片で試験されたものであることを知っておいてください。
JISに規定された鋼種の機械的性質を調べる場合の試験方法については、それぞれに決められた方法で試験が表示されている場合が多いのですが、熱処理試験(例えば、引張試験をするための熱処理前の加工寸法など)については、一般的には具体的に示されていないことが多いですし、古くからある鋼種では、多くのデータは50年以上前のものも多くあって、試験の詳細も曖昧になってきていますので、実際の品物を考える場合は、熱処理の特殊事情を知っておくといいでしょう。
熱処理の硬さや組織などは、鋼種や試験片の大きさによって結果が大きく異なリますので、試験をする試験片の寸法だけではなく、試験片に加工するまでの材料履歴なども吟味する必要があります。
焼入焼戻し硬さなどの試験も、小さな試験片で行われていますので、それらのことも知っておくといいでしょう。
【構造用鋼】
構造用鋼など、JISに規定されているものについては、熱処理用試験片はφ25程度以下のものが用いられています。
さらに、焼入れ性の良くない鋼種が多いので、目的に応じてそれよりも小さな試験片を用いた値が掲載されているものも多々あります。
構造用鋼の熱処理性質などは昭和40年代に詳細に試験されていたものが多いために、試験片の詳細などが示されていない資料も多いということも記憶ください。
たとえば、試験片の大きさが同じであっても、焼入れ性の低い鋼種などは質量効果のために内外で組織・硬さなどが大きく変わるなどの問題がありますので、注意が必要になります。
機械試験(引張試験や衝撃試験など)については試験片の形状が規定されていて、試験もJISに基づいて行いますが、熱処理をするときの寸法形状などは気に留めないことも多いようです。 しかし、材料履歴を含めた試験片のとり方は試験結果に影響します。
PRメーカーのカタログなどに示す値では、特にJISなどの規定がなければ、安定した「良い結果」となるように様々な工夫がされているのですが、例えば、品物から試験片を採取して熱処理試験をしようとする場合(これを実態試験といいます)はカタログ値と大きな違いが出ることもあります。
試験片になるまでの材料履歴で試験値は大きく変わることは知っておく必要があります。
一例をあげると、S45Cの調質品をJIS4号引張試験片で引張試験をする場合を考えてみましょう。
引っ張り部の平行部分は14mmですが、つかみの部分は25mm程度ですので、25mmの丸棒で熱処理するのと、平行部分を削り込んで熱処理したあとで仕上げ削りした場合は、耐力に大きな差が出ます。
大きな品物の実態試験になると、鍛錬(圧延)状態が小径丸棒で行っているカタログ値などと大きく異なる場合も出てきます。 そういう条件を吟味して熱処理や熱処理試験をする必要があります。
【工具鋼】
工具鋼については、各メーカーで試験片の大きさが異なっているのが実情で、熱処理試験は、φ15程度、又は15角程度以下の小さな試験片を用いて試験されているものが多いようです。
もっと小さなものが良さそうですが、たとえば、熱処理温度特性(焼戻し温度と硬さの関係)を調べる場合は、数十回硬さ測定が必要ですので、このような寸法に落ち着くのでしょう。
このように、メーカーでは、独自の仕様を定めて実施していますし、安定した結果が出るように、個別に試験片の調製方法が定められているために、市販されている材料で試験したものとは異なる場合もでてきます。
高合金の特殊鋼(工具鋼)などは、品物が大きくなると、表面と内部で成分や品質が異なっているのは避けられませんし、質量効果の影響なども出てくるので、小さな試験片とくらべると、得られる結果が異なってきます。
熱処理後の検査では、普通は表面硬さしか検査することができませんので、内部の状態はわかりませんから、熱処理前の材料履歴まで考えて試験しなければいけないこともあります。
そういう目で見ると、メーカーが公表しているグラフやデーターも絶対的なものでないのです。
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