熱浴焼入れ (ねつよくやきいれ) [n13]
温度を上げた溶融塩などに品物を浸漬して焼入れする方法を熱浴焼入れといいます。
ソルトバスを用いることがほとんどなので、「ソルト焼入れ」ともいわれています。
ソルトバスを使った冷却は、焼入れ油や水などの冷却に比べて、冷却速度が遅いので、品物によっては硬化しにくいという欠点はありますが、高い温度で品物を保持することで、オーステンパー、マルクエンチなどの恒温熱処理ができることで熱処理変形や熱処理後の性質の調整などができるために、熱処理の幅が広がります。
恒温処理中の品物
変形や焼割れを軽減するために、「ホットオイル」と呼ばれる、耐熱性の高い焼入れ油を温度を上げて使う場合もあります。また、溶融した鉛浴なども用いられます。
しかし、高温の油は火災の危険があり、溶融金属は健康上の問題もあるので、簡単にいろいろな温度で使用できるソルトバスは長い間使用されてきています。
ソルトバスを用る恒温熱処理には、オーステンパー、マルクエンチ、マルテンパーなどがあります。(→恒温熱処理についてはこちらで)
恒温熱処理とは、焼入れ冷却途中で品物を一定温度に保って焼入れ時の変態を制御する方法を言いますが、それとは別に、古くから、高速度鋼の焼入れで、550℃程度のソルトバスに品物を入れて、品物がその温度になったら取り出して空冷する方法の熱処理が行われています。
これはオーステンパーなどの恒温熱処理とは異なり、品物の温度を一定にして冷却するためのものですので、「熱浴焼入れ」と言っているのですが、当社の従業員でも熱浴焼入れとオーステンパーなどの恒温熱処理を混同して会話をしていることがあリます。
簡単にその違いを説明します。
オーステンパーも熱浴焼入れも、焼入れ温度からソルトなどを用いて「パーライト変態しないような温度(例えば550℃など)」に保持するまでは同じです。
ただ、オーステンパーはその温度に保持してオーステナイトから他の組織に変態硬化させるものですが、ソルト焼入れで通常行われている「熱浴焼入れ」は、ソルトから取り出したあとの冷却中に硬化して、ベイナイトやマルテンサイトになって焼入れ硬化する・・・という違いがあります。
高速度鋼などの合金鋼では、オーステンパーのようにして恒温変態させるのには長時間を要するので、現実的ではありません。
この高速度鋼(ハイス)の熱処理は、長い間、同様の方法で行われてきましたが、最近は、真空炉を用いて加圧冷却という方法で急速な冷却ができるようになって、それに変わりつつあります。
ソルトバスは、洗浄や装置の維持費用が大きいこともあって、近い将来、なくなる可能性が高い設備なので、熱浴焼入れや恒温熱処理という言葉も死語になるかもしれません。
しかし、この恒温保持や恒温処理は様々な新しい性質を持った製品を生み出す可能性を含んでいますし、熱処理講習などでは、オーステンパー、マルクエンチ、マルテンパーなどの原理や方法は現在でも説明されているように、従来の熱処理では得られなかった特性が得られる可能性を秘めています。
近年、一般熱処理分野では、そういう研究が行われていないのが残念なことだと思っています。
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