恒温熱処理(こうおんねつしょり)[k45]
塩浴などの恒温槽をつかって行なう熱処理を「恒温熱処理」といいます。
これは、焼入れ冷却中に一定温度に保持する塩浴(ソルトバス)に品物を入れてその温度に保持することで、通常の油冷や水冷の焼入れとは違った組織を得る処理方法で、オーステンパーやマルクエンチなどとよばれる熱処理があります。
この図は、焼入れ中の温度変化を示しています。
上図は、TTT曲線(恒温変態曲線)と冷却曲線を混合した図ですが、焼入れ温度(QTemp)から冷却する時の時間と温度を表現したものです。
通常の油焼入れは、OQの青色の線のように温度変化します。
図中のPs・Pfをふくむ黒色とピンク色の「Sマーク」部分はパーライト変態線といい、通常、S字の上部を横切るような「遅い」冷却をすると硬化しないので、S時の線にかからないようにすばやく冷却することで鋼は硬化(変態)します。
焼入れ温度(QTemp)から油冷すると、青い線(OQ)のような冷却過程でマルテンサイト変態しますが、ソルトバスなどを用いてAT1・AT2・MQ・MTなどの温度に保持する処理が恒温処理です。
PRこの恒温処理には大きく分けて2つの種類があります。
1つ目は、AT1・AT2・AT3のように、パーライト変態が完了するまでその温度に保持してから空冷して、ベイナイトやトゥルースタイトと呼ばれる組織にするオーステンパーと、2つ目は、MQ・MTのように、Ms点(マルテンサイト変態が始まる温度)付近で保持して冷却(通常は空冷)するマルクエンチやマルテンパーとよばれる方法があります。
【オーステンパー】
オーステンパーは、AT1TempとAT2Tempに書かれるように、保持する温度を変えることで組織が変化します。(もちろん硬さも変わります)
この処理をする鋼種によっては、焼入れ焼戻しした鋼とは違う(例えば、非常にじん性が高いなどの)優れた機械的性質が出る場合があります。
恒温処理する温度が低い場合に、ベイナイトという組織が出る場合もあって、これは、かなり強度(または硬さ)の高いものであるので、焼戻しをすることでさらに機械的性質の調整をする場合もありますが、通常のオーステンパー処理で高い温度での恒温処理の場合は、組織変化が完了しているために、特に焼戻しを必要としません。
【マルクエンチ・マルテンパー】
オーステンパー温度よりも低い、Ms点の直下で恒温保持する方法をマルテンパー(図のMT)、Ms点直上で保持して冷却する方法をマルクエンチ(図のMQ)といいます。
両者は同じ処理と説明されている場合も多く、当社でも「ソルト焼入れ」というような表現をしており、焼入れ硬さの均一性の確保や焼割れ、変形防止などの目的でおこなう方法です。
これらの処理は、恒温槽(ソルトバスなど)を用いなくてはならないために、あまり研究されていないのですが、通常の焼入れでも、パーライトノーズにかからないように、初期の急速冷却を行ってパーライトノース以下の温度域からMs点温度以上の温度範囲で冷却速度を変えれば組織の調整ができるのですから、このような恒温変態処理は、今後も検討しがいのある内容を含んでいると言えます。
現在は、「熱処理」の考え方や理論は「確立されたもの」と考えられる傾向が強くて、、このような熱処理技術はあまり研究が進んでいないようですが、この辺の考え方は、未知の内容を含んでいて、興味深いものです。
たとえば、焼が入らない高い温度においては「やわらかいオーステナイト状態」であることを利用して、それを加工するなどの「成形+熱処理」技術などへの応用性も考えられますし、塩浴を用いずに、冷却ガスで変態をコントロールすることで、焼割れ、変形対策や、いろいろな性質を持った鋼板鋼材の製造などに応用が可能な内容が含まれていると言えます。
PR
(来歴)R2.3 見直し R2.4 CSS変更 最終確認R6.1月