ミクロ組織 [m09]
金属顕微鏡などで観察される組織のことを「ミクロ組織」といいます。 ミクロ組織に対して、肉眼やルーペで確認できる組織をマクロ組織と呼びます。
ミクロ組織は金属顕微鏡などで観察するので、通常は鏡面研磨した後に、腐食液で腐食した金属の表面を観察します。
腐食液で腐食しない場合は「無腐食」と表されます。
ただ、腐食した場合でも、特別な場合を除いて、腐食液の詳細などは、表示されない場合が多いようです。
鉄鋼の場合は、特に表記のない場合は、比較しやすいように、ナイタール(→こちら)を使って腐食する場合が多いです。
通常は100~400倍程度で組織を観察します。
ミクロ組織観察は、検査する試験片の表面をエメリーペーパーなどで磨いて、番手を順次細かくして磨き上げ、最終的には、アルミナの懸濁液などを用いて鏡面仕上をしてから、腐食液で腐食した表面を観察します。
この作業は熟練のいる作業です。
同じ金属組織であっても、鏡面の程度、腐食液の種類、腐食時間、観察するタイミング … によって変わってくることに留意しておく必要があります。
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以下は、参考事項です。
真実を見極める力の大切さ
WEBに掲載されている写真などにも言えるのですが、掲載されているものすべては実際の写真ですので間違っているとは言えませんが、しかし、研磨や腐食の方法、写真のとり方などによって、観察する組織の見え方が簡単に変わるということを知っておくのは重要です。
悪く言えば、意図的に組織を改変しないまでも、デジタル技術が進んだ結果、推論通りに写真を加工することもたやすくなりました。
このHPでもそうなのですが、写真を見やすくするために、コントラストを上げるなどの加工をするのですが、このような改変は説明のためには必要になることもあります。
しかし例えば、事故原因を調べるという場合などでは、利害や金銭が絡むために、提示される組織写真は客観的な内容でないといけないはずのものが、意図的に見え方の加工するようなことは問題が生じるかもしれません。
例えば、写真倍率を少し変えるだけで、見え方はすごく変わりますので、事故原因の究明には、それらを読み取る力が必要になります。
いろいろな調査機関の報告書を見ることも多いのですが、高度な機器を使っている割には幼稚な内容が散見することに出合います。
例えば、近年では、光学顕微鏡倍率を超えた機器(例えば電子顕微鏡など)を使用されるものも多くなって、小さな欠陥をうまく現出して、鬼の首を取ったように報告書がまとめられる場合も見受けられます。
確かに、それは破壊の主な原因になっている可能性は高いのですが、本来、通常の鋼材には、材料欠陥が皆無ということはありません。
だから、いくら早期破壊といえども、品物を使用して破損するのは、外力などが作用して製品が耐えられる能力を超えている結果から破壊につながったものと言えますので、たまたま見つかった起点付近の微細な異常組織から破損原因を推察していくのも、非常に危ういことです。
形状設計に無理があるかもしれないのに、ミクロ的な原因だけを追求しがちになっている調査報告が多くなっていたり、使用している環境や条件を見ないで、品物だけに着目しているものは、一歩間違えば、真の原因を見誤ります。
ミクロ的な欠陥は、事故に至る原因の一つですが、大局的な見方をしないと、アラ探しで終わってしまいますので、事故品の原因調査などで必要なのは、対策が取れるかどうか、再発防止につながるかどうか … などの発展的内容でないと意味がありません。
しばしば間違った判断に陥りやすい例では、実際の品物のミクロ組織が「標準組織」と異なっている … という点や、実態からとったシャルピー試験で標準的な値になっていないので、材料や熱処理の原因として結論付けているものさえあります。
熱処理資料の見かたの基本が欠落しているのですが、「標準組織」やカタログにあるシャルピー値は試験のために作られた試験片での結果ですので、実際に使用される品物の加工条件とは違うということを熟知していないと調査報告を書く資格もないのですが、残念ながら、このような例はあります。
通常の品物は標準組織写真用の試験片に比して、かなり大きいことが多いですし、大きな材料から削り出されたものか鍛造されたものか … などの材料履歴によっても大きく異なってきますので、単に、標準組織やカタログ値と違っているから問題があるということにはならないはずなのですが。
微小欠陥が破壊の原因だ … と鬼の首をとったように小さな欠陥を見つけ出して終わっている報告書は、今後は、検査機器の向上に伴い今後さらに増える可能性があるので、読む側の知識や観察力がないと、とんでもない方向になるということを頭の隅においておいても損はしないでしょう。
調査する側は、必要な場合は再現試験や再熱処理試験をするなどで、客観的な状態を知るなどの方法を取るぐらいの気構えでないと事故の真相は見えてこないことも多いのです。
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