マスエフェクトという熱処理用語について [m01]
質量効果(mass effect)のことです。(→こちらの「質量効果」でも記事あり)
質量効果という言葉もわかりにくくとらえどころのない熱処理用語ですが、熱処理では、品物の形状が大きくなるにつれて冷却速度が遅くなり、焼が入りにくく(硬化しにくく)なることなどを説明するときに、たとえば「マスエフェクト(質量効果)で焼きが入らない」や、「充分に硬さが出ないのはマスエフェクト(質量効果)によるもの」などのように表現されます。
ただ、具体的にマスエフェクト(質量効果)の程度を数値で表すということはありませんので、これが言葉の内容を分かりにくくしているのかもしれません。
図1例えば、このような鋼材のカタログにある熱処理試験のデータは、φ15程度以下の小さな試験片を用いて試験されたものです。
少し大きい試験片を使うと、値が変わってきます。
そのために、少し大きな品物を焼入れ焼戻しをしても、上のような硬さにはなりませんので、それがわかるようにと、下図のように、φ25~100の焼入れ硬さとそれを焼戻しした時の硬さを示すデータもあります。 もちろん、このようなデータは多くありません。
図2
つまりこれは、同じSCM435の材料でも、鋼材径が大きくなった場合は、表面硬さや焼戻し硬さは低くなっていますし、焼入れした時に十分硬化していないと、焼戻しした時の硬さも低いということなどが概念的につかめるという図です。
とくにこの、焼入れ時にサイズの大きさの影響を受けることが「質量効果」で、焼入れしても目的の硬さに硬化しない状況を、「質量効果の影響で十分な表面硬さがえられない」などと表現されます。
少し横道にそれますが …
たくさんの熱処理データが公表されていないし、さらに、2つの図表の硬さの表示が HBとHRCで違っていますね。
このように、図やデータを見るときにも、それ以外の熱処理知識が必要になるので、少し大変ですが、上の2つのグラフはSCM435の例で、硬さに違いが出ているのは質量効果によるものですから、試験片の棒径の違いが関係していると推察するのですが、その違いを見るためには、硬さ換算表を利用して硬さ値を合わせないと比較できません。
換算テーブルの一例
これは、JISハンドブックの熱処理編の巻末にある、いくつかの換算表の数値でHB-HRCの関係をプロットしたものです。
これを使って、上の2つの図から、例えば、図1で550℃焼戻し硬さは320-380HBの間なので、例えば、360HBとすると、HRC換算値は40.0HRCですが、図2のφ25の550℃焼戻し硬さは35HRC程度になっていますね。 すなわち、この数値の差は、棒径によるマスエフェクトの結果が表れているということですね。
実際の熱処理操作では、質量効果(品物の大きさの影響)による焼入れ時の硬さ低下は、必ず生じますので、大きい品物の焼戻し温度を決める場合は、品物の焼入れ硬さ(焼戻し前の硬さ)を測定して、これらの表をつかって熱処理曲線(図1のようなグラフ)から硬さを読み取り、その差異を加味して目標硬さに対する焼戻し温度をきめるという作業をします。
このような方法は書籍に書いているものではないのですが、熱処理現場の技術者はこのような独自の方法で、少ない資料だけで、目的硬さになるように焼戻し温度を決めて作業することがあります。
極端な例では、機械構造用鋼などの焼入れ性の低い鋼種では、大きな品物になると、焼入れ状態の硬さが、すでに焼戻しの硬さになっている場合もあるなど、実際の現場の熱処理になると、書籍にない内容に出会っても、既存の少ないグラフの見かたで対処することも多いのです。 現場的な方法なので詳細は割愛します。
(来歴)R2.1 見直し R2.4 CSS変更 R7.8月見直し













