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共晶炭化物(きょうしょうたんかぶつ)[k27]

高合金高炭素鋼は、製鋼時に、溶液(溶湯)の状態から凝固して全体がオーステナイトの状態になるまでに、鋼中に炭化物が析出します。

この炭化物は、焼入れなどの熱処理では、オーステナイト中に固溶しません。
これが共晶炭化物で、一次炭化物と言われることもあります。

これに対して、焼入れ温度でオーステナイト中に固溶して、高温焼戻しで硬さ上昇などに寄与する炭化物を「共析(きょうせき)炭化物」といいます。

製鋼の際に溶湯を鋳込んで冷却して凝固させて鋼塊にする際に、融点の高い炭化物から順に鋼の組織中に析出しますが、この炭化物の多くは、高い温度で析出しているものなので、焼入れなどでのオーステナイト化温度では素地(組織)の中に再固溶して消えることはありません。

その炭化物が共晶炭化物一次炭化物などと呼ばれるもので、それに対して、オーステナイト中に溶け込んだ状態の鋼を焼入れ焼戻しした時に、500℃以上の焼戻しで析出する炭化物が二次炭化物(または共析炭化物)です。

炭化物の形態や構成(成分)は、溶湯からの凝固条件で様々なものが生じます。

これらの析出状態により、複雑に機械的性質や鋼材品質が変化しますので、製鋼方法や製鋼技術は鋼材品質に関係する大きな課題だといえます。

特に高合金工具鋼では、この製造履歴が工具の品質に大きく影響しますので、凝固速度の調整はもとより、ソーキング等によって鋼の状態を調整することが重要になります。

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一般的には、共晶炭化物の組成や形状は耐摩耗性を高めるとともに、じん性を低下させるとされています。つまり、共晶炭化物の耐摩耗性については、

1)炭化物の硬いほうが
2)量が多いほうが
3)粒の大きいほうが・・・・・

のような影響がありますし、反対に耐摩耗性が高くなると、じん性は低下するのが一般的です。

また、炭化物を構成する炭素と合金成分の割合が増えると、マトリックス(素地)中の成分が影響を受けますので、炭化物量(しいては鋼材の化学成分)は鋼材の機械的性質や特性を大きく変えます。
このことからも、凝固時の制御技術は重要といえます。

共晶炭化物はじん性を低下させるために、特に、切削用の鋼材では、小さくて種々の炭化物を均一に分散することがいいとされています。

このことから、高炭素高速度鋼では「粉末ハイス」が良いとされるのは「じん性が高い」というのがその理由です。

しかしこれもまた、大きい炭化物がある溶製のハイスよりも耐摩耗性が落ちるという評価もあるので、じん性と耐摩耗性を両立させて高性能化するのは難しいことといえます。

日立金属SLDの炭化物(カタログより)

これは、日立金属のSLD(SKD11相当)のカタログ(倍率は不明)に掲載されている図表で、白く見える大きな炭化物が、鋼塊の凝固時に析出した共晶炭化物です。

全体の炭化物量は、焼入れによって減少していますが、これは、共析炭化物が素地(マトリックス)に溶け込んだためで、それは(ここには示されていませんが)500℃以上の高温焼戻しすることで再び析出します。

ここではεと示されている炭化物ですが、500℃以上の高温焼戻しすると、共析炭化物が析出して、腐食されやすい組織に変化します。

ここでは示されていませんが、高温の焼戻し組織は、焼なましの写真のような黒っぽい組織になります。


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