過時効 (かじこう) [k11]
析出硬化型ステンレスやマルエージング鋼などで、硬さを出すための処理を「時効処理」といいますが、時効処理の温度を最高硬さが出る温度以上に上げると、硬さが低下し、じん性等が増す状態になります。
これを、過時効、または、オーバーエイジングといいます。
SUS630、SUS631、マルエージング鋼 などと呼ばれる鋼種は、炭素の含有量が少ないので焼入れした状態では硬化していません。 この処理は「焼入れ」とは呼ばないで、「固溶化処理または溶体化処理」といいます。
SUS630では、1050℃程度から急冷する固溶化処理後に時効処理(加熱処理)をすることで硬化します。
SUS630は析出硬化系ステンレスと言われ、1000-1100℃程度の温度から急冷する溶体化処理後の硬さは30HRC程度ですが、溶体化処理後に機械加工などの成形加工をした後に「時効処理」によって、析出硬化させます。
この時効処理は、H900処理(えっち900しょり)・H1150などとよばれます。
この「900」は、華氏(F°)温度で、摂氏では480℃程度の加熱することにより、最高硬さになり、42HRC程度に上昇します。
JISなどでは温度別に4つの時効処理が規定されていますが、H900以上の温度になると、温度を上げるに従って硬さが低下し、H1150(約620℃)処理後は、30HRC以下に硬さが低下しています。 しかし、「固溶化処理+時効処理」をすると、じん性、伸び、絞りなどの機械的性質は向上します。
このように、最高硬さの出る温度を超えて高い温度で処理することやその処理された状態を過時効の状態と言います。
過時効の状態になると、硬さは低下しますが、常温及び低温での衝撃値が格段に増加しますので、用途に応じて時効温度を決めて処理します。
時効処理というと、何か仰々しい感じがしますが、これは、高合金工具鋼(例えばSKD11)の高温焼戻しによる変化と同じで、鋼をオーステナイト化した後に急冷(溶体化処理)して合金元素を鋼中に溶け込ましたものを、焼戻しをして析出させることで硬くなったものと考えれば同様の考え方で鋼は変化しているということが言えます。
「H900処理をしてください」という熱処理依頼をする方も多いのですが、本来は「硬さによって機械的性質が決まる」要素が大きいと言えますので、「38HRCになるように時効処理をしてください」というほうが妥当だと思っているのですが、JISにはそのあたりの考え方などが示されていません。
これは、ステンレスに関係する規格のほとんどは、アメリカの規格に沿っているためと、析出硬化系ステンレス自体がやや特殊な鋼種であるという理由のようなのですが、もっと、実用性の高い内容の説明解説があってもいいと思っているのですが、・・・。
現状の時効硬化して強度が上がるマルエージング鋼(→こちらを参照)には、時効による最高硬さが非常に高い鋼種もあります。
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(来歴)H30.11 文章見直し R2.4CSS変更 最終確認R6.1月