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 エムエス点(Ms点) [a18]

焼入れ冷却中にマルテンサイトが生成し始める温度(=鋼が硬化し始める温度)をエムエス(Ms)点、マルテンサイト変態が終了する温度はエムエフ(Mf)点といいます。

これは共析鋼(0.76%C)のCCT曲線の例です。Ms点は約220℃で、Mfは表示されていません。

Msの線は途中で切れていますが、これは、冷却が遅くなると、マルテンサイトが生成しないためです。

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CCT曲線の例でMS-MfWEBにあった図を引用しています。


これは、CCT曲線(連続冷却曲線)を見やすくした説明用の図です。

4本の線は、焼入れ温度から連続冷却した時の時間・温度の推移を示す線です。

ほとんどのCCT曲線では、冷却速度を変えたときの推移とともに、冷却後の常温の硬さが併記されています。(この図には書かれていません)

通常の焼入れ硬化する鋼をこのような連続冷却して焼入れをすると、(1)が硬く、(4)に向かって、柔らかくなります。時間軸は対数目盛(log)であるので注意します。

エムエス点(Ms点)は焼入れでマルテンサイト変態が起こり始める温度で、エムエフ点(Mf点)はマルテンサイト変態が完了する温度です。

この図ではパーライト変態(Ps)にかかる(3)の冷却速度までMs・Mfが示されています。

つまり、それよりも冷却が遅いと、マルテンサイトは生じないので、Ms・Mfは書かれていないということです。


マルテンサイトは温度が下がるにつれてその生成量が増します。(これを「温度変態」という場合があります)

ただ、実際の熱処理では、この図のように連続的に一定温度で温度を降下させることは難しいことです。 また、Ms近くの温度では、品物の温度ムラを少なくしたり割れや変形を防止するために、連続的に冷却しないことが多いので、この図は特殊な条件で作成された、熱処理の考え方を理解するためのもの・・・と考えておくのがいいでしょう。

つまり、通常の熱処理作業では、Ms点を意識しながら焼割れや変形を防止するために、冷却速度を変えて熱処理している・・・という言い方が当てはまりそうです。

Ms点の測定

Ms点は、組織変化による発熱吸熱反応や膨張率変化で比較的捉えやすいのでCCT曲線やS曲線などに書き加えられていることも多いのですが、Mfについては、その変化がわかりにくいので、Mfが書かれていないCCT曲線も多いようです。


文献で見られるこれらのCCT曲線の多くは昭和年代のもので、さらに、作成されている鋼種も限られています。

それもあって、「平衡状態図、S曲線、CCT曲線」などの熱処理曲線は熱処理の講義では習うものの、現場の熱処理で利用されることはほとんどなく、熱処理の考え方を学ぶためのものとして利用されているのが現状で、詳しく研究されている・・・というものでもないようです。


つぎに、正確な数字ではありませんが、参考として、数種類鋼種のMs点の例を示します。

Ms点は比較的測定しやすいのですが、Mfは鋼種によっては明確でないものもあって、ここでは90%マルテンサイトになった状態の数字で示しています。

下記の数字については出典が不明(私が寄せ集めたデータ)ですので、数値を使用するときは注意ください。
 Ms・Mfの例
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およそのMs点は、焼入れ中では発熱反応が起きるので、例えば、品物に熱電対をつけてその温度変化を詳細に調べると実測できます。 また、計算で求める方法もあり、いろいろな計算式が考案されています。

成分の違いで結果が大きく変わるなどもあって、いろいろな計算式が考案されています。ただ、合金量の多い鋼では実測値とかけ離れるものが多いようです。

Ms店の計算式 九州工大のレポートを参照九州工大http:hdl.handel.netから引用

Ms・Mf点はカタログなどをみても、表記されていない場合も多いのですが、上記の計算式は適用する成分範囲が限定されていて、すべての鋼種について計算できるというものではありません。

しかし熱処理従事者は、Ms点を常に意識することは重要です。

このMs付近の温度は、(特に工具鋼などでは)焼割れや変形をコントロールする上で重要です。

つまり、Ms点付近で品物の温度がまちまちであると、変形や割れが起こりやすいので、Msがわからなくても、似通った鋼種から類推して、Ms・Mfを意識して熱処理をすることは重要だと言えます。


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