熱処理用語の解説

 H鋼(エイチコウ)        [a14]

JIS G 4052焼入れ性を保証した構造用鋼材で規定されている、ジョミニー試験(ジョミニ一端焼入れ性試験)による硬さ範囲を保証した鋼材で、たとえばSCr415に対してSCr415H、SCM440に対しSCM440Hというように鋼種名の末尾にHを付加してある鋼種名になっています。これらを「H鋼」といいます。

ジョミニ焼入れ性試験例 Hバンドの例

上記はジョミニ焼入れ性試験(→こちらでも紹介)の1例です。
これらは焼入れ性曲線(H曲線)ともいわれます。

「焼入れ性の良い鋼」とは、焼入れ端の硬さが高く、端面からの距離が離れても硬さの低下が少ない鋼を言います。(上左図)

上右図は、1つの鋼種で硬さ幅の範囲を示したもので、「Hバンド」と呼ばれます。


H鋼はジョミニ焼入れ性試験での硬さの範囲を示す「Hバンド」が示された鋼材で、ジョミニ試験をすると、この範囲内に硬さが入ることを(つまり焼入れ性能を)保証された鋼材です。

もちろん、H表記のあるH鋼のほうが通常の鋼種に比べてHバンド幅が狭いのですが、このためには、鋼の成分や結晶粒度などを厳格に規定して製造されているものが「H鋼」だといえます。

しかし、このJIS規格は1987年のものが基本になっており、現在の製鋼技術では、当時よりもはるかに品質や均質性などの品位が向上しているので、このような規格も古くなっている感じがしますが、簡単には見直すことも難しいので当分は残るのでしょう。

2016年版のJISでは、H鋼が規定されている鋼材種は、SMn SMnC SCr SCM SNC SNCM の6分類24鋼種です。


このジョミニー焼入れ性試験(→こちら)ですが、φ25mmの棒の端面を水冷して焼入れする方法ですので、SNCやSNCMなどの焼入れ性の高い鋼種の試験には向いていない点がありますが、いずれにしても、H鋼はより管理度の高い状態で作られている鋼種・・・という捉え方でいいでしょう。

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【注意すること】

つぎに、しばしば、S45C-H やS45C(H)、SCM435-H、SCM435(H)という表記を見ることがあります。

これはすべてH鋼の表記ではなく、調質済み(焼入焼戻しされている)という意味で表記されている場合が少なくありません。このことに注意してください。

これらは、古くからの慣例による表記が残っているものであり、「ハイフンや括弧付きの表示があると、それが「圧延品のH鋼」なのか、「鋼材を熱処理してある鋼材」であるのかを確認したほうがいいでしょう。

未熱処理品か熱処理済み品かでは、全く品質は違いますし、硬くて機械加工ができない場合も出てきます。

JISでは、鋼材の規格と熱処理の規格は別で、明確な表示法がないためにこのような混乱が起きていると思われます。

S45CはH鋼に該当する鋼材はありませんので、S45C-Hは調質品の可能性が高いのですが、これがどういう品質なのか(例えば硬さ値がどれくらいなのか)は表示だけではわかりません。

このような「H鋼と紛らわしい表示」があれば、ともかく、確認するのがいいでしょう。

熱処理した鋼材の表記は、JISでは、熱処理の加工内容や品質を表示するようになっているので、S45CはS45Cで変わることがなく、荷札などの表記に、熱処理の種類(例えば、HQW-HT:水焼入れ焼戻し品 など)を表示する規定になっています。

しかしそれは、熱処理後の品質を示していませんので、これも、その都度確認しないといけません。



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や行 やゆよ
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