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安定化処理(あんていかしょり)   [a08]

時間経過にともなう寸法や組織の変化(これを時効による経年変化と言います)を防ぐことを意図した熱処理です。

この経年変化を防ぐために、鉄鋼の熱処理において、焼入れ時に生じた残留オーステナイトが使用中に組織変化しにくくするために、焼戻し温度を上げて、残留オーステナイトが分解しにくいようにする処理のことを安定化処理といいます。


一般的な説明では、合金工具鋼などが、焼入れが完了した時点で、組織中に残ったオーステナイト(これを残留オーステナイトといいます)は、不安定な組織です。

その残留オーステナイトは、焼戻し温度が400℃程度以上になると分解し始め、ソルバイトなどの安定した組織に変わっていき、さらに温度を上げて、550℃程度以上になると、それがほぼなくなってしまいます。

しかし、焼戻し温度を400℃以上まで上げると、機械的性質(特に硬さ)が低下してしまう場合もあるので、硬さが低下しない程度の焼戻し温度まで上げることで残留オーステナイトの変化を防ぐことを安定化処理といいます。


この、焼入れ時の残留オーステナイトの生成量は主として成分的な要素が強くはたらきます。

例えば、ダイス鋼SKD11では焼入れ直後には20~40%程度の残留オーステナイトがあり、焼入れ直後にサブゼロ処理をすると、10%程度以下(数%)になりますが、サブゼロをする前に200℃程度の焼戻しをしてからサブゼロすると、10%以下になりません。

これは焼戻しをすることによって、残留オーステナイトが「安定化した」といえるのですが、焼戻しで残留オーステナイトを消失させるには、550℃程度以上の加熱が必要になります。

SLDの残留オーステナイト日立金属SLDの技術資料より
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焼入れ時の残留オーステナイトは温度や外力に対して不安定で、温度・時間とともにマルテンサイト、ベイナイト、トゥルースタイトなどの組織に変化していきます。

このために、製品になってからオーステナイトの分解が発生すると変形などの原因になるだけでなく、分解して組織変化したした組織は焼き戻ししていない状態なので、「じん性」などが低下します。

それを避けるために、SKD11などの高い硬さで使用する鋼種を使った製品は、高めの温度に焼戻しして、残留オーステナイトが変化しにくいようにするのが安定化処理ですが、できるだけ高い温度が有効なのは言うまでもありませんが、硬さとの関係があるので、180℃以上の焼戻しを2回行うことでかなり効果的です。

また、強加工に伴って生成する加工誘起マルテンサイト(強変形によって、焼入れ組織であるマルテンサイトが生じるもの)の主な原因も残留オーステナイトの分解によるものとされています。

この安定化処理は残留オーステナイトによる影響を低減する一つの方法ですが、残留オーステナイト量を低減する方法ではないので、残留オーステナイト量を減らす対策(サブゼロ処理や焼入れ条件検討など)はこれとは別に考えておく必要があるでしょう。



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