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焼割れ(やきわれ)     [y12]

焼入れによって生じる割れを焼割れといいます。

もちろん、焼入れ後の焼戻し中に発生したものも「焼割れ」という場合もあり、広義では、「熱処理操作中に発生した割れ」と言ってもいいでしょう。

焼割れの原因は、加熱冷却中の熱応力や硬化や軟化の際の変態応力が品物の一部に集中するためと説明されることが多く、その部分の材料強度を超えると材料が元答えられなくなって破損するとされています。

熱処理による強化は応力によるものですので、割れに至らなくても変形などの形状の変化が発生しています。

一般的な割れの傾向は、低合金鋼においては、焼が入りにくく強度の弱い隅部などから割れる場合が多く、焼入れ性の良い鋼種では、大きさや形状が関係して、表面部に発生しやすいようです。


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熱処理についてわかりやすい書籍をたくさん書かれていた大和久重雄先生は、「焼割れは、焼の入りにくいところで発生する。しっかり焼入れすると割れない」ということをしきりにおっしゃっていました。

1990年頃までは、しばしば、焼割れが発生することも多く、不具合の割合としても多かったようですが、特に平成年代以降は、特に鋼材の製造において、連続鋳造法、脱ガズ技術などの技術向上によって、鋼材の品位が非常に高くなるとともに、熱処理の管理面においても標準化の浸透などもあって、焼割れの発生頻度は激減しています。

しかし、焼割れは熱処理や鋼材の不具合によって起こるだけではなく、形状や無理な要求に伴うなど要因もあって、皆無ではありません。

焼割れは、割れ起点での引張応力が材料強度を超えた場合の応力解放の結果で発生する・・・というのが基本的な見方です。

そのために、焼入れ性の低い低合金鋼では、隅部などの冷却が遅い部分は強化が不十分なために、その部分が破れの起点になることが多く、早く冷やすと割れる・・・という言い方は、ほとんど正しくないと考えられています。

当社でもしばしば、空冷で硬化する鋼種でも、大型の品物の場合は、機械的性質を高めるために油冷して冷却速度を上げて特性の向上を図る場合も多いのです。


これに対して、焼入れ性の高い高合金鋼では、熱処理による寸法変化(これを熱処理変寸といいます)と形状的な影響(これを質量効果という場合もあります)を受けるところことで割れが発生する場合もあります。

この場合は、熱処理や材料の問題というよりも、形状や材料選択などの設計的な要素が強いのですが、割れた品物を調査しても、その原因を特定することも難しいものがほとんどです。

極端な例ですが、焼入れ性の良いSKD11の品物を液体窒素や水で焼入れしても単純な形状では割れません。しかし、少し大きな品物や肉厚が異なる品物では、簡単に割れる場合もあります。

薄肉のグラスに熱湯を注いでも割れませんが、肉厚のガラスのほうが割れやすいのは既知のことですが、これは、ガラスが割れやすいこともありますが、鉄鋼の熱処理品では、そもそも、内部の応力を高める操作をしているので、焼割れは完全に避けられないものですし、たとえ割れなくても、変形が残るという問題もあります。

熱処理中には、下の図に示すように、温度による変化と、変態による変化が起こっており、品物が大きいと、各部位でその変化の様子が異なるので、非常に原因を特定するのが難しいと言えます。

冷却速度の違いによる長さの変化
この図は、(c)→(d)のように、冷却速度を早くすると、G点以降で変態の影響で体積変化していることを示す図ですが、焼入れ温度から急冷する際には、品物の各部分に加えて、内部と表面で温度差が生じることで熱応力が発生します。

また、この図のように、焼入れ温度(ここではD点)に加熱されているときは、オーステナイト組織になっているのですが、硬化してマルテンサイト化すると体積が膨張するため応力(変態応力)が発生します。

このことから、概念的には、熱変化と変態による変化が複雑に作用して、品物の弱いところや応力が集中しやすいところに集中すると割れてしまうと考えられていますが、全てはそのように単純なものでは説明できないでしょう。

その防止対策は、簡単ではないのですが、熱処理的には、品物各部の温度差を少なくすることが有効になります。

例えば、ゆっくり加熱する、均一に冷却する・・・などですが、品物を冷却中に冷却剤(水や油など)から引き上げるなどで対策をすることも多くありますが、やり方を間違うと、焼入れ硬さが出ない・・・などの問題が出る場合もあります。

また、硬い硬さにしないことや、油冷しなければならない鋼種でも空冷する・・・など、充分な熱処理硬さにしないことで割れの危険度を少なくする場合もあります。


もちろん、品物の加工時の注意によっても、割れの危険性を少なくできます。

表面の鋭角部や隅部を面取り、R加工をすることや表面をなめらかに加工すること、スケールのある肌や酸化した状態のまま熱処理しない、極端な厚さの差をなくす・・・などですが、それらの対策をすれば焼割れが生じないのか?となると、確証はありません。

品物が焼割れした場合に、その原因を探すことは大変で、品物を破壊するなどで調査をしても、その原因のほとんどは特定できるというものではありません。

昨今の熱処理事故品の調査報告を見ると、針でつついたような原因を探し当てて「これが原因と考えられる」と結言している報告書などが増えている感じがします。

これは、分析機器など、検査のための機器が進歩したこともありますが、例えば、割れの起点に炭化物や介在物があるのを見つけて、「これがわれの起点になっている」と書いてあるようなものもあるのですが、無欠陥の材料は絶対にないので、そのように結論づけることは単純にはできないはずです。

例えば、有害な非金属介在物が割れ起点に見つかっても、それは原因の一つにはなっても、それのみが原因と決めつけるのには無理があります。

「究極の焼割れ防止は熱処理をしない事」・・・というJOKEを言う人もいるくらい、対策も難しいのですが、熱処理業者は過去の経験を積んでいますので、事前に熱処理を相談することも熱処理の不具合防止には役に立つでしょう。


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