焼戻しパラメータ [y10]
通常の焼戻し曲線は焼戻し温度とその硬さの関係を示していますが、焼戻し硬さは温度と時間の関数として捉えることができることから、その関係を表したしたのような図を「焼戻しパラメータの図」と呼んでいます。
左の例はSKD61の焼戻しパラメータを図示したもので、右はプロテリアル(旧:プロテリアル(旧:日立金属))のカタログに示されている各鋼種の焼戻しパラメータの図です。
少し見にくいのですが、左では、P=(℃+273){20+log(hr)}という関係で硬さの変化を表現していますし、右の図は、P=T(20+log t)/10^3 として、温度と時間の関係を表した図になっています。
プロテリアル(旧:日立金属)さんの図では、使用中に金型の温度が上昇することで金型の硬さが低下して寿命を早めるので、それを高温強度の評価として、熱間工具鋼では、高温の環境で硬さ低下の少ない鋼が長寿命と評価できるために、その比較を示す図としてカタログに掲載されているようです。
焼戻しパラメータのグラフを、どのように使うのかということについては、難しいことですが、これが温度時間の関係以外に、「焼戻し回数」などによる硬さの低下度合いなども表していると言えます。
その他の使い方では、たとえば、5mを超える長尺の品物や総重量の大きな品物の硬さを均一に揃えるのは大変なことで、特に、500℃以上の高温焼戻しでは5℃程度の炉の温度のばらつきがあるだけでも、品物の端面でその影響を受けて硬さが低下しますので、それを回避するために、目的温度より低い温度で長時間の焼戻しをする・・・という方法で硬さをそろえるような工夫しますが、これも、時間と温度の関係を利用して方法です。
パラメーターでは、20+log(時間)ですので、ある硬さにするためには、少し焼戻し温度を下げて長時間焼戻しするか、少し高い目の温度にして、短時間で焼戻しすればいいということになります。
このように、時間の影響は対数で作用するので、ごく少し硬さを落としたい場合の保持時間を考える場合などにも応用できるでしょう。
また、製品の一部だけを硬さを下げたい場合には、高温短時間焼戻しが有効ですが、それも、この温度と時間の関係で考えることができます。
たとえば、品物全体は硬さが必要で、先端部分だけを少し硬さを下げたい場合は、先端だけをソルトバスで焼戻しする方法がありますが、その場合に、200℃で焼戻しをした品物であれば、先端だけを、たとえば、500℃のソルトバスに短時間浸漬して、本体の温度が上る前に取り出せば、本体の硬さ低下を抑えて、先端の硬さを低下させることができます。
もちろん、実際にやってみると、焼戻しパラメータで計算したようには簡単にいかないので、確認実験をして条件を決めるほうが確実ですが、これは、焼戻しパラメータの考え方の「温度と硬さはある関係がある」という考え方を応用しているといえます。
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焼戻しパラメータの図を作っているプロテリアル(旧:日立金属)さんのデータは貴重なデータですし、このような考え方を、実際の品物の焼戻しに適用すると面白いのですが、通常の焼戻し温度と硬さの関係の熱処理曲線のほうが使いやすいので、今後、このようなデータが増えることはないようですが、このデータは無駄ではないと思っています。
近年は、標準化が進んで、仕事中に実験や「遊び」ができる機会が少なくなった割には、「チャレンジ」を要求されます。私の場合は、昭和後期には、いろんなことが自由にできた古き良き時代だったのですが、ISOによる標準化がチャレンジを飲み込んだ感じがしているのですが、あなたの場合はどうでしょう?
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(来歴)R1.8 見直し R2.4 CSS変更 最終確認R6.1月