焼入れ [y01]
鋼をオーステナイト化温度から急冷して硬化させる処理が「焼入れ」です。
焼入れすることで「硬い」マルテンサイトやベイナイト組織になります。
通常は、焼入れ+焼戻しが一連の作業となります。つまり、焼入れして硬くなった鋼を、焼入れしたままで放置するのは良くありません。
PR
ここでの「急冷」は、あいまいな表現ですが、教科書的には「鋼を加熱してオーステナイトの状態から、その大部分がマルテンサイトになる速度で冷却すること」とあります。これもわかりにくいですね。
焼入れ温度から急冷して硬化させるためには、鋼種(鋼材の成分)や品物の大きさの影響を受けます。さらに、鋼種によっては、早く冷やしすぎると残留オーステナイトが増えすぎるなどで、いろいろな問題が起きることもあります。
そのことから、通常は、鋼種の規格やカタログなどには標準熱処理条件が示されていますので、「焼入れ加熱温度から指定の冷却方法で冷却する」というイメージが「焼入れ」というのがいいように思います。
【加熱雰囲気】
焼入れの加熱では、大気雰囲気の加熱以外に、酸化や脱炭を防ぐために真空や不活性ガスその他を使う場合も多くなっています。
これらを総称して「無酸化焼入れ」といいます。これには、真空加熱、雰囲気加熱などがありますが、光輝状態で熱処理できるという意味ではなく、大気で加熱したときのように、酸化・脱炭などの表面の変質が少ないという意味合いのものです。
【熱処理後の硬さ】
もちろん、どのような加熱方法をとっても、焼入れした結果で、カタログなどにある硬さや機械的性質などの値が出ない場合があります。(出ないほうが多いです)
これに対しては、熱処理を委託する場合では「事前の取り決めをする」ということになっていますが、事前に「必要な硬さが得られるのかどうかを聞いてから熱処理を依頼してください」ということです。
通常は、カタログなどの試験値は小さな試験片を用いた結果ですので、通常の品物では硬さや機械的な性質は掲載されているものよりも低下します。
【熱処理検査】
熱処理に要求される品質条件は、最終的に検査しますが、検査項目については、硬さと外観のみで、それ以外はほとんど指定することもされることもないのが実情です。
これは、検査などの費用の面もありますが、硬さによって、その他の機械的性質の推定ができるという理由からこのようになっています。
【付加熱処理】
標準熱処理条件以外の方法(例えばサブゼロ処理や冷却方法の変更)で焼入れを行うこともあります。これらも打ち合わせをして実施することになりますが、費用などが大幅に変わる場合もあるので、あわせて事前に打ち合わせするようにします。
焼いてみないとわからない
通常、熱処理業者などに焼入れ焼戻しなどの熱処理を依頼するときに、しばしば、「焼いてみないとわからない」という回答をされる場合があります。
これはかなり無責任な言い方ですが、しばしば聞くことがあるかもしれませんので、これについて簡単に紹介します。
PR熱処理硬さは一般的には表面の硬さを指定しますが(内部の硬さではありません)、
1)品物が大きいので表面硬さがでない
2)表面硬さは出るが、焼入れ性が低い鋼種では、内部硬さが保証できない
3)曲がりや割れの危険性のために、硬さを犠牲にしたり、通常の熱処理方法を変えて熱処理しないといけない・・・
など、指定した硬さを保証するのが難しいことが意外に多いのが実情で、特に構造用鋼などで焼入れ性が低い鋼種については、「焼いてみないとわからない」というような言い方でお客様に了解を取ることがしばしばあります。
【熱処理用語の表記についてかんたんに説明します】
パソコンの変換で「やきいれ」は、まず、「焼き入れ」と変換されるでしょう。ここでは「焼入れ」としています。
同様に、焼きなまし、焼き戻しなども同様で、JISでも「焼入焼戻し」「焼なまし」などと表記されています。
これは、現在のJISの前身で「熱処理工業会規格JHS」というのがあって、それがJIS規格になっていったという経緯があった、その時の表記がそのままJIS規格に引き継がれてきたようです。
この熱処理解説でも、すべてが統一されて変換されていないようですが、どちらが正しいということも言えない状況で、これをどうすることもできないのですが、こういう経緯は記憶にとどめておくといいかもしれません。
PR
(来歴)R2.2 見直し 最終確認R6.1月