遷移温度(せんいおんど) [s33]
鋼が低温にさらされると衝撃値が低下し、破壊した破面は脆性破面(ぜいせいはめん)になります。
このとき、簡便的に、破面の脆性破面率が50%になるときの温度を遷移温度といいます。
これらの図は日本鉄鋼協会編「鉄鋼の熱処理」から引用しています。
左図は0.2%の軟鋼の例で、シャルピー衝撃値Eは温度の低下とともに低下し、逆に、脆性破面率φは低温になるにつれて増加していることがわかります。
これは、低温になると鋼が脆化するので、「低温脆性」と言います。
この図のφが50%の時を簡便的に遷移温度としていますので、この鋼の遷移温度は-3℃程度といえます。
この例でも、気を付けなければいけないのですが、40℃以下になると温度の低下とともに衝撃値の低下がみられます。これを意識していることが大切です。
PRこの脆化する温度が低いほど低温にたいして強い鋼だといえます。
オーステナイト系のステンレスなどではこの遷移温度は低いのですが、上右の図のように、特に炭素CやリンPが遷移温度を上げる(低温に弱くなる)ので、Cが0.5%を超える工具鋼や型鋼などでは常温以下では脆くなっていると考えておいたほうがいいでしょう。
工具鋼などのデータは見当たらないのですが、冷凍庫の作業をすると刃物が折れやすくなることや、熱間鍛造型などで冬季の早朝に型が割れやすい・・・ということなどはこの低温脆性の影響があるのかもしれません。
この対策としては、刃物の場合は刃の厚さを厚くすること、型鋼の場合は、充分に予熱をすることなどがあげられますが、炭素量が低ければ硬くて強靭な工具になりませんので、高炭素の工具鋼では根本的な対策が難しいと言えます。
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