青熱脆性(せいねつぜいせい) [s29]
鋼を300℃付近で加熱すると、引張強さなどの増加と伸び・絞りなどの値が低下して脆くなる現象を青熱脆性といいます。
一般的には、焼戻しなどはこの温度範囲を避けるほうが良いとされています。
青熱とは、磨いた鋼を300℃程度に加熱する時にみられる青色の焼戻し色で、これが現れるのは250℃~350℃程度であるので、このような呼び方をされます。(下の「焼戻し色」を参照ください)
鋼をこの温度に加熱すると、じん性値の低下などが生じる場合があるので、構造用鋼ではこの温度を避けるか、急冷するなどでこの温度範囲に停滞しないことを求められます。
【参考】焼戻し色
プロテリアル(旧:日立金属)の資料「鉄鋼の焼戻し色」
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【これ以降の内容は、個人的な考え方で、一般的な考え方ではない部分もあるので、参考程度に読み流してください】
教科書的には、構造用鋼などでは「焼戻し脆性対策」として、この温度域を避けることやこの温度域を早く冷却するという操作が奨励されてきました。
しかし、私が勤めていた第一鋼業(株)では、構造用鋼の熱処理が減っていましたし、脆性温度域を使用して焼戻しする品物も少ないので、特別に要求される以外は、水冷するなどで、この温度域を急速に冷却することはほとんど行っていないのが実情です。
すなわち、この用語の意味や内容を知っているものの、あえて、それを意識した処理は行っていません。
昭和50年代には、これらの「脆性」について注意が喚起されていて、その温度を避けたり、急冷してその温度に停滞させないなどの熱処理のやり方がされていたのですが、現在の鉄鋼種はその頃の鋼材と違って、脱ガスや連続鋳造など製鋼技術の進歩で、当時とは比べ物にならないほど品位が向上しています。
つまり、脆性の原因と考えられる元素や介在物の量や偏析の程度は著しく改良されているので、昭和年代の鋼のように、この焼戻しにおける脆性があるのかどうかや、それによってじん性低下などの問題がどの程度あるのかはよくわかっていない状態です。
焼戻し脆性が紹介されている多くの文献は1970年代前後のものであり、その後の研究が進んでいるという話も聞きません。だから、もしも熱処理条件(熱処理方法)を指定されているのならば、それに対応しなければなりませんが、特に指定がなければ、普通は、構造用鋼の焼戻しの冷却は、普通は空冷で、時間短縮のために急冷することはあっても、特に考えていません。
第一鋼業では、様々な工具鋼の熱処理を行っていますが、工具鋼についても同様に、昭和年代には、社内の先輩からは、この脆性温度域を避けるということを指導されてきました。
しかし、実際の品物では、300~500℃の焼戻しで硬さを決めることがほとんどありませんでしたし、さらに、高硬さ品の機械試験を行うケースがほとんどないこともあって、この「脆性」については、懸念しているものの、よくわからない・・・というのが実情です。
さらに、高合金工具鋼などでは、この脆性温度域を急冷する・・・等の操作は行いません。基本は「すべて空冷」ですが、鋼種的に焼戻し時の冷却方法が指定されるものもあるものは、それにしたがって焼戻しするものの、冷却時の「割れや変形」を考えると、急激な温度変化はさせたくないのが本心なので、急冷は避けています。
いろいろな工具鋼のシャルピー衝撃値の試験結果を見ても、この温度域でシャルピー値が急変するものも特に見られません。(残留オーステナイトの影響のほうが大きいようです)
そうなると、この「脆性」という言葉の意味も理解しにくくなって、無視されがちです。
青熱脆性は、「低温焼戻し脆性」と混同されて説明されることも多いようです。(用語の意味は違います)
さらに、最近の技術資料にはこれら『脆性』の記事をほとんど見ませんから、社内熱処理従事者の多くも、脆性温度域の処理を意識して作業していないようです。
・・・ 以上の文章の内容は、技術的な説明になっていませんが、私としては、この「青熱脆性」という言葉は曖昧ですし、死語になってきているので、上の「用語の意味」だけを知っている程度にとどめておいていいと考えていますが、技術的に確認されることはない可能性も高く、もしも、品物が、脆性対策の必要があるならば、個別に仕様を取り交わして熱処理条件を決めれば、理由や解釈は別にして、熱処理上の問題になることはないように思っています。
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