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ズブ焼入れ           [s27]

これは熱処理業界の用語で、一般熱処理での「全体焼入れ」のことです。
反対語は、「表面焼入れ」「部分焼入れ」です。



構造用鋼などの焼入れに呼称されることが多く、品物全体を焼入れすることを「ズブ焼きをする」などと表現されています。

全体焼入れは、品物全体を加熱して急冷(水冷や油冷)をして硬化させることですが、全体が加熱されるので、質量の影響(質量効果)を受けやすく、高周波焼入れのように表面部分だけを加熱冷却する場合に比べて、表面の冷却が遅くなるので、例えば同じ棒径であれば表面の硬さが出にくいということもあります。

しかし、その反対に、全体焼入れでは内部に向かってなだらかに硬さが低下しますが、高周波焼入れでは、周波数で加熱深さ(硬化深さ)は決まるので、加熱深さ限度を超えた内部では急激に硬さが低下する境界ができます。
この特性を理解して熱処理方法を決めるといいでしょう。
焼入れの断面硬さ推移の模式図 焼入れ深さの模式図

構造用鋼で焼入れ性の高くない鋼種(たとえばS45C)を全体焼入れ(水焼入れ)をすると、質量効果により表面硬さと中心硬さの差が大きくでます。

さらに、それよりも品物が大きくなると、古いJISで示されていた調質硬さ(S45Cでは201~269HB)すら確保できなくなります。

「調質」は、品物内外の強度(硬さ)の差をなめらかにするために500℃以上の高温で焼戻しすることをいいますが、品物が大きくなるに連れて質量効果の影響で表面硬さの低下や表面と内部の硬さの差が発生します。

そのために、表面硬さを確保しようとすれば、当然、焼戻し温度を下げる必要があります。そうすると、さらに表面と内部の硬さの差が残ることから、こうなっては、本来の内外の機械的性質を均一にするための「調質」とは言えなくなります。



このことは、熱処理に精通してくるとわかってくるのですが、書籍などにはほとんど書いていないことです。しかし、品物の構造や強度を考える上では大切なことです。

これらのデーターが少ないのですが、SCM435の例を示します。
SCM435の質量効果を考えるための図
一般的には、硬さは表面硬さしか測定できないために、内部硬さがどうなのかは知りたい場合が多いのですが、しかし、これらのデータも少ないために、多くの鋼種の状態はほとんどは『わからない』という状況です。



それを推測する方法としては、熱処理の考え方では、ジョミニ試験から推測する方法、シミュレーションソフトを用いて、鋼材内部の冷却速度を計算で求めてCCT曲線にあてはめる方法、既知のUカーブなどから推測する方法など、いくつかあるのですが、残念ながら、結果に作用する要素(ファクター)が多くあって確度が低いものになってしまうことから、重要部品などの場合には、実機で焼入れをしたもので直接確認するほうが確実だという現状でしょう。

SCM435のジョミニ試験例

これは、SCM435のジョミニ焼入れ性試験の一例です。

JISでは、SCM435は油冷する鋼種ですが、この試験では水冷をしたものを各温度で焼戻ししたときの硬さ推移を示しています。

旧JISの調質硬さ(参考)は269-321HBでHRC換算では27-35HRCですので、この図で見ると、600-650℃程度で焼戻しをすれば表面硬さはその硬さになり、内部の硬さとの差も縮まって、調質の効果(強さとじん性の上昇)をえられることがわかります。

このジョミニー焼入れ性試験は、25mm丸棒の端面を水冷していることから、50mmの部分では水冷効果はないので、空冷での焼入れ直後は35HRC程度の硬さになっており、それが650℃の焼戻しで22HRC程度になっているのに対して、端面は55HRCのものが30HRCであることから、高温に焼戻しすることで内外の硬さの差が縮まっています。これが強さを均一化する「調質」の効果と言えます。

このように、焼入れ性の低い構造用鋼などの鋼種の強さ(硬さ)推定などにこのようなジョミニ試験のデータが活用できます。

【ひとりごと】熱処理は重要な技術項目です。しかし今や、ローテクの範疇になっていて、論文で公表される研究も少ない状況です。このようなデータは有用なのですが、これらは昭和40年代のデータで、その多くが失われつつあります。 熱処理工業会などが音頭をとってデータ集約ができればいいと思うのですが、それらをやるのも簡単ではありません。それもあって、このHPで使用している引用文献のほとんどは1960~70年代のもので、作成当時はすごい努力があって貴重なものですが、技術が消えていくのはなにか寂しいものです。




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