時間-温度変態図 : S曲線・TTT曲線 [s09]
TTT曲線、等温変態曲線、恒温変態曲線、S曲線ともいいます。
通常は、S曲線(えすきょくせん)と言われることが多いようです。
鋼を高温のオーステナイト状態から常温までの途中の温度に等温保持すると、パーライト、ソルバイト、ベイナイトなどに変態します。
そのときの保持した温度で変態する開始時間と終了時間を結んで作成された図がこの時間-温度変態図です。
下図のように、その形が「S」のようになっているためにS曲線とよばれます。

この図は約0.8%Cの共析鋼の時間-温度変態図(S曲線)で、550℃付近で左に張り出した部分をパーライトノーズといいます。
冷却中にこの線にかかると、やわらかいパーライト組織が生じます。
そのために、点線のように、焼入れ温度から冷却するときに、パーライトノーズにかからないように素早く冷却して500℃以下の温度で点線に沿って時間を保持すると、パーライトとは違った組織が出てきます。 これを「等温変態または恒温変態」といいます。
この図は熱処理の説明用に使われる特殊な図です
S曲線は、ある温度に一定時間おいた時の恒温変態組織を示すものなので、この図にあるような冷却中の経過や出現する組織や常温になったときの硬さなどはS曲線に加えられることもないのですが、これは、焼入れと変態を分かりやすくするための図です。
通常の焼入れでは、上図の点線のように、油冷や水冷などでMsと書かれているマルテンサイト変態をさせて硬い鋼を得る熱処理(焼入れ)をしますが、図のように、Ms温度より高い温度で保持すると、マルテンサイトとは異なったパーライトやベーナイト組織の鋼になることが説明されています。
この中で、パーラーとノーズ以下の温度で保持して恒温変態させると、強靭な鋼になるのですが、これがオーステンパーという熱処理です。
パーライトノーズ以下の温度に保持するのがポイントで、それ以上の温度では、パーライトという柔らかい組織になってしまいます。
また、パーライトノーズが長時間側(右側)によっている焼入れ性のよい鋼では、恒温変態させるために長時間が必要になるので、オーステンパーに適した鋼は①焼入れ時にパーライトノーズにかからない ②数分程度で恒温変態が完了する というような鋼が選ばれます。
その条件を決めるには、この時間―温度変態を使って温度と保持時間を考えて処理条件を決めます。
このようなS曲線に冷却線を書き入れた図は、しばしば、熱処理の説明のために用いられます。それは、
①焼入れ時に柔らかいパーライトを析出させない冷却
②恒温保持温度によって組織が変化すること
などを理解するために、この図を用いて説明されます。
しかし、この図は恒温変態図ですので、温度と時間における組織の状態を示しているだけで、冷却中の温度変化を表していません。
ただ、現実の熱処理では「硬さ」「組織」の状態がどのようになるのかを知りたい場合が多いので、この図の説明では無理があるのですが、説明しやすいために、この図を用いた説明をされることが多いのです。
むしろ、連続冷却変態曲線(CCT曲線)や焼入れ性に関する曲線(ジョミニ曲線、U曲線、半冷曲線)などのほうが現実的だと思うのですが、熱処理の説明では、ほとんど、このS曲線を用いて説明されることが多いようです。
この形がSの字のようになっているのでS曲線と呼ばれていますが、焼入れ性のいい高合金鋼では恒温に保持しても長時間かけても変態しないものもあったり、S字状にならないものも多いですが、これらもS曲線と呼びます。
下は、プロテリアル(旧:日立金属)のハンドブックから引用したS字状になっていないS曲線の例です。

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