残留応力について [s07]
「応力」とは、外力に対応する品物の内部からの反力を指します。 そして、残留応力とは、その外力を除去しても残っている応力のことをいいます。
焼入れなどによって強度(硬さ)が増す … ということは、外力に対する抵抗力(つまり、応力)を高めることをしているということです。
それは強度を高める目的で熱処理をするので当然ですが、ここで取り上げる「熱処理の残留応力」は、あまりいいように思われていないものです。
つまり、残留応力が変形や破壊などに及ぼす「悪いもの」として取り上げられることが多いようです。
残留応力は、大きく分けて、引張応力と圧縮応力などとして作用します。
一般的には、品物の表面部分に圧縮応力が加わっている状態が良いとされます。 例えば、表面部分だけを硬化させる高周波焼入れは、表面が圧縮残留応力状態になるので、回転軸などでは疲労強度は極端に向上します。
これとは反対に、引張応力はいろいろな悪影響があり、例えば、切り欠き部などに引張応力が集中すると、割れなどが起こるために良くない … などの説明をされます。
マクロ的な破壊は引張応力が原因
品物を焼入れして硬化すると体積膨張が起こることで、それによって応力が増加し、それが、品物の部位によって、引張力や圧縮力として働きます。
応力が均一に分布するような単純形状の品物では問題が起きることは少ないのですが、通常の品物の各所の形状や厚さなどが異なっているので、特定部分に引張力が集中する部分も出てきます。
その部分で、材料の持つ強度を上回ると、その部分から破壊する … とされます。
これはしばしば、形状的な応力集中によるマクロ的な破壊原因の例として説明されます。
熱処理で発生する脱炭は引張応力の原因に
焼入れ焼戻しで全体硬さが上昇すると、体積膨張して、全体的には圧縮応力が生じている状態になるのですが、複雑な形状では、応力の偏りが生じ、隅や奥まった部分では引張応力状態になる部分も出てきます。
鉄鋼の機械試験を考えるとわかるのですが、引張試験では材料が破断しますが、圧縮試験では、試験片が砕けてしまうことは稀です。
つまり、品物の破壊は引っ張り力やせん断力が影響するのですが、このために、引っ張り力は破壊につながるという考え方です。
品物の表面に引っ張り応力が生じる例で、「熱処理中の脱炭」があります。
熱処理中に品物の表面の鋼中の炭素分が減り、硬化しにくくなる現象が脱炭ですが、これが生じると、その部分の焼入れ硬化が不十分になり、品物の表面に引張応力が残留する状態になります。
すると、焼割れや使用中の破損が生じやすい … という説明がされることもあります。
応力は硬さの変化などで測定されて示されることもありますが、その他には、結晶粒の歪の程度をX線でで測定して、その大きさを残留応力値として数値で表示されることも多いようです。
ただ、品物の「割れ原因の調査」などで、破壊した後に品物を測定することもありますが、破壊によって応力の状態が変化してしまうので、破壊前の状態を知ることが難しいですし、また、破壊が応力状態によるものかどうかを特定することも簡単ではありません。
このような破壊の原因になる残留応力の集中を緩和するために、「鋭角部をなくす」「隅角部はRをつけてなめらかにする」・・・などの対策をつねに考えておく必要があります。
(来歴)R2.2 見直し R2.4 CSS変更 R7.9月に見直し













