レーザー熱処理について [r09]
レーザーを利用して加熱する熱処理をレーザー熱処理とよんでいます。
現在の主流は焼入れのための急速表面加熱で用いられており、同様に急速加熱する高周波や電子ビームを用いる方法を含めて、「急加熱→自己冷却」で表面焼入れをする方法は衝撃焼入れと呼ばれることもあります。
レーザーを用いる場合では、たとえば、1~5KW以上の高出力レーザー光を照射して加熱すると、その表面部が急速に加熱されます。
照射部分からレーザー光を移動させてレーザー光が当たらなくなった表層部分は、品物の伝導によって熱が奪われて、急速に冷却されることで焼入れした状態と同じになります。
このように、微小部分の表面熱処理の一種として利用されるようになった、比較的新しい熱処理技術です。
表面部分を加熱する方法では、現在、最も広く行われているのは、高周波焼入れで、コイルに高周波電流を流して誘導加熱する方法に対して、このレーザーを利用する方法は、レーザービームが届けば加熱できて、焼入れが可能なために、高周波焼入れのように、形状に合うコイルを必要としないという利点がありますが、加熱範囲が小さいために、高周波焼入れよりも用途は限定されます。
また、高周波焼入れでは、周波数を選ぶことで、硬化深度は1~5mm程度とレーザー焼入れよりも深い焼入れができますし、ポリマー水溶液で冷却しながら焼入れしますので、レーザー加熱と違って、広範囲で確実に硬化させることができます。
これに対してレーザー焼入れは、硬化深度はミクロン単位で示される深さ程度なので、鋭利な刃物の先端などの限定した用途になります。
レーザー焼入れは、瞬時に加熱して、品物の熱伝導で自己冷却する方法で、ほとんどの場合は特別の冷却はとりません。 そして、熱処理操作は焼入れだけで完結して、焼戻しなどの工程は取らない場合が多いようです。
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レーザー焼入れの場合の焼戻しはほとんどされておらず、なぜ焼戻しをしないのかということについて、あまり詳しい資料を見たことがありません。
ある意味で、焼入れされた組織や硬さなどの状態がどうなっているかなどはどうでもいいことで、例えば、剃刀の刃のようなものであれば、ほかの焼き入れ方法よりも焼入れ変形が小さくて、長い間使用できればいい … という基準で製品に適用できるということでしょう。
このように、高周波を用いる衝撃焼入れや電子ビーム、レーザーなどの高エネルギーを利用した微小部分の焼入れなどでも同様に、焼戻しをしないで製品化されているものは少なくありません。
この「焼戻しなし」については、焼戻しをすると、変形などのデメリットが出るために行われていないということかもしれませんし、焼入れ層がごく薄く、それを均一に焼戻しす方法がないか、または、特に、焼戻しの効果がない … などの理由などがあるのかもしれませんが、それよりも、この処理だけで、耐摩耗性などの一定の焼入れ効果が得られているので、そこまで多岐に検討されていないような気がします。
これは変な気もしますが、全体焼入れや高周波焼入れなどに実施される「焼戻し」は、焼戻しをしないよりもしたほうが、いろいろな面で特性にすぐれているために「焼戻しは必要 … 」 とされているだけのことだと考えれば、このようなやり方も、一つの熱処理法と言えるでしょう。
だからもちろん、これらの新しい熱処理でも、焼戻しの可否や焼戻し技術も研究されていくでしょうし、レーザー焼入れ自体が新しい加工技術ですので、いろいろなことがわかってくるのには時間がかかりますが、発展状態といえるのかもしれません。
熱処理の考え方からすれば、レーザー焼入れなどで得られる焼き入れ部分の硬さについては、高周波焼入れなどの表面熱処理と同様で、炭素鋼や低合金鋼では炭素量に依存した硬さが得られます。 しかし、瞬間加熱なので、加熱状態のコントロールも難しいので、一般の焼入れの組織や硬さとは同じではないでしょうし、また、焼入れ状態の良否の確認も簡単ではありません。
つまり、S45C 程度の炭素量でも、刃物として使用できる充分な硬さになるはずですが、非常に短時間の高エネルギー加熱で加熱温度のコントロールも難しいために、残留オーステナイトが多くなっているかもしれませんから、鋼種の選定も大変で、高合金鋼にすると、合金の溶け込み不足で十分な硬さが入らない場合なども出るので、充分に実験をするなどで、適用条件を決める必要が出てきます。
もちろん、微小な硬化部分ですから、硬さ測定も簡単ではないですし、焼入れ状態の評価も特殊な方法をとるなど大変ですが、今後は、レーザーなどを使った微小部分の焼入れは、特定製品の熱処理方法として広く利用されていくでしょう。
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