熱処理の用語 [n15]
熱処理用語についてはJISに定められていますので、それを用いるようにすると間違いが起こりません。
熱処理関係のJISは、1960年代の熱処理工業会のJHS規格などが基準になっていて、制定された当時の現場の都合もあったのか、かなり特殊な表現や死語になってしまっているものも残っています。
よく話題になる例ですが、「焼入れ・焼戻し、焼なまし」なども、ワープロで打つと 「焼き入れ、焼き戻し、焼きなまし」というように、JISとは違った変換がされてしまうのですが、当面はこれらの表現は変わらないでしょうし、改定される可能性もないようです。
さらに、現在でも、鋼材関係や熱処理業界では、特有の業界用語が使われています。
例えば、焼入れのことをマルエッチ、焼ならしをマルエヌ・・・と言うなどは、普段の取引や会社内でもしばしば耳にします。
それらの少し特殊なものの一部を紹介します。
【熱処理で使用される単位】
現在は、「SI単位系」に沿って単位を表示しなければならないのですが、まだまだメートル法時代の[cgs単位系]が根付いています。
熱処理に関係する基本単位は、 「長さ」「質量」「温度」「電流」「時間」程度ですが、そのうち、未だに、質量ではなく、当然のように「重量」ですし、温度はK(ケルビン)ではなく「℃」が使用されています。
さらに、例えば、焼き戻し硬さを比較するために、500℃付近の温度をよく使うために、 「500℃、525℃、550℃」で試験結果を表示するものなどが多いのですが、現実的にはそれが便利なのはたしかですが、熱処理文献などでは、「773K、798K、823K」と表示されるようになってきています。
それを 「750K、775K、800K」という「キリのいい温度」に変えてもいいと思うのですが、まだまだなのでしょう。
熱処理設備のほとんどが未だに「℃」ですので、 当分は、773というような「見にくくて変な表記温度」はなくならないのかもしれませんが、過去に、尺貫法からメートル法になったときは、かなり短期間で変更されましたし、光速(光の速さ)の基準がメートル原器から波長の長さ、光の秒速・・・とどんどん変わっても、それが受け入れられているのですから、SI単位系に変わらないのは、「熱処理関係者の姿勢」の問題かもしれません。
熱処理業界はかなり頭が硬いのでしょうか?・・・というよりも、今でも現場で息づいているという「使いやすさ」なのでしょうか。
PR【業界用語】
丸棒鋼のJISに「熱間圧延丸棒鋼」というのがあります。
これに関する業界用語で、メーカーで丸棒鋼に圧延されたものを 「アズロール材(AS-role)」、メーカーが出荷するまでに、ある程度の強度に熱処理(調質)されたものを 「メーカーマルエッチ材」、 焼きならし済みのものを「メーカーマルエヌ品」などと呼ばれます。
当社の熱処理現場では世代交代が進んでいますので、次第に影を潜めつつありますが、焼入れしたままの状態の品物を「アズキュウ(AS-Q)」調質することを「マルエッチする」といった会話が交わされています。
JISの加工記号で、焼なまし=HA ・焼ならし=HNR ・焼入焼戻し=HQ-HT と表記されますので、これらの業界用語も、お客さんを含めた関係者の間では、何の違和感もなく通用しているようですが、 真面目くさった顔で、 「マルエッチする」 「エッチする」と言っているのは「焼入れする」という意味ですが、初めて聞く人には、不穏な感じがすると思うのですが、当事者は「知らぬ顔」なのが面白いです。
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(来歴)R2.1 見直し R2.4 CSS変更 最終確認R6.1月