無芯焼入れ(むしん~) [m12]
中心部まで硬化した品物にする焼入れのことです。
その反対語は「有芯焼入れ」ですが、これら、無芯焼入れも有芯焼入れも、普段聞くことも使用することもない、ほとんど死語になってしまった言葉のように思います。
JIS用語の解説では、無心焼入れを「ずぶ焼入れ」と説明されています。
つまり、無芯・有芯という文字には無関係の「部分焼入れ」「表面焼入れ」などに対応する「全体焼入れ」という意味あいのようです。
むしろ、有芯・無芯とは関係ないなら、用語解説から消してしまって、「ずぶ焼入れ=全体焼入れ」だけを残しておいたほうがわかりやすいと思っています。
「ズブのシロウト」は「全くの素人」という意味ですし、「ずぶ濡れ」という言葉には「全体が濡れる」という感じなので、「ずぶ焼入れ=全体焼入れ」は何となく分かリますが、それを無芯焼入れと言われると違和感があります。
だから、もしもお客さんから「無芯焼入れしてください」言われた場合は、それはどういう意味なのかをきっちりと確認したほうが良さそうですね。
この有芯・無芯という熱処理用語は、中心に硬い芯があるような意味合いがあるので、意味を取り違えそうなので気をつけたほうがいいですね。
死語になってもいい理由
この図は棒径が違うSCM435を焼入れしたままと焼戻ししたときの断面硬さを示していますが、SCM435を油焼入れした場合の理想臨界直径(簡単にいえば、中心部まで硬さの入る最大直径のこと)は60mmとされているのですが、この図で見ると、明らかに内部の硬さは低下しています。
つまり、断面が同一硬さという意味での無芯焼入れ状態にするのは難しいことなのです。
PR熱処理現場では「これは芯まで焼きが入らない・・・」という言葉はよく聞きます。
焼入れした際に中心まで焼きが入るかどうかは、鋼材成分や大きさ、熱処理の条件などによるものですし、無芯・有芯のどちらがいいという問題でもありませんし、また何よりも、普通は、硬さの確認は品物の表面硬さの測定しかできないので、中心の硬さを測れないのに内部の状態について要求されても確認のしようがありません。
本来無心焼入れになるものを、あえて有心状態にするのも大変ですし、その逆もやってできるというものでもありません。
わかりにくい言葉は使わないのがよく、この無芯焼入れもまさにわかりにくい言葉ですので、消えたほうがいいと思っています。
中心部の硬さや状態を推定するのも難しい
焼入れ硬化の状態は、「Uカーブ」や「ジョミニ試験」などのデータがあれば推定はできるし、シミュレーションソフトを使ってわかりそうだ・・・と考える方もおられるかもしれません。
しかし、鋼種別のUカーブはほとんど揃っていない状況ですし、ジョミニやシミュレーションで推定できる・・・とはいうものの、焼入れ性に影響する要素も多いので、そんなに精度は望めません。
このように、熱処理はかんたんなことでも、まだまだ、わからないことはたくさんある状態です。
さらに、このHPに示すデータの多くは1970年以前のものが多く、それ以降はあまりデータが表に出てくることはありませんので、推定するという作業は大切になります。
PR
(来歴)R2.1 見直し R2.4 CSS変更 最終確認R6.1月